映画初主演の平泉成、58歳差の相手役は「素敵だった。泣いた顔なんて最高ですよね」

平泉成 撮影/三浦龍司、ヘアメイク/石下谷陽平

役者生活60年目にして、初めて映画に主演する平泉成さん、80歳。日本を代表する名バイプレイヤーとして、昭和・平成・令和で常に第一線で活躍し続ける平泉さんには、いくつものTHE CHANGEがあった。【第1回/全5回】

「ちょっと待ってね。今日聞かれそうなことの答え、忘れないように書いてきたから」

柔らかそうな生地のジャケットの懐から、ミニサイズのキャンパスノートを取り出すのは、6月2日に80歳を迎えた平泉成さん。流れるような黒い文字を、目を細め眼鏡越しに確認する。

「今回、映画に初主演しましたが、どんな心持ちで演じましたか?」と質問すると、開いたノートを読むそぶりなく「主人公・鮫島の考え方とか、言葉少ないキャラクターだったりとか、自分と重なるところがいくつもあって、とてもやりやすかったです。きっと僕へあてがきしてくれたんでしょう。秋山監督、シナリオライターの中井さんには感謝しかないですね」とゆっくり話しはじめた。

平泉さんといえば、“日本を代表するバイプレイヤー”という揺るぎない冠で語られてきた名優だ。1964年、大映フレッシュフェイスのひとりとしてデビューすると、2024年の現在にいたるまでの60年間、さまざまな役を演じてきた。そんな平泉さんの元に、“主演”のオファーが舞い込んだのは、80歳目前のこと。

初めての主演への思い

6月7日公開の映画『明日を綴る写真館』で、町のさびれた写真館を営むベテランカメラマンを演じることとなった。共演者には、平泉さんの“初めて”を盛り上げるように、佐藤浩市さん、吉瀬美智子さん、高橋克典さん、田中健さん、美保純さん、赤井英和さん、黒木瞳さん、市毛良枝さんら錚々たる俳優が名を連ねる。

「撮影監督の百束尚浩くんをはじめスタッフのみなさんはもちろん、今回ご参加いただいた共演者のすべてのみなさんに感謝しています。ほんとうにいいチームワークで、こんなに楽しい現場を経験したことは60年で初めてでした。

若いころは“主役をやりたい“とか“次は自分の番かな”と思いをはせておりました。でも仕事が忙しくなってからはそんな思いもどこに行ったのか、いつしかなくなってしまいました。ですから、昨年この作品でお声がけいただき、果たして自分にできるものかどうかでひとまず脚本を読ませていただくことになりました。

とても素晴らしい内容で、僕好みの脚本でもありましたのでこれはぜひやらせていただこうと思いましたね」

前述のとおり、役柄はカメラマン。日々カメラを持ち歩くなど写真撮影を趣味としている平泉さん自身とリンクすることも、後押しとなった。

「映画のテーマに“想い残し”みたいなことがありますけど、僕自身が”一度も映画の主役をやらないまま終わっていく役者人生”だと思ったとき、これで自分の中での“想い残し”がひとつ解決できたかな」

物語は、平泉さん演じる無口で昔気質なカメラマン・鮫島と、都会で華やかな仕事をしつつも心の動く撮影ができずに思い悩む、新進気鋭のカメラマン・太一が出会い、太一が鮫島の写真に心奪われたことから動き出す。

「あの若さですごいな、と」

平泉さんの相手役となる若手カメラマン役は、今年5月15日にCDデビューを果たしたばかりのAぇ! group佐野晶哉さんで、現在22歳。平泉さんとの年齢差は58歳だ。

ーー作中では、ベテランカメラマンが若者に道を示すという役割もありましたが、現場でも平泉さんが佐野さんにアドバイスすることはありましたか?

「一切ありません。佐野くんはとても豊かな感性の持ち主で、新進気鋭のカメラマン・五十嵐太一役を見事に演じきっていました。台本でもそうであったように、友達のようないい関係で一緒の仕事を通じ、お互いが成長するみたいな役柄ですので、何かをアドバイスみたいなことはなかったです」

ーーお互いにリスペクトし合いながら演じたのですね。

「そう思います。佐野くんは静かで誠実で、礼儀正しくて、ステキですよね。僕はいつもいろんなドラマで“受け手の芝居”をするんですけど、今回の芝居は僕のペースの芝居をしっかり受けとめてくれるんです。あの若さですごいな、と感心させられましたね」

ーー年齢差を感じさせないくらいの安心感があったんですね。

「すばらしかったですね。チャーミングだしね。彼の泣いた顔なんか最高ですよね。ステキだったなあ。あれは、佐野くんじゃなきゃ出せない味だろうしね……と、この映画を若い人も楽しんで観てくれたら、いいなと思うけどね」

包み込むような、優しい視線を若い共演者に向ける平泉さん。60年間、第一線で活躍し続けた証となるあたたかな人柄が、そこにはにじみ出ていた。

平泉成 撮影/三浦龍司

ひらいずみ・せい
1944年6月2日生まれ、愛知県岡崎市出身。高校卒業後、ホテルに就職。大映フレッシュフェイスに応募、1964年第4期ニューフェイスに選ばれる。その後、大映作品に出演、1966年『酔いどれ博士』で映画デビュー。1971年の大映倒産とともに活動の場をテレビドラマに移行。1984年から現在の芸名“平泉成“に改名。以降、作中で存在感を放つバイプレイヤーとして名を馳せる。その特徴的な声と唯一無二の人間味が、多くの人にものまねされることになり、世代を超えて支持されている。

© 株式会社双葉社