世界に先駆けて日本で発売された ミトコンドリアに作用する糖尿病新薬の評判

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検査値を下げられても、その先の病気の発症を抑えられるかはわからない。かつてはそんな薬がたくさんあった。しかし、いまは最終目標を達成しない薬は評価されない。糖尿病は動脈硬化の進行を促し、将来的に心筋梗塞などの心臓病のリスクを高めることがわかっている。そのため、最近発売される糖尿病新薬は単に血糖値を抑えるだけでなく、心臓病の予防効果に関するエビデンスの有無が重要になりつつある。そこで気になるのが、世界に先駆けて日本で製造販売が承認された、2型糖尿病の飲み薬「イメグリミン」(商品名:ツイミーグ)だ。今年6月で承認から丸3年を迎えるが、臨床現場での評価はどうなのか? 糖尿病専門医である「しんクリニック」(東京・蒲田)の辛浩基院長に聞いた。

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「この薬は、海外の製薬会社が作った新たな化合物の薬を、日本の製薬会社が国内開発・販売権を獲得することで世に出した2型糖尿病治療薬です。細胞内でエネルギーを作るミトコンドリアを刺激することで、インスリンを分泌する膵β細胞を働かせる一方で、骨格筋の血糖の取り込みを改善したり肝臓での糖新生の抑制をするなどして、血糖値を低下させます。臨床試験では、単独でも他の血糖降下剤との併用でも効果が確認されています」

イメグリミンの有効性や安全性に関する臨床試験はTIMES(Trials of I Meglimin for Efficacy and Safety)と名づけられた臨床プログラムで検討されている。

「その中でも重要な臨床試験が『TIMES 1』です。これは20歳以上で2型糖尿病を患う日本人213人(HbA1cが7~10%)を対象とした二重盲検ランダム化比較試験で、被験者はイメグリミン1000ミリグラムを1日2回経口投与する群と、偽薬を投与する群にランダム化され、24週後の平均HbA1c変化が比較されました。その結果、イメグリミン群の変化量は偽薬群と比較してマイナス0.87%となり、有効性が確認されたのです」

他の血糖降下薬を併用した場合の安全性については、同薬の第3相臨床試験プログラムである「TIMES 2」試験で検討されている。

このプログラムでは2型糖尿病を患う日本人714人を対象とした二重盲検ランダム化比較試験が行われ、被験者はイメグリミン1000ミリグラムを単独または併用療法(α-グルコシダーゼ阻害剤、ビグアニド、DPP-4阻害薬、グリニド、GLP-1、ナトリウム・グルコース共輸送体<SGLT>2阻害薬、スルホニル尿素、チアゾリジンジオン)として52週間、1日2回経口投与された。52週目に、HbA1cはイメグリミン単剤療法で0.46%、イメグリミンの経口併用療法で0.56~0.92%、GLP1-RA注射療法で0.12%減少した。DPP-4とイメグリミンの併用で最大の正味HbA1c減少(0.92%)となった。この結果、同試験では「イメグリミンは日本人の2型糖尿病患者において、単剤ならびに併用のいずれにおいても忍容性(薬の副作用の程度を表したもの)が高く、長期にわたる安全性、有効性を示した」と結論付けている。

■新たなメリットが発見される可能性も

「イメグリミンで気になるのは、有効性検証が現時点で血糖値を抑えることにとどまっており、心臓病などの心血管イベントに与える影響が不明な点です。米国政府が運営する世界最大の医学図書館『National Library of Medicine』に登録されている臨床試験を調べてみても、いまのところ心臓病リスクを検討した二重盲検比較試験は行われていないようです。糖尿病治療薬においてはこのところ心臓病の予防効果に関するエビデンスが重要となりつつあります。しかし、イメグリミンにはそのようなエビデンスがなく、今後も報告される可能性が低いと思われます」

そもそもイメグリミンは日本以外での販売実績がないようで、世界的にも使用されていない薬剤なので、今後もエビデンスが出てくる可能性が低いと思われるという。

その点、心臓病や腎臓病の予防効果について質の良い研究結果が示されている、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬に比べると注目度は低くならざるを得ない。

「ただし、イメグリミンと化学式が似ているメトホルミンも、循環器疾患の死亡率を抑えるという有効性が分かるまで長い時間がかかりました。ミトコンドリアを介して血糖値を抑えるという新しい薬理作用を持つイメグリミンも、いつ、いまは予想すらされない新たな効果が証明されるかわかりません。その意味ではやはり注目しておくべき薬剤だとは思います」

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