売り手市場に企業はどう対応する?オファー殺到の「超優秀人材」を獲得するためのテクニック【人材紹介のプロが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

圧倒的な人手不足から、企業側よりも求職者の方が立場が強くなってきたといえるのが現在の転職市場です。こうした売り手市場の中、オファーする企業側はどのような視点・距離をもって求職者と向き合えば良い結果をつかむことができるのでしょうか。本記事では、東京エグゼクティブ・サーチの代表取締役社長・福留拓人氏が、企業側が求職者に上手にオファーするにポイントについて解説します。

求職者が有利な転職市場…企業はこの事態をどう乗り越える?

転職市場は大変な状況になってきました。企業と個人は利害関係が反対になりやすいので、「求職者が有利」ということは、逆から見ると「企業側が不利」という状況になります。

誰もが憧れる超ブランド企業の採用であれば、横綱相撲を取れる場合もあるかもしれません。しかし、そういう会社でさえ新興のスタートアップ企業に脅かされることもありますし、油断できない状況になってきています。そもそも、そのようなブランド企業はごく一握りですし、大半の企業は今後も難しい状況が続くものと思われます。

では、企業はこの事態をどう乗り越えていけばよいのでしょうか。労働市場に劇的かつ抜本的な変化がない限り、環境が自動的に良くなったり変化したりすることはありません。そのなかで対処療法を取らざるを得ないことになります。

ひとつあるとすれば、これまで求職者の方にアドバイスしたこととまったく逆のことをしなさいということになります。すなわち「先頭グループや最後方で選考しない」「求職者のペースに巻き込まれない」ということ。これが今後の転職市場で有効なテクニックになってくると思います。

具体的にご紹介しましょう。ある企業がAさんという大変優秀な候補者を採用面接で選考のテーブルに上げているとします。その案件を紹介してくれたエージェントからのコメントによれば、Aさんは客観的に見ても非常に優秀で、将来性があり、多くの企業から「ぜひうちに」という申し出が殺到していて、次々と際限なく企業の手が挙がるという状態でした。

しかし、体はひとつしかありません。最終的にAさんを獲得できるのは言うまでもなく1社のみです。それ以外は全部のプロセスが無駄に終わるわけです。しかもAさんの本音、本心はいまだわかりません。選考には誠実な態度で臨んでくれますが、本当のところは定かではないということです。

先手必勝がセオリーだったが、いまは2番手・3番手が有利

では、企業が上手なオファーを出すためには何が重要なのでしょう。これには、いろいろな考え方があります。たとえば、先手必勝で一番にオファーを出して「ぜひ来ていただきたい」と熱心にアピールする。これは伝統的な正攻法です。孫子の兵法にもあるように、絶対的に優勢でないのであれば先手必勝が良策だとむかしから言われています。他社と比べて圧倒的な優勢であるとわからないのであれば先手必勝、これはセオリーです。

しかし、オファーを早く出した先頭グループはダシに使われて、おそらく選んでもらえない確率が高いでしょう。というのも、今の状況では、待てば待つだけ次々に立候補する企業が現れるわけです。Aさんの立場から見れば大本命の本当に行きたい1社を除けば、早く決断するメリットはほとんどありません。

一番有利に働くのは、2番手から3番手グループに位置する企業です。先手、先頭に行く企業は出したオファーを基準値と受け取られ、他社との交渉にそのレターが使われてしまいます。その一方で5番手、6番手まで行ってしまうと、今度は位置が後方に下がってしまいます。

ここで気をつけたいのは、「転職活動疲れ」というものがあることです。Aさんは高い評価を受け、よいオファーを受取っているので、活動自体はむしろストレスより心地よさを感じているかもしれません。

とはいえ、貴重な時間を割いて選考にエネルギーを注ぐと、一定期間の活動では疲労が蓄積するものなのです。企業と違って個人は長期間の面接に際限なく時間を投入できるわけではありません。ただでさえ「辞めたい」ということで活動しているのですから、現職に留まる時間を短くなることもメリットとなります。

すなわち、転職活動にも限界があるのです。したがって位置が後方に下がり過ぎていると、順番が回って来るまでに終わってしまうという可能性もゼロではありません。よほど横綱相撲が取れる企業でなければおすすめできません。

良いポジションをキープして選考をコントロールする

そういうわけで、2番手から3番手グループが浮上してくるのです。わかりやすく説明すると、まず先頭でオファーを出した企業の条件をヒアリングして、その内容より優れたオファーを出せるポジショニングに自社をコントロールすることです。

最近、TESCOで統計を取りましたが、選考が先頭で推移した場合、その決定率は10%を切っていました。そして2番手から3番手グループが内定受諾の実に70%を占めているというデータが示されました。「他はおいくら」と提示された後に「うちはそれに若干プラスします」と言うことがどれほど有利かわかるでしょう。先頭は常に偏差値の50になってしまいます。ですから50以上のオファーの枠に入るには、先頭だと不利になってしまいやすいのです。

しかし、後方だと先ほど指摘したように「差し」や「追い込み」が届かずにゴール板を通過してしまいやすいわけです。よって差せるポジション、追い込みができるポジションにいることが大切です。

ということで、先頭はご縁があればトントン拍子で進むので、勢いで行けるような気がするのですが、オファーのところで行き過ぎてしまい、いまお話ししたような状況になりかねません。そのため、進み過ぎているなと思ったら懇親を深める会食の場を意図的にやや遅めに設定して、選考の速度を他の企業よりやや抑えめにする。そういったテクニカルなことをして飛び出し過ぎないようにコントロールすることも、これから人事担当者には求められてくるのではないでしょうか。

整理すると、大本命、超ブランド、そういった企業でないのであれば、一番手と最後方に位置するのは確度を下げやすくなります。他社のオファーを見ながら後出しでベターな手を打てる、そういった状況に選考をコントロールしておくこと。これをテクニックのひとつとしてご検討されてはいかがでしょうか。

福留 拓人
東京エグゼクティブ・サーチ株式会社

代表取締役社長

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