仕事で悩む若者は適応障害なのか 【第4回】多彩な精神症状が出現…「適応障害」とはいったいなんなのか

第2章 適応障害についての主な説明

第1章の若者のように、職場に行くのがつらく憂うつな気分になり、緊張や不安、不眠、食欲不振、そして出勤時の腹痛や下痢、めまい、吐き気その他もろもろの症状を呈しメンタルクリニックを訪れると、「抑うつ障害」もしくは「適応障害」という病名(障害名)をいただきます。

これもどうも微妙な話で、「抑うつ障害」とすると、抑うつ的であることは明らかですが、どうも一般的なうつ状態と違い、仕事という特定できるストレスがあり、まず身体症状を訴えます。

「抑うつ障害」にも身体症状の訴えはあり、体が重い、だるい、胸が苦しい、頭が痛いなどが多いですが、彼らは腹痛や下痢や吐き気やめまいがあって仕事に行けない、いわば機能的な訴えをします。そのためか「適応障害」と診断されることも多いと思います。

では具体的な話に入る前に、「適応障害」はどのように説明されているか、主なものを少し見てみましょう。

▽厚生労働省「みんなのメンタルヘルス」

精神的な病気で、これはどういうものだろうと思った時、厚生労働省のネットを開いてみるかもしれません。厚生労働省には「みんなのメンタルヘルス」というサイトがあり(https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/)その中に「こころの病気を知る」というページがあります。

現在は12の病名(障害名)について説明があります(依存症、うつ病、強迫性障害、摂食障害、双極性障害(躁うつ病)、てんかん、統合失調症、認知症、パーソナリティ障害、発達障害、パニック障害・不安障害、PTSD)。

昨年までは、解離性障害、睡眠障害、適応障害も載っていましたが、いろいろ検討された結果削除されたのだと思います。生きている人間や社会のことなので、当然ながら病名(障害名)の概念や規定も流動的です。参考までに昨年までの適応障害の説明を載せさせていただくと、次のように書かれていました。

適応障害

適応障害は、ある特定の状況や出来事が、その人にとってとてもつらく耐え難く感じられ、そのために気分や行動面に症状が現れるものです。たとえば憂うつな気分や不安感が強くなるため、涙もろくなったり、過度に心配したり、神経が過敏になったりします。

また、無断欠勤や無謀な運転、喧嘩、物を壊すなどの行動面の症状がみられることもあります。ストレスとなる状況や出来事がはっきりしているので、その原因から離れると、症状は次第に改善します。でもストレス因から離れられない、取り除けない状況では、症状が慢性化することもあります。

削除された経緯はわかりませんが、このように理解されていたということになります。
▽IⅭⅮ‐10(国際疾病分類 International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems 第10版 )

IⅭⅮ‐10は疾病がコード化されるようになっており、現在保険診療請求時にもこのコードで請求することになっているので、保険診療の対象の病名(障害名)が網羅されていると考えてほぼ間違いではないと思います。その中で適応障害は、「神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害」のグループの「重度のストレス反応および適応障害」に、急性ストレス反応、心的外傷後ストレス反応とともに記載されています。ここでは次のように説明されています。

適応障害 Adjustment disorders

主観的な苦悩と情緒障害の状態であり、通常社会的な機能と行為を妨げ、重大な生活の変化に対して、あるいはストレス性の生活上の出来事(重篤な身体疾患の存在あるいはその可能性も含む)の結果に対し順応が生じる時期に発生する。

ストレス因は(死別、分離体験によって)個人の人間関係網が乱されたり、あるいは社会的援助や価値のより広範な体系を侵したり(移住、亡命)することがある。ストレス因は個人ばかりでなく、その集団あるいは地域社会を巻き込むこともある。

…(中略)…症状は多彩であり、抑うつ気分、不安、心配(あるいはこれらの混合)、現状の中で対処し、計画したり続けることができないという感じ、および日課の遂行が少なからず障害されることが含まれる。…(中略)…発症は通常ストレス性の出来事、あるいは生活の変化が生じてか1カ月以内であり、症状の持続は蔓延性抑うつ反応の場合を除いて6カ月を超えない。

▽ⅮSM‐5(精神疾患の診断・統計マニュアル Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders 第5版)

次に欠かせないのがDSMになりますが、これはアメリカ精神医学会から出された『精神疾患の診断・統計マニュアル』で第5版ということになります。マニュアルなので少し操作的なところもありますが、その疾患の分類はほぼICDと呼応しています。適応障害は「心的外傷およびストレス因関連障害群」の中にあり、要約しますと次のように説明されています。

適応障害 Adjustment Disorders

はっきりと確認できるストレス因に反応して、そのストレス因の始まりから3カ月以内に情動面または行動面の症状が出現…(中略)…そのストレス因に不釣り合いな程度や強度を持つ著しい苦痛、社会的、職業的、またはほかの重要な領域における機能の重大な障害…(中略)…そのストレス因、またその結果がひとたび終結すると、症状がその後6カ月以上持続することはない。

これらをまとめますと、適応障害は、何らかの特定できる生活上の重大なストレス(死別などの分離体験、移住、亡命、がんなどの重篤的な疾患など)によって起こる多彩な精神症状であり、それらに見舞われ、比較的早期1~3カ月に出現し、ストレス状況がおさまると6カ月以上は持続しないもの、ということになります。(蛇足ですが、大きなくくりでⅠCDは「ストレス関連障害」で、DSMは「ストレス因関連障害群」です。「因」のあるなしは表記のままです)


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※本記事は、2022年9月刊行の書籍『仕事で悩む若者は適応障害なのか』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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