年収はそのままで「社会保険料」だけ削減!?…手取りの給与額を増やす“節税テクニック”【税理士・公認会計士が伝授】

(※写真はイメージです/PIXTA)

経営者にとって頭を悩ませる問題のひとつに、「社会保険料」があります。企業の社会保障負担は年々増えており、特に創業したばかりの中小企業にとっては、なるべく負担を減らしたいところです。そこで、税理士法人グランサーズの共同代表で税理士・公認会計士の黒瀧泰介氏が、経営者も従業員も得をする「社会保険料の削減方法」を紹介します。

経営者を悩ます「社会保険料」…削減する方法はある?

――クロさん、突然ですけど、社会保険料って従業員側も会社側もめちゃくちゃ影響あるじゃないですか。

黒瀧氏(以下、黒)「社会保険料は労使折半ですから、下がると社員はもちろん、会社も得できますね」

――この社会保険料を大幅に削減する方法があるって本当ですか?

黒「はい、ありますよ。社会保険料の支払いに頭を悩ませている社長さんや、これから法人化を考えている方まで、必見の内容です。今日は社会保険料を削減する方法を5つご紹介します」

2015年度は25.7兆円…企業の社会保障負担は増えている

黒「社会保険料の負担って大きいですよね。データで見ても、企業の社会保障負担は2000年度の19.1兆円から、2015年度には25.7兆円程度まで膨らんでいます。

また、社会保険料として、給与の約30%の金額を会社と従業員で折半して(約15%ずつ)負担しています」

――形としては折半とはいえ、結局オーナー社長からすると30%を負担していることになるので、本当に頭が痛いです。法人化すると一人社長の会社でも強制加入ですし、創業期とか特にキツイですよね。

65歳以降も働く経営者は、年金の一部または全額が支給停止になるケースも

黒「さらに頭の痛い話をすると、『在職老齢年金制度』というものもあります。

老齢厚生年金は、原則65歳以上になると支給されますが、経営者として65歳を超えても働いていて一定以上の役員報酬をもらっていると、老齢厚生年金の一部または全額が、支給停止になるんです」

――停止になっている人って多いんですか?

黒「はい、結構いらっしゃいます」

――社会保険料払ったのに貰えないなんて、ちょっとモヤモヤしますね。

黒「こういった背景もあって、社会保険料の『適正化』に関心が集まっているようです」

必見!社会保険料を削減する「5つ」の方法

――それでは早速、中小企業が社会保険料を削減する方法を教えてください!

1.「退職金」の活用

黒「はい。1つ目は退職金の活用です」

――退職金がなぜ社会保険料削減につながるんですか?

黒「社会保険料の対象になるのは、給与、賞与、手当などですが、退職金は対象外です。つまり、退職金には社会保険料がかからないので、これを活用します。

具体的には、『賞与の一部を削減して退職金に上乗せする』という方法があります。ボーナスの一部を減らして、その分退職金の原資として積み立てすれば、社会保険料を削減することができます。

また、別の方法として、『毎月の給与のなかから少しずつ減らして、退職金に上乗せする』というものもあります。たとえば、給与のうち2~3万円を退職金の積み立てに回すことで標準報酬月額の等級が下がれば、社会保険料を削減することができるのです」

――なるほど。理屈はわかりますが、従業員側としては手取りが減るし、不満が出ませんか?

黒「退職金への課税は、分離課税・退職所得控除・2分の1課税が適用になることで、給与・賞与で受け取るより手残りが多くなります。長い目で考えるとトクになることをきちんと説明し、理解してもらう必要がありますね」

2.「協会けんぽ」から「組合健保」に切り替える

黒「2つ目は、国が運営している『協会けんぽ』から、業界団体などが運営している組合管掌(かんしょう)健康保険、通称『組合健保」に切り替える』という方法です」

――実は僕の会社でも以前、「協会けんぽ」から「関東ITソフトウェア健康保険組合」(通称:IT健保)に切り替えたんですよね。

[図表1]協会けんぽと当健康保険組合との保険料率の比較(令和4年4月から) 出典:関東ITソフトウェア健康保険組合

黒「そうなんですね! [図表1]のとおり、協会けんぽの場合、一般保険料率は事業主・被保険者ともに1,000分の50ですが、IT健保のほうは1,000分の42.5です。トータルでは10%以上負担が減ります。

具体的な数字をあげると、たとえば、

・被保険者20人

・平均の標準報酬月額38万円

・賞与等が7月支給分38万円、12月支給分38万円

という事業所の場合、[図表2]のようになります。

[図表2]協会けんぽの場合と組合健保の場合の保険料比較 出典:関東ITソフトウェア健康保険組合

全体では、協会けんぽに比べて、年間159万6,000円お得になります」

――個人1人ひとりで見ても4万円も負担が減るんですよね。弊社も加入して8年ぐらいになりますから、1,000万円ぐらい得しているのではないでしょうか。

年収はそのままに社会保険料を削減できる「事前確定届出給与」

3.「事前確定届出給与」の活用

黒「3つ目は『事前確定届出給与の活用』です。これは高額な報酬を貰っている役員が、年収はそのままに社会保険料を削減できる方法です」

――それは気になりますね! どうやるんですか?

黒「役員への賞与は原則として損金不算入ですが、遅くとも会計年度の4ヵ月目までに税務署に届出を行い、そのとおり支給することで、損金算入が認められます。

また、賞与に対する社会保険料には上限が設けられており、これを活用することで社会保険料を削減できます。

賞与に関しては健康保険料が1年あたり573万円まで、厚生年金保険料が1ヵ月あたり150万円までという上限があり、それを超えた部分に関しては保険料がかかりません。

<標準賞与額の上限>

健康保険料……年573万円

厚生年金保険料……月150万円

ですからたとえば役員報酬を月額10万円に減額し、その分役員賞与を大幅に増額することで、年間の総支給額はそのままで社会保険料を削減することが可能です。

また、賞与を増額して役員報酬を低く抑えることは、冒頭でご紹介した『在職老齢年金』で支給停止になってしまう年金を復活できるというメリットもあります」

――そうなんですね! 年収を変えずに、社会保険料だけ削減できるっていうのはいいですね。

4.「出張手当」を導入する

黒「4つ目の方法は、『出張旅費規程を整備し、出張手当を導入する』というものです」

――出張手当とはどんなものでしょうか?

黒「出張手当は、出張の際の食事代や、交通費・宿泊費以外にかかる雑費等の経費を実費精算するのではなく、あらかじめ決められた額を支払うものです。

妥当な額で支給されていれば、法人としては本来費用として扱うことが難しい雑費を会社の損金として計上できるため法人税の節税になるほか、出張手当を受け取る役員や従業員にとっては給与扱いにならないことから、所得税・住民税の節税が可能です。

さらに、出張手当は給与扱いではないため、社会保険の算定対象外となります。つまり社会保険料がかかりません」

――会社と個人の節税もできて、さらに社会保険料もかからないってすごいですね!

「社宅制度」も社会保険料削減に効果的

5.借り上げ社宅を活用する

黒「5つ目の節税方法は、『借り上げ社宅を活用する』というものです。従業員が賃貸マンションに住んでいる場合、借り上げ社宅に切り替えることで社会保険料を削減することができます」

――これは従業員の福利厚生としてもいいですよね。

黒「そうですね。手順としては、賃貸契約を個人から法人契約に切り替え、会社で家賃を支払います。

ただし、家賃全額を会社が負担してしまうと社会保険料削減効果がないので、従業員にもある程度負担してもらう必要があります」

――この場合、自己負担額はどうやって決めればいいのでしょうか?

黒「『現物給与価額一覧表』というものがあり、こちらから計算できます。たとえば東京都の場合、「住宅の利益の額」は、1帖につき2,830円です。

マンションの居室部分が30帖あるとすると、

30帖×住宅の利益の額2,830円=8万4,900円

が現物給与の額となり、この額を自己負担してもらえば社宅家賃に社会保険料がかかりません。

もし従業員の負担分がこの金額に満たない(たとえば上記の例で5万円しか負担していないような)場合、その満たしていない部分は社会保険料算定の基準となる報酬額に含まれます。つまり、社会保険料の対象になってしまいます」

――なるほど。その額を従業員に負担してもらえば、社会保険料の計算から外れるということですね。

黒「はい。そして、マンションのもともとの家賃がたとえば15万円だとしたら、「家賃」と「自己負担分」の「差額分」(この場合、約6万5,000円)を額面給与から引き下げれば、標準報酬月額の等級も下がり、社会保険料が削減できることになります」

ルール変更を行う場合、必ず従業員に周知を

――社会保険料削減の方法を5つ紹介していただきましたが、注意点はありますか?

黒「はい、2つあります。まず、給与改定月の変更や、入退社日程の調整などのルール変更を行う場合は、社員・役員に説明して同意を得ることが必要です。

たとえば退職日を10月30日にした場合、10月分は自分で国民年金に加入することになります。後々トラブルにならないために、きちんと説明するようにしてください。

そのほか、社会保険料削減で年金受給額が減額する可能性もあることも、きちんと伝えましょう」

――なるほど。その分負担は減って手残りは増えるはずなので、削減によるメリット・デメリット両方を理解してもらうのがよさそうですね。

黒「社会保険料は中小企業にとって本当に負担が重いので、節税と同じく適正な範囲でのコストカットは必要ですが、従業員に理解してもらって進めることが重要、ということです」

黒瀧 泰介

税理士法人グランサーズ共同代表/公認会計士・税理士

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