カフカ没後100年 永遠の怪作『変身』を読む

友人からでも、家族からでも、書評でも、課題図書でもない「オススメの本」を読んだことはありますか? 現実と少し距離を置く“小説の世界”への入り口は、時に不意の方が新鮮で心踊りそう。東京・六本木の本屋「文喫 六本木」のブックディレクター・及川貴子さんにBRUDER読者をイメージした一冊を選んでもらいました。

「変身」/フランツ・カフカ

2024年6月で、カフカの没後100年となります。その不条理な世界の魅力は色褪せることなくますます人を惹きつけ、今なお新訳や関連書籍が出版され続けているカフカ作品。中でも最も有名な『変身』は、何度でも読みたい名著です。

――ある朝、グレゴール・ザムザが落ち着かない夢にうなされて目覚めると、自分がベッドの中で化け物じみた図体の虫けらに姿を変えていることに気がついた――

――本文より

衝撃的なはじまりですが、それよりもさらに驚くのは、突然こんな状況に陥ってしまった主人公が、まず「仕事に行けないことへの言い訳をどうするか」ばかりを気にしていることです。親兄弟を養うために黙々と働く、平凡なセールスマンだったザムザ。虫になってしまったことへの恐怖や悲嘆を見せることなく淡々と新しい生活へ順応していく彼の姿は、私たちの不安を掻き立てます。人間とは、社会とは、こんなふうに突如変容してしまうのか……。

役人として真面目に働きながら執筆を続け、死の目前にほとんどの作品を未発表のまま捨てるよう友人に頼んだカフカ。彼の頭の中はどうなっていたのでしょうか。作家自身に迫る充実した訳者解説も収録されているので、併せてお楽しみください。

「変身」フランツ・カフカ(KADOKAWA)/¥550(税込)

COOPERATION

文喫 六本木 ブックディレクター 及川貴子

2018年日本出版販売入社。2021年4月より文喫 六本木のブックディレクターとして、企画選書や展示イベント企画、本のある空間のプロデュースなどを行う。

文喫 六本木

文化を喫する、入場料のある本屋。人文科学や自然科学からデザイン・アートまで約3万冊の書籍を販売している。閲覧室や研究室、喫茶室を併設し、企画展も定期的に開催。普段あまり出会うことのない新たな興味の入り口となっている。

住所:〒106-0032 東京都港区六本木6-1-20 六本木電気ビル1F
営業時間:9:00~20:00(L.O. 19:30)/不定休
https://bunkitsu.jp/

Edit : Junko Itoi

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