仕事で悩む若者は適応障害なのか 【第5回】「職場に行くと責められているよう」現代の若者の多くを襲う「適応障害」って?

第2章 適応障害についての主な説明

お気づきのことと思いますが、この「適応障害」でストレス因(原因となったストレス)と言っているものは、ドラスチックで重大な生活上の出来事です。現代の日本で、がんなどの宣告や重大なストレスとなるような死別や分離体験はあるかもしれませんが、移住や亡命などはまずありません。

昔「引越うつ病」と俗に言われるものがありましたが、引っ越した先に馴染めずうつ的になった状態を指していました。これは適応障害と言えると思いますが、多くは自分ではどうにもならない望まない転居でした。しかし新卒入社、就職はどうでしょう。少なくとも自分で希望し応募してきています。自分ではどうにもならない重大で過酷な運命にさらされるような体験とは少しニュアンスが違います。

そしてこれらの説明の中にないものが「身体症状」です。メンタルクリニックを訪れる若者の多く、ほぼすべてがまず身体症状を訴えます。腹痛、下痢、頭痛、めまい、吐き気などで仕事に行けないあるいは仕事ができないので、それを治してほしいと訴えます。そしてうつ的な気分、不眠、食欲不振、一人になると涙が出るなどを話します。どうも症状のタッチも違います。

私は「適応障害」について詳しく議論する立場にはありませんが、そのような病名(障害名)をいただく多くの若者がいるという事実はわかります。そしてこれらの診断基準とピタッと合っていないのではないかという印象に至りました。それでは次に、実際にどんな具合なのか見ていきましょう。

第3章  ≪エピソード≫ 職場に行くのがつらい

この章ではエピソードをいくつかあげてみたいと思いますが、これらは特定の誰かではありません。同じようなエピソードからエッセンスをまとめ一人の人として描いたものです。

1 働くって、こんなことだったの? 

≪いざ仕事が始まったら、つらくなってきたAさん≫

大学を卒業し、新卒採用で大手食品メーカーに就職した。入社後1カ月は本社研修があり、自宅から通うことができた。研修はそれなりに楽しかった。同期入社の知り合いもできた。研修後配属先が決まり、地方の支社に行くことになった。

初めての土地だった。引越も済み、がんばろうと思った。新人は自分も含め二人で、別々の部署に配属になり、実質新人は自分一人だった。自分は販売促進の部署で先輩に付いてスーパーなどを回った。新商品の売り出し当日、先輩から指示された書類をうっかり持って行くのを忘れてしまった。

「えっ⁉ 忘れたの⁉ 先方に渡す書類だから見ておいてねって……。忘れたらダメだろう」

「すみません……」

「じゃあ、明日一人で届けに来てね」

「はい……」

会社に戻ると、課長にも書類の保管管理はしっかりするように注意された。

それ以来、職場に行くと責められているような気がした。(自分はダメなヤツだと思われているのではないか)、自信がなくなってきた。別の部署に配属された新人は元気にやっているようだ。これからがんばればいいという思いと(また失敗するのではないか)という不安が交錯した。

徐々に出勤の朝になると気が重くなり、次第にお腹が痛くなり下痢をするようになった。慣れない土地での生活、スーパーにやっと慣れたくらいで、話す人も気晴らしに行く場所もなかった。どんどん症状は強くなり、職場を休んでしまい、メンタルクリニックを受診した。

≪責任をもたされるようになったら、具合が悪くなったBさん≫

新卒入社。機械販売の経理事務で、各店舗からのデータを集約する。上司に指示されるままデータの確認、集約、入力、書類作成などをしていた。半年くらい経ち、上司は別の管理業務と兼務することになり、売り上げ業務を一人でするように言われた。自信がない。

(こんな1年目に任せてもよいものだろうか…)

店舗に電話をして確認しなければならないこともあるし、何か聞かれてもすぐにわからないことも多い。責任は重い。店舗との電話は緊張する。こちらからかけるのもかかってくるのも緊張する。数字を見ていると気持ち悪くなってきた。

(これでいいのかな……)

いちいち聞くこともできない。

ある朝出勤しようと思ったら、吐き気がした。それをこらえて会社に行っていると、次第に電車に乗るとめまいを感じるようになった。冷や汗をかきながら会社に着く。するとだんだん、これまで間違わなかったことも間違うようになり、言っていることとやっていることが混乱してきた。上司から

「大丈夫か?」

と言われ、メンタルクリニックを受診した。

≪責任をもたされるようになったら、具合が悪くなったBさん≫

新卒入社。機械販売の経理事務で、各店舗からのデータを集約する。上司に指示されるままデータの確認、集約、入力、書類作成などをしていた。半年くらい経ち、上司は別の管理業務と兼務することになり、売り上げ業務を一人でするように言われた。自信がない。

(こんな1年目に任せてもよいものだろうか…)

店舗に電話をして確認しなければならないこともあるし、何か聞かれてもすぐにわからないことも多い。責任は重い。店舗との電話は緊張する。こちらからかけるのもかかってくるのも緊張する。数字を見ていると気持ち悪くなってきた。

(これでいいのかな……)

いちいち聞くこともできない。

ある朝出勤しようと思ったら、吐き気がした。それをこらえて会社に行っていると、次第に電車に乗るとめまいを感じるようになった。冷や汗をかきながら会社に着く。するとだんだん、これまで間違わなかったことも間違うようになり、言っていることとやっていることが混乱してきた。上司から

「大丈夫か?」

と言われ、メンタルクリニックを受診した。


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※本記事は、2022年9月刊行の書籍『仕事で悩む若者は適応障害なのか』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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