【インディ500コラム】シボレー勢が圧倒。ホンダ“孤軍”のチップ・ガナッシ隊と躍進のダークホース

 2024年のインディアナポリス500マイルレース(インディ500)は、シボレーエンジンがホンダエンジンに対して優勢にあった。

 それは予選時点から顕著になり、予選二日目のトップ12セッションに進んだ12人のうち9人がシボレーエンジンユーザーとなる圧倒ぶりだった。そして予選ファイナルのファスト6セッションは、シボレー勢だけでポールポジションが争われた。

 その結果、フロントロウをチーム・ペンスキーのトリオが独占しただけでなく、セカンドロウの3台、そしてサードロウのイン側、真ん中までをボウタイ軍団が占拠することとなった。

第108回インディアナポリス500マイルレース フロントロウを独占したチーム・ペンスキー。2列目にもシボレーエンジンの3台が並んだ

 シボレーがインディカー・シリーズに復活したのは2012年。その年のインディ500ウイナーは、ホンダユーザーのダリオ・フランキッティで、以降はトニー・カナーン(2013年/シボレー)、ライアン・ハンター-レイ(2014年/ホンダ)、ファン・パブロ・モントーヤ(2015年/シボレー)、アレクサンダー・ロッシ(2016年/ホンダ)と両雄が勝ち負けを繰り返した。

 続く2017年は佐藤琢磨が勝ってホンダが2連勝、すると2018、19年はウィル・パワーとシモン・パジェノーとシボレーが2連勝でやり返すなど、8年間にわたって互角の戦いを繰り広げた。

 ここまでは良かったが、2020年は琢磨、2021年はエリオ・カストロネベス、2022年はマーカス・エリクソンとホンダが3連勝。ここで差が開き、風向きが変わったかと思われた。そんな矢先、2023、24年は“オーバル最強”ドライバーのジョセフ・ニューガーデンがシボレーとともに連勝を記録したのだ。

 2020年からホンダが3連勝を飾り、ホンダの7勝に対してシボレーは3勝と差が広がった時、そこで何かが起きた。翌2023年のシボレーは、戦闘力が目に見えて上がっており、ホンダに3連覇を許したシボレーの姿はなかった。

 2021、2022年の予選ではホンダがトップ12に7人を送り込んでいたが、2023年の同12人にはシボレー勢が8人入っていた。これほどの形勢逆転も珍しい。それでも、23年の勝利はエリクソンがホンダエンジンで飾るところだった。レースでの優位までは昨年のシボレーもまだ手にしていなかったのだ。

 今年のトップ12のうちの9人がシボレーユーザー。勢力図は、シボレーエンジンが反転攻勢となった2023年と変わっていなかった。

第108回インディアナポリス500マイルレース ファストフライデイに速さを増したジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)

 インディ500の予選では、ターボのブースト圧がロード/ストリートコースでのレースと同じく高いレベルに引き上げられ、出力は約100馬力ほど増加する。インディ500で勝つには、ハイブーストでのエンジンパワーを高めることが必要だ。

 エンジン開発競争は熾烈を極めている。逆転に闘志を燃やすホンダがまずはプッシュ。インディ500の前週に行われるロードコースでのレースでハイパワーバージョンを投入し、トラブルを出しつつも手応えを感じていた。

 しかしプラクティスが始まると、今度はシボレーが秘策をリリース。一時はプレナム・チャンバー火災を引き起こし、突如としてパワーがカットされる症状に悩まされたが、シボレーは全国に持つエンジンベンチを夜通し稼働して課題を解決した。

 最終的にはチューニングをややマイルドにしたのか、予選二日目には調子を取り戻し、トップ12セッションを圧勝してみせた。ホンダはロードコースで実現していたパフォーマンス向上を、オーバルでの予選で発揮させることができなかったようだ。

第108回インディアナポリス500マイルレース 上位独占のシボレー同士のバトルで決勝レースは幕が開けた

■シボレーの恩恵とダークホースの躍進

 最終的に、チーム・ペンスキーとアロウ・マクラーレンの対決となった今年のインディ500だったが、彼ら以外のシボレーチームにも目覚ましい活躍を見せたところがあった。決勝を中団からスタートしたエド・カーペンター・レーシング(ECR)とA.J.フォイト・エンタープライゼスだ。

 ECRは前々から、A.J.フォイトは昨年からインディ500で速くなった。とくにECRは、予選用のダウンフォースをトリムアウトしたセッティングを得意としている。それはスプリントカー出身であるチームのボス、エド・カーペンターが築き上げたスタイルで、彼は2013、2014、2018年と3回もインディ500のポールポジションを獲得した。

 それを受け継いだのが、オランダ出身ドライバーというのがまたおもしろい。ECRでインディカーを走らせ始めたリナス・ヴィーケイは、持ち前のマシンコントロール能力の高さでカーペンター流をすぐにマスターした。

第108回インディアナポリス500マイルレース リナス・ヴィーケイ(エド・カーペンター・レーシング)

 まだ予選最速こそ獲れていないが、デビューの2020年から予選は4番手、3番手、3番手、2番手と、とんでもない結果を出し続けて来ている。今年は予選一日目にクラッシュを喫しながらも、当日中に組みなおされたマシンでトップ12入りを勝ち取るなど、その速さに陰りはなかった。

 今年の7番手グリッドは、彼のキャリア最低だったのだ。ECRの課題は、レースで安定して上位を戦えるマシン。そのために、チップ・ガナッシ・レーシングで去年佐藤琢磨を担当したエンジニア、エリック・カウディンを獲得してもいる。今年は歯車のかみ合わせに時間がかかったようだが、来年に期待したい。

■突如速さを得たA.J.フォイトの2年目

 A.J.フォイトは2023年、サンティノ・フェルッチが予選4番手、ルーキーのベンジャミン・ペデルソンも優勝経験者のウィル・パワーを上回る予選11番手となった。彼らのマシンはレースでも速く、2023年のフェルッチはジョセフ・ニューガーデンとマーカス・エリクソンのすぐ後ろの3位でゴールした。

 今年のフェルッチは予選6番手。僚友スティング・レイ・ロブはラスト3グリッドを争う危機に面することなく、23番手で悠々と予選をクリアし、決勝ではピットタイミングの良さからトップに立った。さらに予選最速のスコット・マクラフラン(チーム・ペンスキー)らを相手にその座を守り続けもし、抜かれても抜き返すなど、優勝候補に真っ向から立ち向かうダークホースにもなってみせた。A.J.フォイトのマシンはスピードと安定感を両立させていたのだ。

第108回インディアナポリス500マイルレース 一時トップを争ったスティング・レイ・ロブ(A.J.フォイト・エンタープライゼス)

 A.J.フォイトのマシンは、2023年から急に速くなった。それは、チップ・ガナッシ・レーシングでスコット・ディクソンを担当していたエンジニア、マイケル・キャノンをテクニカルディレクターに迎えてからのことだ。そのセッティング欲しさに技術提携をオファーし、締結に至ったのがチーム・ペンスキー。そして彼らはまんまとフロントローを独占した。

 インディ500ではエンジンパワーが大きくものをいうが、ダウンフォースを削ぎ落としてもグリップの得られるサスペンションセッティングも重要だ。アロウ・マクラーレンには数年前からそれが備わっており、エンジンが優勢となった今年は、彼らにとって大きなチャンスだった。

 好調なのはマクラーレンだけでなく、マシンのレベルを一歩上げてきたチーム・ペンスキーが勝利をさらっていったが、全体を見れば、車体を高レベルに仕上げたシボレーチームが今年は例年よりも多く、さらにパワフルなエンジンとの相乗効果により、今年は昨年以上の優勢となっていたのだ。

第108回インディアナポリス500マイルレース チェッカーを受けたジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)

■ホンダ勢孤軍奮闘のチップ・ガナッシ・レーシング

 フンコス・ホーリンガー・レーシングも、とくにアグスティン・カナピノが、ツーリングカー出身でインディカー2年目とは思えないスピードを見せた。プレナム・トラブルが出なければ彼は予選でトップ12に食い込んでいただろう。カナピノの進境は著しく、コースを問わず速さを見せている。

 スポット参戦のドレイヤー&レインボールド・レーシングも高く賞賛されるべきレースを戦ったと言えるだろう。ライアン・ハンター-レイは予選でトップ12に食い込み、レースもリード。チームメイトのコナー・デイリーは予選でこそ不発だったが、レースでは作戦が大当たりでトップグループへ進出すると、そのポジションをキープするレース巧者ぶりを見せて10位でゴールした。

第108回インディアナポリス500マイルレース ピットシーケンスをずらす戦略でポジションを上げたコナー・デイリー(DRR-キュージック・モータースポーツ)

 これほどまでの好調を見せたシボレー勢に対してホンダユーザーは、プラクティス時点からレース用の低ブーストでも苦戦していたが、レース終盤にチップ・ガナッシ・レーシングのスコット・ディクソンとアレックス・パロウのふたりがトップ争いに食い込んでいった。

 予選ではトップ12にも入れなかった彼らだが、レース用セッティングは非常に強力で、作戦面の強さも後押しし、チームはふたりをトップグループへと押し上げた。ただ、彼らがトップを長く維持できなかったのは、中団からのスタートに臨むためにダウンフォースが多めのセッティングとしていたためかもしれない。

 そして終盤土壇場のバトルではディクソンがしぶとさを発揮し、最終ラップでアレクサンダー・ロッシ(アロウ・マクラーレン)をパスしての3位を得ることになったのは、そのおかげだったと考えることもできる。パロウも、マクラフランとのバトルに競り勝って5位でゴールした。

 インディ500が今年のシボレーのシーズン3勝目で、ホンダと勝利数で並んだ……と思えば、翌週の第6戦デトロイトはお膝元だというのにホンダがワン・ツー・スリー・フォーフィニッシュ。ふたつのマニュファクチャラーによる一進一退のバトルは今後も続けてられて行くことになりそうだ。

第108回インディアナポリス500マイルレース レース後半、アロウ・マクラーレン勢に挑んだスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)
第108回インディアナポリス500マイルレース スコット・マクラフラン(左/チーム・ペンスキー)とアレックス・パロウ(右/チップ・ガナッシ・レーシング)

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