ウクライナ平和サミット「中国やアラブ諸国をテーブルにつかせるために重要」

ウクライナの政治家リサ・ヤスコ氏は、平和サミットにより国際的なパートナーの連合が実現することを願っている (Courtesy image)

15~16日にスイスで開かれるウクライナ平和サミットはロシアが招待されておらず、米国のジョー・バイデン大統領は欠席する見通しで、その開催意義が問われている。ウクライナの政治家イェリザヴェータ(リサ)・ヤスコ氏(33)はswissinfo.chとのインタビューで、平和サミットがウクライナにとってなぜ重要なのか、また同国の大統領選延期への批判に答えた。

ヤスコ氏はウクライナ与党「国民のしもべ」に所属。2019~21年に欧州評議会のウクライナ代表団の団長を務め、ウクライナの人権・外交政策に影響力を持つ。

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swissinfo.chは5月中旬、ジュネーブ人権・民主主義サミットの会場でヤスコ氏に会い、ウクライナ平和サミットへの期待と、ウクライナ戦争に対するスイスの立場についてインタビューした。

swissinfo.ch:スイスは61516日に、ルツェルン湖畔のビュルゲンシュトックホテルでウクライナ平和サミットを主催します。サミットに何を期待しますか?

リサ・ヤスコ:難しい質問です。ロシアが戦争を終わらせる気はないようです。ウクライナも、国民の命に関わる問題で妥協するつもりはありません。外交面では、サミットがきっかけとなって、後にロシアと共に協力できるような国際的なパートナー国の連合ができ、戦争を終結させる方向について具体的な立場を打ち出せるようなものになってほしいと思います。ただしそれには、非常に明確なポイントが必要になります。

この点において、スイスでの会合は中国やアラブ諸国といったような国々をテーブルにつかせるために重要です。さまざまな地政学的軋轢やロシアによるプロパガンダのせいで、すべての国が一堂に会し互いの立場に耳を傾ける機会がなかったかもれません。この対話を可能にすることが私の望みです。どんな会議になるのか見ものです。

サミットが成功したと評価されるためには、最低限どのような成果が必要だと思いますか?

できるだけ多くの国にウクライナの和平案に署名してもらいたいです。このメッセージが国際的な大きな声によってロシアに届けばもっと良い。しかしプーチンは信用できません。これが大きな問題なのです。

プーチン大統領に対する不信感のほかには、平和サミットでどんな課題が生じると予想しますか?

世界には互いに関連し合う課題が数多くあります。このため平和への解決策は複雑になるでしょう。たとえばロシアがイランと協力して武器を生産しないようにするには、どうすればよいでしょうか?

さらに私にとって非常に重要なのは、企業は商品をロシアに直接輸出しないだけでなく、ロシアに渡る可能性のある第三国にも輸出しない責任を一部負っていることです。戦争を終わらせたいなら、戦争に物資を供給してはいけません。甘えは許されません。たとえば、マイクロチップやプロセッサメーカーが生産するあらゆる道具や材料、技術機器の部品がロシアの戦車やミサイルに転用される可能性があります。企業や政府など私たち全員が対策を講じれば、前進できるかもしれません。

ウクライナ戦争に関して、スイスのような中立国に何を期待しますか?

スイスは中立の意味をゆっくり見直す方向に向かっています。スイスが中立を不作為とは見なしていないと聞いて私は嬉しく思います。中立は、自らの価値観を守るための行動を意味します。スイスは人権保護を支持します。もちろん、とりわけスイスが軍事的に協力できるようになることを望んでいます。

当然、私たちにとって中立という立場はありません。誰が侵略者か知っているからです。1人のウクライナ人として思うのは、スイスにもっと多くのことをしてほしいということです。これまでスイス政府から多くの代表団がウクライナを訪れました。私たちは、多くの国々の連帯心を感じたのと同じように、スイスの連帯心を感じました。

スイスにいるウクライナ人に関して言えば、ウクライナの復興に備えるため、どうか彼らに知識と人脈を与えてください。彼らに役に立つ機会を与えてください。彼らを包含することを先延ばしにしたり、遅らせたりしないでください。今がその時です。私はすべての国でそう呼びかけています。

もう1点、国際機関の役割を再考することも重要です。ジュネーブに拠点を置く機関がもっと積極的に活動することを期待します。

「より積極的」とはどういう意味でしょうか?

たとえば赤十字国際委員会(ICRC)は、私たちが求めた通りには活動していません。例えば前線での遺体回収については交渉の余地があるでしょう。ウクライナは危険すぎるとして、ICRCは基本的に戦争前のようには活動していません。

ウクライナにいる人々はもはや世間知らずではありません。人権を守るために行動すると思っていた組織や手段、政府の限界が今では明らかになっています。

今年予定されていた選挙が先送りになり、時期も未定であることに関して批判が出ています。選挙を行わないウクライナが「民主主義の柱」たりうるのでしょうか?

実施可能になり次第、選挙は実施します。ロシアがこれを私たちへの批判材料にしていることは分かっています。ロシアは、ウクライナは選挙をしないという言説を流布しようとしているのです。選挙は通常なら今年実施され、春か秋の予定でした。私たちはまだ選挙の延期を決定したわけではありません。

選挙は非常に重要ですが、安全をめぐる問いが解決されていないため、現時点では選挙を実施することはできないと思います。

しかも、兵士たちはどうやって投票すればよいのでしょうか?毎日攻撃を受けている地域では?海外に避難したウクライナ人は?スイスには、滞在するウクライナ人のために投票所を設置する態勢があるのか?国際監視団はどうか?投票を監視するために戦闘の最前線に行くのか?兵士も立候補できるのか?さらには予算も考慮に入れなければなりません。今選挙にお金を使うことに、ウクライナ人は理解を示さないでしょう。

あなたは、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領と同じく、与党「国民のしもべ」に属しています。あなたの政敵たちは、選挙問題について異なる意見を持っているかもしれません。

ウクライナ国民が命を脅かされた状態にあることを理解するには、現地に赴く必要があります。彼らは、いま誰が政治権力を握っているかなど気にしていません。戦争が終わることを望んでいますが、単に現状のまま終わらせたいとは思っていません。領土を放棄したり、何人殺され、何人が愛する人を失ったかに目を瞑ったりという代償を払ってまで終戦を望んでいるわけではないのです。

戦争や戒厳令中に選挙は実施できません。攻撃が今よりも激しくなく落ち着いていれば、可能性はあるかもしれません。しかし私は、今選挙をしないことよりも、選挙期間中に民主主義を守れるのかということのほうが心配です。今の段階では、国民が投票所に行くとロシアが銃撃を始める可能性があるからです。まずはプーチンを止める方法をはっきりさせましょう。そうすれば選挙を実施できます。

あなたはスイスを頻繁に訪れており、スイスの直接民主主義についてもある程度知見があります。終戦の暁には、ウクライナでも同様のシステムが機能すると思いますか?

ウクライナは本来とても民主的です。ウクライナの制度は残念ながらそこまで強力ではありませんが、私たちは強化しようとしています。戦争前、ウクライナは地方分権の進んだ国でした。地方自治体に予算を与え、お金の使い方を決めることができました。ウクライナは参加型民主主義において大きな進歩を遂げたと思います。

もちろん、戦争のせいで変わったことがたくさんあります。予算は限られ、すべてを防衛産業に投入しています。

質問に答えると、スイスモデルはどこでも通用するとは思いません。スイスはあまりにも特別だからです。スイスではまず州レベルで問題が議論され、その後連邦レベルで議論されますね。それが時として問題になりえます。議論の過程の間に物事の核心が失われてしまいます。

その点、ウクライナではデジタル化が進んでいます。それはスイスがウクライナから学ぶべきことかもしれません。

編集:Virginie Mangin、英語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:宇田薫

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