なでしこパリ五輪メダルに暗雲...NZ相手に2連勝も、攻守の不安材料が浮き彫りに(鈴木良平)

攻め込む藤野あおば(C)共同通信社

【鈴木良平の「クールアイ」】

パリ五輪(7月26日開幕)に出場する「なでしこジャパン」(女子サッカー日本代表=世界ランク7位)が、スペイン南西部ムルシアでニュージーランド女子代表(同28位)とのテストマッチ2試合を行い、順当に2連勝を飾った。

しかし、結論から先に言うと……。

五輪でメダルを狙うには、攻守両面で問題点が浮き彫りとなり、これから選手を五輪登録枠の18人に絞り込み、チーム力を整備してパリに乗り込んでいくには、まだまだ改善すべきポイントがあると思わされた。

5月31日に行われた第1戦目は、主力組を温存しながらも試合を優位に進め、FW田中美南(30=INAC神戸)と19歳の新鋭DF古賀塔子(フェイエノールト)のゴールで2-0の完封勝利。

日本時間3日午後11時にキックオフされた第2戦は、最年長で主将を務めるDF熊谷紗希(33=ローマ)、プレーメーカーの大黒柱MF長谷川唯(27=マンチェスター・シティ)、背番号10のMF長野風花(25=リバプール)、攻守両面でチームを支える右SB清水梨紗(27=ウエスト・ハム)といった主軸が先発メンバーに名を連ね、現時点のベストメンバーに近い陣容で戦った。

しかし、立ち上がりからニュージーランド選手の出足の鋭さ、ハイプレス、フィジカルの強さに手を焼き、なでしこならではの「長短のパスを小気味良く繋ぎながら試合を流れを掌握」して「サイド攻撃を絡めながら積極果敢にシュートを放つ」シーンが見られず、前半22分に自陣右サイドを突破されて先制点を決められてしまった。

その「奪われ方」がショッキングだった。

右ウイングバック(WB)に入ったDF清水がFWクレッグに背後を突かれ、3バックの右を担ったDF高橋はな(24=浦和レディース)も簡単にかわされてしまい、ペナルティーエリア内に侵入を許してしまった。

3バックの中央で守備陣を統率する役目のDF熊谷が、クレッグのシュートコースに入ろうとするも対応が遅れ、至近距離からの強烈シュートをGK山下杏也加(28=INAC神戸)は防ぐことができなかった。

なでしこの最終ラインは、この日3バックの左に入ったDF南萌華(26=ローマ)、所属クラブでもコンビを組んでいる熊谷、そして高橋の3人が五輪本番でもスタメン組に入ると予想される。

が、五輪出場国の中でも中位レベルのニュージーランド相手にミスを連発しているようでは、優勝候補のスペイン(1位)、フランス(3位)、米国(4位)、ドイツ(5位)といった世界ランク上位国と対戦する際、劣勢を余儀なくされるのは必至。

大きな懸念材料が露呈し、五輪メダル獲得に暗雲が垂れ込めた感がある。

後半に向けて池田太監督は「3枚替え」を断行した。ピッチに送り込まれたFW浜野まいか(チェルシー)とMF谷川萌々子(ローゼンゴード)の20歳コンビ、代表9試合ながら3得点のMF千葉玲海菜(25=フランクフルト)が躍動。

後半4分と15分に浜野が連続ゴールを決めて逆転に成功した。さらに21分、先発した20歳FWの藤野あおば(東京Vベレーザ)が3点目を蹴り込み、35分には千葉がダメ押しの4点目を奪った。

4-1とスコア上では、なでしこの完勝劇となった。もっとも、後半の4得点は、前半にパワーを使い切ったニュージーランド選手のペースが、ガタ落ちしたことを差し引かなければならない。

攻撃では、世界の女子サッカー界でも攻撃センス、テクニックともに一級品のMF長谷川にボールが集まり、自在の攻撃を見せられる時はチームの攻撃も多様さを増すが、前半のようにタイトなマークに遭って動きを封じられると、なでしこ全体の攻撃が機能不全に陥ってしまう。

打開策としては、ピッチ中央で攻撃を差配する長谷川ひとりに頼らず、左右からのサイド攻撃を織り交ぜることで活路を見出したい。

ニュージーランドとの2戦目では、左シャドーのFW宮澤ひなた(24=マンチェスター・ユナイテッド)と左WBに入ったMF北川ひかる(27=INAC神戸)、右シャドーのFW藤野と右WGに入ったDF清水の「左右両サイドの選手の連係」が、いまひとつ機能しなかった。

最後は点差こそ開いたとはいえ、格下相手に苦戦を強いられる要因のひとつとなった。

絶対的な攻撃の差配役である長谷川と左右両サイドでプレーする選手たちが、いかに連動性を高めていくことができるか。

このことが、メダルを獲得するための命綱となるだろう。

なでしこジャパンは7月13日、石川・金沢市で「能登半島地震復興支援マッチ がんばろう能登」と銘打った壮行試合でガーナと戦った後、パリに乗り込んで行く。

なでしこたちはメダルを獲得できるか?

過去最高位の2012年ロンドン五輪準優勝を上回る成績を手にすることができるか?

池田監督体制になってから、なでしこは正常進化を遂げており、パリでは優勝を争ってくれるだろうと思っていた。しかしながら、その思いは今回のニュージーランドとの2連戦で、いささか揺らいでしまったのも事実。

大舞台の初戦まで1日も無駄にせず、レベルアップを図って本大会ではメダルを獲得し、低迷気味の日本の女子サッカー界を盛り上げてもらいたい。切にそう願っている。

(鈴木良平/サッカー解説者)

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