内山昂輝、声優の“てっぺん”を取るのは「声質と努力を続ける人」 映画への想いも語る

さまざまな表現はあれど「不良の頂点を目指す」というフレーズは、ヤンキーを題材にしたアニメ作品において、よく耳にする王道のテーマかもしれない。しかし、現代に溢れかえるヤンキー作品の数々の中でも、間違いなく“本物のてっぺん”を取りに行く気概を感じさせる作品が『WIND BREAKER』だ。

超不良校として名を馳せる風鈴(ふうりん)高校に、喧嘩を求めて転校してきた1年生・桜遥。しかし桜はやがて、風鈴高校がただの不良校ではなく、街を守る「防風鈴(ボウフウリン)」としての役割を果たしていることを知る。

不良が英雄として頼られる街を舞台にした『WIND BREAKER』の魅力は、ただケンカが強いだけではない、深いバックグラウンドを持つ登場人物たちにある。そんな中でも、桜のライバルであり仲間である杉下京太郎を演じるのは、声優の内山昂輝だ。

『WIND BREAKER』における杉下は、「クールな外見の下に熱い想いを秘めている」と語る内山。そんな彼が杉下の如く本作に込めた思いや、声優のキャリアで“てっぺん”に立つ人物に共通するマインドを聞いた。

■『WIND BREAKER』は「ヤンキーものとして研ぎ澄まされた作品」

ーー内山さん演じる杉下京太郎は主人公・桜遥のライバルでもある存在だと思いますが、内山さんは杉下をどのような人物だと感じましたか?

内山昂輝(以下、内山):杉下京太郎というキャラクターは、無口でありながら、胸には秘めている思いがあるキャラクターです。ただ、形となって出てくる言葉が少ないところは、声を当てる側として難しさも感じました。自分の心情を表現するような場面が少ないと、限られた言葉の中でキャラクター性を表現しなければならないので。より一層、一言ひと言を大切にしたいと思うとともに、「ここぞ!」という時に、ちゃんと役割を果たしたいと強く感じていました。

ーーそんな杉下が、まず拳を交えることになるのが桜です。桜についてはどう感じましたか?

内山:桜は、自分の正義感と信念に基づいて行動する熱血系の主人公なのに、堅苦しいわけでもないんですよね。他人の意見でも、正しいと信じることができたら、ちゃんと取り入れる。自分をブラッシュアップさせることを怠らない人なので、視聴者の方々にとって、 きっと愛されるキャラクターになっていくだろうと思います。

ーー『WIND BREAKER』では、「喧嘩=対話」という要素が色濃く描かれます。杉下を演じる中で、他のヤンキー作品との違いについて、何か感じたことはありますか?

内山:ヤンキーものとして、かなり研ぎ澄まされた作品だと思いました。シンプルに主人公が学園に入って、様々なキャラクターと出会ってバトルが続いていく……例えば『東京リベンジャーズ』のタイムリープ能力のような特殊なギミックが設定内にないまま、物語が進んでいくじゃないですか。

ーーある意味では今の時代に珍しいくらい、圧倒的な喧嘩の強さで桜が勝ち上がっていく感じですよね。

内山:まさに“骨格で勝負”とも言えるような、シンプルな面白さで勝負してくる真っ直ぐな作品だと思いました。

ーー『WIND BREAKER』では掛け合いのシーンもかなり多い印象ですが、こうしたアクション系作品において演技の面で特に意識していることなどはありますか?

内山:『WIND BREAKER』はキャラクターも多いので、バトルはもちろんですが、喫茶店や学校での会話も、テンポのいい会話で見せていくシーンが多くて。それぞれのセリフをどう表現するかも大事ですけど、全体のリズム感を汲み取っていくのも、みんなでアフレコをする意義なので。

ーー他の役者さんの演技を受けて、アフレコ現場で生まれたものを大切にするということでしょうか?

内山:そうですね。とはいえアニメなので、完成しつつある映像にどう声を当てていくかというのは、前提にあるのですが……。そこに僕らの仕事が加わることによって、いい化学反応が生まれてほしいといつも思います。自分で用意したものにこだわりすぎず、臨機応変に相手の言い方を受けてのリズムを重視してやってみるっていうのは、大事なんじゃないかなと。

ーーそうしたアフレコ現場でさまざまな方と共演する中で、杉下が梅宮を特別視して尊敬しているように「この人は特別だな」と感じた方はいらっしゃいますか?

内山:声優の皆さんはそれぞれいいものをお持ちなので、“この人”というのは難しいのですが……。スタジオで生の声を聞いて、「このやり方いいな」と感じたら、どなたに限らず自分なりに試行錯誤して取り入れてみようとは思っています。声の仕事というものは、生まれもった声質でほとんどのことが決まってしまうので、良い声質を持っている人を「才能がある」といえるのかもしれません。それでも、声質プラス、その声をどう使うかでオリジナリティがないと埋もれてしまうので。持って生まれた声質に才能がある人が、さらに努力すると“てっぺん”を取れるのではないでしょうか。

ーーそういうものを他の役者さんに感じられる瞬間も……?

内山:仕事をしていて、「この方はたくさん努力をされてこられたんだな」とか「才能もあるのに、ちゃんと怠らずに日々練習してるんだな」っていうのは、スタジオで一緒にアフレコをしていると案外分かります。そういう方は大体、いろんな作品で名前をお見かけする感じがしますね。

■声優としてのターニングポイントは『機動戦士ガンダムUC』

ーー内山さんは子役から演技の世界にいらっしゃると思うのですが、声優としてのターニングポイントになったと感じる作品はありますか?

内山:いろんなポイントがあると思うんです。僕は子役出身で声優業に辿り着いたんですけど、10代の頃とかは、声優としてのテクニカルなものが全然ないままで。そんな中でさまざまな役に抜擢していただいたことは、ありがたいことだったと思います。声優のキャリア的には『機動戦士ガンダムUC』(バナージ・リンクス役)が、ターニングポイントになったと言えるかもしれません。19歳の時に初めて出演したんですけれど、アニメ業界の方にたくさん知ってもらえた機会になりました。

ーー19歳で大役に抜擢……想像しただけでプレッシャーに押しつぶされそうです。

内山:緊張やプレッシャーっていうのは、「ここで大成功して、この人たちに認めてもらって次に活かしたい」とか、「評価されたい」って思いがあると生まれるものだと思っていて。ただ、当時の自分にはそういう気持ちが全くなかったんですよね。全然恐れを知らない若者というか……業界のことも知らないし、 自分が声の仕事で食べていくことも全然考えてなかったので。仮にこの業界で失敗して、先がなくても気にしないぐらいの気持ちで、傍若無人だったと思います。ただ、もしそれが良い方向に働いたのであれば、生意気な若者を中身で評価してくれた、周りの大人たちに感謝ですね。

ーー当然ながら、年齢によって声も変わっていきますよね。声が変わっていく中で壁を感じた経験はありますか?

内山:もちろんあります。キャスティングされやすい役柄が変わっていくこともありますし、声優の仕事ならではという意味では、「昔やったキャラクターをまたやる」ケースもあるので。 「10代の頃にやったやつもう1回やるのか~」というパターンですね。当時の地声との違いを感じつつも、今の自分なりに変えられる範囲で、「この辺ぐらいまでなら当時の雰囲気に寄せられる」というポイントを探していく作業です。“今の自分でやるならば”という着地点を、日々見つけていくことが大事だと思っています。

■内山昂輝が印象に残ったギャング映画は?

ーー最後に、今回リアルサウンド映画部では初取材ということで、本作で重要な役割を果たす“てっぺん”という言葉にちなんで、映画が好きな内山さんに現時点でのオールタイムベストをお聞きしたいです。

内山:うーん、1本に絞るのは難しいかもしれません。ただ、中学生の頃にポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』を初めて観て衝撃を受けて、そこからポン・ジュノ監督がアカデミー賞までたどり着くのを見届けたことを思うと……やっぱり『殺人の追憶』は思い出深い作品です。他の監督でいえば、ウェス・アンダーソン監督の作品も好きですね。とはいえ、最近の『アステロイド・シティ』『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』は自分には刺さらなかった。もしかしたら、好みが変わってきた可能性も否めないのですが、自分でも不思議です。

ーー邦画のヤンキー映画や、あるいは洋画でのギャング映画に絞った場合はどうでしょう?

内山:2022年に公開50周年を記念した『ゴッドファーザー』の4K版のパッケージが出て、1と2を久々に家で観て、めちゃくちゃ面白かったんです。あの時代にしか生まれないものなのかもしれないと思えるほど、画作りから全てが贅沢といいますか……。オープニングの有名な真っ暗なところから顔が浮かんできて、ボナセーラの「アメリカはいい国です」のセリフで始まるところからすでに良い。ラストに至るまで、全部にうっとりしてしまうような画の力を感じました。そうしたものが4Kまでたどり着くなんて、いい時代ですよね。リバイバル上映も増えていますし、過去の名作がどんどん4K化されていることに、ありがたさを感じています。

ーーさらにドルビー環境でも、色々な作品が観られるようになりましたよね。

内山:そうですね。15年前頃から、フィルムからデジタル上映に変わってきたことを思い出すと、本当に最初の方はもっと映像がぼやっとしていた気がします。IMAXの進化も同じ。2009年の『アバター』を観たときの上映環境から、IMAXレーザー、そしてグランドシネマサンシャイン 池袋のIMAXまでたどり着いたことを思うと、「映画ってまだまだ進化するんだな」と思います。次世代のIMAXフィルムカメラが作られる話もありますし、それでまたいい映画を撮ってもらえたら、嬉しいですよね。
(文=加古伸弥)

© 株式会社blueprint