J:COMの中期経営計画、モバイルは「クロスユースユーザー」を強化へ――同軸ケーブルから光ファイバー中心に転換も

by 竹野 弘祐

JCOM 代表取締役社長の岩木陽一氏

JCOMは6日、2023年度の振り返りや中期経営計画などを発表した。2023年度の業績や、各サービスの加入者数のほか、今後の注力領域や新サービスなどが披露された。

ネットは同軸ケーブルから光ファイバーへ

固定ブロードバンドサービス「J:COM NET」の加入者数は、2024年3月末で434万回線となった。固定回線サービスを軸とした販売にシフトしたことで、回線数が増加したとしている。

J:COMでは、これまで主にHFC(局からは光ファイバーで配信されるが、途中で同軸ケーブルに変換される方式)でインターネットサービスを提供してきた。今回の中期経営計画では、この主力インフラを最後まで光ファイバーとなる「FTTH」に転換していくことを明らかにした。

戸建てでは全域でFTTHによる提供に転換し、集合住宅においても、一部を除いてFTTHとしていく。構造上転換が難しい物件などでは、自前回線だけでなく、KDDIやNTT卸回線を活用して導入していくという。

JCOM 代表取締役社長の岩木陽一氏によると、これまでは自前の設備をできるだけ使おうという思いがあったといい、一方で関西を中心に“5Gbps”“10Gbps”といった高速回線サービスが他社から登場してきており、JCOMの営業にも影響が出てきていたと説明。加えて、今後のユーザー支持の拡大にもFTTH化は必要という認識となったため、転換を決めたとしている。

特に関西では、サービスエリアのほぼ全域でFTTH化は完了しているという。

JCOM 代表取締役社長の岩木陽一氏

なお、光ファイバーの設備自体は、すでにユーザー宅手前の電柱部分まで来ているところがほとんどだとし、それほど膨大な投資にはならないという。2027年度には、戸建てのFTTH化率が50%となることを目指して取り組んでいく。

一方で、光ファイバーによる接続サービスは開通まで時間がかかるデメリットがある。この不便を無くすため、たとえば申し込みから2~3日程度で開通する同軸ケーブルによる接続サービスを、新規契約からしばらく利用してもらい、光ファイバーが開通すれば切り替えて高速回線を利用してもらうという販売メニューも関西圏では展開している。

また岩木氏は、宅内のWi-Fi環境についても「FTTHで速度が速くなっても、宅内でスピードが出ないとあまり意味が無い」とし、2024年度末~25年にかけてWi-Fi 7に対応するルーターを提供するとしている。

モバイル回線数は70万回線を突破

MVNOサービス「J:COM MOBILE」の累計回線数は、2023年度で70万回線を突破した。

加入者の90%以上が、ほかのサービスとあわせて加入しているとデータ容量の増量が受けられる「データ盛」が適用されているといい、加入者の9割以上がJCOMのテレビや固定回線などとあわせて契約していることが見える。

岩木氏は70万回線という数字について「NET(固定回線)が430万加入に対してまだMOBILEは70万回線だ。まだまだ高めていく余地がある」とコメント。「世帯でテレビやネットを契約しているユーザーに、どうやってモバイルにも入ってもらうかを考えていかなければいけない」とし、引き続き個人ユーザーをメインに施策を打っていく姿勢を示した。

一方で、「データ盛」などいわゆるバンドル化することで「ネットの解約率が下がっている」とすることで、ほかのJCOMサービスにも良い影響を生み出しているという。なおKDDIの携帯電話サービスとのバンドルプラン(auスマートバリュー、自宅セット割など)についても「ユーザーの選択」としながらも、両方を継続してやっていくとした。

チャンネル事業の強化

映像ビジネスでは、ワーナー・ブラザース・ディスカバリー(Warner Bros. Discovery)と2023年8月に提携した。合計7チャンネルの事業を統合し、JCOMの営業力とワーナーのコンテンツ力を掛け合わせた事業強化を目指すという。

2023年10月には、テレビ放送と動画配信「J:COM STREAM」を組み合わせた「シン・スタンダード」プランの提供が開始され、放送と配信を1つのプラットフォームで提供。プラン変更後は、放送と配信どちらも平均視聴時間が伸びており、プラットフォーム統合の効果が出ている。

コンテンツ制作関連では、WBC「侍ジャパン」ドキュメンタリー映画を制作し、興行収入17.9億円、観客動員数も89万人を記録。JCOM子会社のジェイ・スポーツでは、AmazonプライムビデオやABEMAなど他社のプラットフォームへの配信を強化することで、会員数の拡大に貢献しているという。

今夏のパラリンピックを放映

また、自主放送「J:COM テレビ」では、8月28日~9月8日に開催される「パリ 2024 パラリンピック」を放送する。2021年の「東京 2020 パラリンピック」と「北京 2022 パラリンピック」に続き3回目のパラリンピックの放送となる。

「J:COM テレビ」は、J:COMのケーブルテレビを視聴できる環境であれば、有料サービスの加入/非加入問わずに無料で視聴できる。

KDDIとのシナジー効果も

2024年1月に、JCOMはKDDIのケーブルテレビ事業を継承し、従来のものと含めて約200社の取引先と約300万世帯にサービスを提供する会社に発展した。

また、auじぶん銀行とは、J:COMサービスの新規加入で住宅ローン金利を優遇する「J:COM金利優遇割」を開始するなど、KDDIグループとの取り組み強化も進められている。

連結業績と中期経営計画

2023年度の連結業績は、営業収益が前年度比+7.7%の8923億円、営業利益は+5.2%の1175億円、純利益は+9.5%の736億円だった。

2024年~27年の中期経営計画では、2027年度の売上高を1兆円超に、営業利益成長率を年平均5%の持続的な成長を計画している。

中期経営計画では、先述のFTTH化の推進のほか、「シン・スタンダード」プランでほかの配信プラットフォームとの連携の拡充、新たな金融サービス、バレーボールの新リーグ「大同生命SV.LEAGUE」のJ SPORTSオンデマンド独占ライブ配信などサービス強化を図っていく。

また、法人向け事業も強化する。法人事業の新ブランド「J:COM BUSINESS」を立ち上げ、ケーブルテレビ事業者とのパートナーシップ強化や、モバイルなど地域の企業や行政DXなど自治体向けのサービスを拡充し、社会課題の解決を企業、自治体とともに進めていく。

生成AIをコールセンター業務に活用

生成AIの活用について、トライアルとしてカスタマーセンターの応対履歴の要約で、Googleクラウドと連携して試験的に導入している。

今後、AIがユーザーの行動データやSNS上の声などを分析し、カスタマーセンターでの対応業務に活かすことも検討領域として挙げている。

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