健康行動を促すサントリー自販機が急拡大 導入企業数1年間で倍増の1000社 支持される3つのポイントとは?

アプリと連動して健康行動を促すサントリーの自販機が急拡大している。

このサントリーの自販機は、サントリー食品インターナショナルが法人向けに展開する健康経営サービス「SUNTORY+(サントリープラス)」の肝となるもので、“健康スポット”の役割を担う。

「SUNTORY+」は、アプリを通じて従業員の健康行動を促し、積み重ねた健康行動に対して専用自販機で“報酬”が得られる仕組みとなっている。

2020年7月に「SUNTORY+」の提案を開始。導入企業数は23年春で500社に達した。そこから約1年間で急拡大し、このほど1000社の大台を突破した。

その多くが大企業で占められる。大企業では1社で複数台設置しているところが多い。

自販機というリアルの場を接点とし、無料で導入できるのが、他の健康経営サービスと一線を画する点であり、導入拡大の引き金になっている。

取材に応じた赤間康弘イノベーション開発事業部ビジネス開発部課長代理

取材に応じた赤間康弘さんは「リアルな接点がアプリを思い出せてくれて、アプリで得られる飲料ポイントや飲料クーポンによって健康行動が促される。このリアルとデジタルのハイブリッドな体験が上手く機能している」と語る。

赤間さんは、大手ゲーム会社のプランナー・ディレクターを経て2017年に入社。飲料のブランドマネージャーを担当後、イノベーション開発事業部で「SUNTORY+」を立ち上げた。

アプリは、ゲーム会社で培われた遊びの要素とサントリー習慣化メソッドがふんだんに盛り込まれている。

サントリー習慣化メソッドとは、長年の健康飲料のコミュニケーション活動に関する知見や消費者の行動経済学に基づいたものである。

徹底的に超低ハードルな健康タスク

アプリで支持されているポイントについて、赤間さんは以下の3つ挙げる。

――徹底的に超低ハードルな健康タスク
――アプリ利用者を徹底的に褒める
――健康タスクに科学的根拠・エビデンスがある

健康タスクとは、従業員に推奨される健康行動のことで約60種類を取り揃える。従業員はこれを登録し複数こなすとサントリー健康飲料の引き換えクーポンやポイントが得られる。

こうしたインセンティブに留まらず、ついつい続けたくなってしまう工夫が随所に施されている。

その根幹をなすのは、超低ハードルの要素。「筋トレやランニングが健康に効果的なのは分かっているが、挫折される方も多い。アプリでは、挫折してしまいがちなものを排除し、本当に簡単で、しっかりした科学的根拠がある健康タスクを取り揃えている」という。

健康タスクの一例は“歩数をチェック” “肩甲骨を寄せて広げる” “朝一杯の水を飲む”といったもので、これらは全て筑波大学発の研究成果活用企業THF(茨城県つくば市)の代表取締役で、筑波大学名誉教授の田中喜代次氏とサントリーが監修している。

「例えば“朝一杯の牛乳を飲む”には血圧対策でエビデンスがあり、500mlの水を飲むと10分後には代謝率が30%増加するという研究結果もある」と述べる。

誰かに話したくなるような豆知識も提供

褒めのフレーズや報酬が高頻度で出現するのも特徴。

「健康タスクの達成ボタンを押すと“いいね”ボタンで褒められたり、継続していくと称号のバッチがもらえたりする。物凄く細かく褒めのポイントを入れているため、1日5つの健康タスクを実施したとすると月に約200回の達成感が得られ、自己肯定感もアップするものと思う」と説明する。

“散歩の名付け親は勝海舟”といった、誰かに話したくなるような豆知識も提供している。

これらの特徴により、他の健康アプリや健康サービスと比べ高い継続率となっている。

「一般的な健康アプリは継続率が1か月経つと15%下回るというデータがあるが、『「SUNTORY+』」は約1万4000人を対象にした調査データによると89%が使い続け、半年経っても50%の方に継続していただいている」と胸を張る。

ウォーキングイベント「歩こうフェス充実プラン」。有料版は部署ごとに企業が設定した期間の歩数で競い合うことができる。

「SUNTORY+」は、健康経営を推進したい企業の総務・人事担当には利便性を提供する。

担当者用WEBサービス「サントリープラスNavi」で、従業員のアプリ利用率や歩数、従業員のリアルな声が確認できるほか、健康施策が申し込めるようになっている。

健康施策の一丁目一番地が23年春にリリースしたウォーキングイベント「歩こうフェス充実プラン」。無料版のお手軽プランと、有料版の充実プランがあり、有料版は部署ごとに企業が設定した期間の歩数で競い合うことができる。

「リアルでイベントを開くのは、会場の手配や景品を事前に用意したり配布したりする必要があり大変だが、それら全てがアプリ内で完結できる」という。

施策終了後にはサントリーからフィードバッグクレポートが提出され「健康経営のPDCAをしっかり回すことができる」。

「サントリープラスNavi」では、総務や人事が従業員に共有する健康情報も毎月提供。

「自力で従業員向けに健康情報のコラムを書くのは、ネタ探しほかエビデンスもチェックしなければならず苦労されていると聞く。このお悩みに対して、健康情報をアレンジしやすいようにワードでコラムを提供している」。

サービス開始から3年が経ち、導入企業からは従業員の健康意識やヘルスリテラシーが高まったなどの声が寄せられるほか、定量的には1日あたりの歩数が増加した。
「『SUNTORY+』の利用当初と1年経過後の歩数データを比較すると、平均して1人あたり1日500歩程度伸びている」と語る。

この流れを加速するとともに新規企業の導入を促進していくため、導入企業数1000社突破を記念し、有料版のウォーキングイベントの基本利用料が無料になるキャンペーンを6月10日から展開していく。

法人向けサービス「社長のおごり自販機」も従業員同士のコミュニケーション活性化に貢献し拡大している

「SUNTORY+」は自販機ビジネスの観点でも新風を吹き込む可能性がある。

オフィスなど室内に導入されている自販機を、単なる飲料の販売という枠組みを超え、導入企業との重要な接点と捉えている。

「自販機という強みを活かしながらお客様の課題を解決できないかと考えている。総務や人事は我々の商談窓口であることが多く、その時にフィードバックレポートなどのデータがあると、よりリッチなコミュニケーションが図れる」と力を込める。

法人営業はサントリービバレッジソリューション(SBS)が担い、新規開拓などプレゼン時には赤間さんが所属するイノベーション開発事業部ビジネス開発部も同伴することもあるという。

企業が抱える課題の最たるものが、医療費の企業負担の増加。

「全国に約1400の健康保険組合があり、21年度の赤字額が約800億円だったのが、つい先日、今年約6600億円に増大するとの予測が発表された。30年には大企業の従業員年齢構成比において55歳から59歳が最大の人口ボリュームとなり医療費も50歳を超えるとすごく伸びていく」と指摘する。
「経産省だけではなく厚労省も健康経営の実施企業数を目標に掲げ始めた」という。

社会全体でのこのような危機感も後押しして「SUNTORY+」の昨年1年間の倍増につながったとみられる。

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