河合優実「本当に演じていいのか、迷いと怖さがあった」暴力、売春、薬物…実在の女性をモデルにした難役に葛藤

河合優実さんが、実話をもとにした衝撃作に挑み、実在の女性を演じたことへの迷い、気持ちの変化を語りました。

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2020年に日本で実際に起きた事件がモチーフとなった映画『あんのこと』。

幼い頃から母親に暴力を振るわれ、売春を強いられた末、覚醒剤に溺れていた21歳の香川杏(河合)。ありのままを受け入れ支援してくれる刑事の多々羅保(佐藤二朗)と出会い、徐々に心を開いていきます。

一方で、週刊誌記者の桐野達樹(稲垣吾郎)は、「多々羅が薬物更生者の自助グループの女性に関係を強いている」というリークを得て慎重に取材。そんななか、新型コロナウイルスの出現により、杏はようやく手にしたつながりを失い、孤立し…。

少女の壮絶な人生をつづった新聞記事をもとに描かれた、人間ドラマです。

主人公・杏を演じた河合さんにインタビュー。作品を作り上げるまでの過程、難役への向き合い方のほか、ブレイクを経ての変化や、オフ日の過ごし方を聞きました。

「考えて考えて、悩んで…」役作りの難しさに直面

――杏にはモデルとなった女性・ハナさん(仮名)がいます。実在した人物を演じるにあたり、どのように役を作りあげましたか?

まず脚本を読んで、受け取ったイメージから自分なりの想像を膨らませました。その後、実際にハナさんと接して新聞記事を書かれた記者の方とお会し、長い時間をかけて彼女のことを聞き、お話しさせていただきました。

いろいろと考えるなかで、ハナさんご本人に映画で描いてほしいこと、描いてほしくないことを直接聞けない以上、彼女の人生を再現するのは違うだろうなと思って。入江悠監督も「(この映画とハナさんを)どこかで切り離さなきゃいけないと思う」とおっしゃっていました。

あくまでも“香川杏”という役として捉えるように意識しましたが、それでも心の中にはずっとハナさんがいて、どこまで行っても離れることができなくて。杏として生きるというのはどういうことか、考えて考えて悩んでいるうちに、だんだん気持ちが杏に向いて、クランクインしてからは集中できたと思います。

――河合さんから見て、杏はどんな女性だと思いますか?

一言で表現するのは難しいですが、“前進する力”がとても強いと感じました。杏が虐待、売春、薬物の荒んだ生活から踏み出せた最初のきっかけは、多々羅や桐野と出会ったことです。

でも、杏はちゃんと自分の意思を持って、人生を切り開いていった印象があります。もし私が杏と同じ状況に置かれたら、こんなふうに前に進めていたかな、と思うくらい強いです。

――特にそう感じたシーンや、監督の演出で印象的だった場面はありますか?

杏が、薬物更生者の自助グループに参加するシーンです。

多々羅がこのサークルを取り仕切り、プログラムの一環で参加者にヨガを教えているのですが、多々羅と親しくなった杏が自分のヨガマットを多々羅の隣に並べて、楽しそうにじゃれる場面があるんです。多々羅を“信用できる大人”と認識して、甘えているんですよね。

ここで入江監督から、「杏は、多々羅たち大人がいたからではなく、ちゃんと自分の力を持っているから前に進めた。だから、多々羅に対して“借りてきた猫”みたいにならないほうがいい」と指導いただいて。それがすごく印象に残っています。

取材で再会した同級生からの、「胸に刺さった」言葉

――撮影期間中は、杏とどのように向き合っていたのでしょう。

毎朝、心の中でハナさんと杏にあいさつをしていました。「今日も行ってきます。よろしくお願いします」と。

この作品で扱っているのはつい数年前の出来事で、まだ全然時間が経っていないような感覚なので、「本当に映画にして、杏として演じていいんだろうか」という迷い、怖さがずっとありました。

でも、考えても考えても正解は分からないですし、ハナさんに答えを聞くこともできないですし。だったら、一方的かもしれませんが、私には祈ることしかできないと思い、そんな気持ちで毎日あいさつをしていました。

撮影が終わってからは、ハナさんも杏も、会ったことはないけれど“友だち”のような感覚があります。何か壁に立ち向かわなければいけないときに、自分のなかでちょっと存在を感じるというか。

そして今、映画の公開が近づき、こうして取材を受ける日の朝も「ちゃんと話してきます」と、あいさつをしています。

――新聞記事として既に報じられた出来事を、映画として届けることの意味は、何だと思いますか?

日々のニュースとして触れるだけだと、その時は印象に残っても、忘れてしまう方も多いかもしれません。でも、映画として観ることで、この出来事が皆さんの記憶に残るのであれば、それこそが『あんのこと』を作った意味だと思います。

私の高校の同級生で、出版社で働いている子がいるのですが、今回『あんのこと』の取材で会うことができて。その子が試写のあと、「これは絶対に届けなきゃいけない作品だと思う」と言ってくれたんです。シンプルな言葉でしたが、胸にとても刺さりました。

『あんのこと』を多くの方に届けて、2024年の今を生きている皆さんがどう思われるか。それを、しっかり受け取りたいと思います。

オフの日は「何もしていないですよ(笑)」ベッドでゴロゴロ

――杏は多々羅や桐野に出会って人生が変わりますが、河合さんにとってそういった人はいますか?

私が出演させていただいている映画『ナミビアの砂漠』(2024年)の山中瑶子監督です。

私は高校生のときに、俳優になりたいと思って進路を変えたんですが、その頃に映画館へ山中監督の作品を観に行き、監督にお会いする機会があって。私にとって人生で初めてお話しさせていただいた映画監督で、うれしくてポスターにサインまでいただきました。

あれから何年か経って、『ナミビアの砂漠』で一緒に映画作りをさせていただけるようになったことも含め、転機だと思います。山中監督は、高校生の頃の私を覚えてくださっていたのですが、思い返すと恥ずかしいし、忘れてほしいなと(笑)。でも、うれしかったですね。

――『不適切にもほどがある!』(2024年/TBS)に出演して大きな話題を呼びましたが、環境の変化などは感じますか?

どこへ行っても「見てるよ!」と言ってくださる方がいて、すごくありがたいなと思いつつ、意識しすぎると自分がブレてしまいそうなので、あまり考えないようにしています。自分がやることは変わらないぞ、と。

でも、いろいろな方に見ていただけて本当にうれしかったですし、何より、お茶の間に流れたことで「家族で見てました!」という声もたくさんいただいて。みんなで一緒に見たものから元気をもらう、みたいなことが起きていたんだと思うと、すごくうれしかったです。

また、これをきっかけに注目していただけたことで、『あんのこと』を含めこれから公開される作品や、これまで出演してきた作品に光が当たるというのも、とても良かったなと思います。

――多忙な日々かと思いますが、オフの日はどう過ごしていますか?

何もしてないですよ(笑)。ベッドの上でゴロゴロ過ごす日もありますし、映画館やサウナへ行くこともありますし。映画は、あまり忙しくない時期に、ジャンルを問わずいろいろ観に行きます。サウナも、銭湯やスパなどいろいろな施設へ行って楽しんでいます。

撮影:河井彩美
ヘアメイク:上川タカエ(mod's hair)
スタイリスト:杉本学子(WHITNEY)

映画『あんのこと』は、6月7日(金)より新宿武蔵野館、丸の内TOEI、池袋シネマ・ロサほか全国公開。
配給:キノフィルムズ
(c)2023『あんのこと』製作委員会

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