ベンガルが語る『あぶない刑事』「落としのナカさん」に取り入れた工夫

ベンガル 撮影/イシワタフミアキ

自由劇場を経て、1976年に柄本明、綾田俊樹とともに『劇団東京乾電池』を結成。その後も、個性派俳優として映画や舞台、テレビドラマなど幅広く活躍しているベンガル。『あぶない刑事』では“落としのナカさん”こと田中文男役を演じ、全シリーズに登場、現在公開中の映画『帰ってきた あぶない刑事』にも出演している。彼の「THE CHANGE」とはーー。【第2回/全2回】

昔から「他人の不幸は蜜の味」って言うくらいで、他人の悲劇って面白いところがあるじゃないですか。そういう不幸の部分をシリアスに作らないと、やっぱり笑いは生まれないというのは痛感しました。

とはいえ、例外もあります(笑)。僕の俳優人生の中で、世間的にもすごく認知度があるキャラと言ったら、刑事ドラマ『あぶない刑事』シリーズ(日本テレビ系)の、田中文男こと「落としのナカさん」じゃないかと思うんです。

『あぶ刑事』は、80年代に最初に放送されて以来、何度も映画化されたヒット作です。ただ、そもそも『あぶ刑事』の世界観自体が、良くも悪くも非現実的じゃないですか。サングラス掛けてすごくカッコよくて、拳銃バンバン撃って……なんて、刑事の存在自体が現実社会からかけ離れている。生活感が感じられない。

ナカさんは拳銃バンバン撃つことはないけど、やっぱり『あぶ刑事』の中でだけしか成立しないキャラなんですよね。だから演じるに当たっても役作りなんてやったことがないし(笑)。

ただ、存在を際立たせるための工夫はしました。

ナカさんといえば扇子がトレードマーク。というのも、共演者の皆さん、すごくキャラが立つ人ばっかりじゃないですか。だから、そんな中で自分の存在がすごく弱く思えたんですね。取り調べ室のシーンでも「吐け!」としか言わなかったし。

だから、ちょっと人が気になるモノを持ってアピールしてみようかなって思ったんです。そこで長谷部安春監督に「扇子を持っても良いですか」って提案したら、了解をいただけたので持つようになったんです。

「みんな集まるのかな」って不安は感じましたね

そんな『あぶ刑事』の新作映画版『帰ってきた あぶない刑事』が、今回、8年ぶりに作られました。オファーをいただいたときに最初に思ったのは「またできるの?」って。

映画版が作られるようになってからは、一本終わるごとに「多分、これで終わるだろう」って必ず思っていたんです(笑)。

タカ役の舘ひろしさんとユージ役の柴田恭兵さんは僕と同世代だし、他のメンバーもみんな、それなりの年で、やっぱり体力的なこともあるから「みんな集まるのかな」って不安は感じましたね。そもそも、誰か一人が欠けたら成立しないですから、この作品は。

もともとは、ナカさんはタカとユージの上司でしたが、定年を迎えて、前作ではラーメン屋の店主、今回は情報屋に転職しているという設定です。たぶん脚本家も、僕の役をどうするかすごく悩まれているんだと思いますよ。だから、もし次作が作られて、また出させてもらえるとしたら、養老院に入っているんじゃないですかね(笑)。

プライベートでは、72歳です。

今は平均寿命も80歳を超えて、人生100年時代なんて言われているから、僕もこれからだと思いますね。今回の映画でも、ユージのセリフに「人生の黄金時代は老後にある」っていうのがありましたけど、いくつになっても人生に夢を持つということが大事だと思うんです。僕自身も、死ぬまで舞台に立ち続けたいと思っています。生涯現役です。だから、老後について考えるよりも、ずっと続けていくために、もうひとつもふたつも上の高みを目指して頑張らなきゃいけないな、とは思っていますね。だって、そうしないとボケちゃうと思うんで(笑)。

ベンガル(べんがる)
1951年8月17日、東京都出身。自由劇場を経て、1976年に柄本明、綾田俊樹とともに『劇団東京乾電池』を結成。その後も、個性派俳優として映画や舞台、テレビドラマなど幅広く活躍している。

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