日本発「ホラーIP」でグローバルに勝負する! 〜闇×UNITED PRODUCTIONS社長インタビュー / Screens

株式会社MBSメディアホールディングスのグループ会社で、先鋭的なホラーコンテンツを展開する株式会社闇(本社:東京都港区、以下「闇」)と、ドラマ・映画・バラエティなど幅広いジャンルの映像コンテンツを手掛ける株式会社UNITED PRODUCTIONS(本社:東京都渋谷区、以下「UP」)が、2024年2月29日付に資本業務提携契約を締結した。

ホラー×テクノロジー(ホラテク)を基軸に据え、圧倒的な企画演出力と没入感で若年層を中心に幅広い層から多くの支持を集める闇と、アーティストやタレントなど各種IPの保有から幅広い映像コンテンツ制作力を擁するKeyHolderグループにおいて、映像制作事業の中核を担うUPとの提携は、Z世代を中心に熱が高まるホラージャンルのさらなる盛り上がりを生みそうだ。

両社はお互いにどんな魅力を見出し、展望を描くのか。株式会社闇 代表取締役社長CEO 荒井丈介氏、株式会社UNITED PRODUCTIONS 代表取締役社長 森田 篤氏にお話を伺う。

■「ホラーはグローバルで戦えるジャンル」初対面から意気投合

──業界内外で大きな話題となっている今回の資本提携ですが、両社の出会いはどのようなきっかけから生まれ、どのような点にお互い魅力を感じられたのでしょうか。

荒井 丈介氏

荒井氏:2020年、ちょうどコロナ禍に入り始めたくらいの時期に、MBSの先輩から「ぜひ紹介したい人がいる」と森田さんを紹介いただいたのが最初でした。「ホラーには海外で勝負できるポテンシャルがあるんです! 闇はこんなコンテンツを作っています、見てください!」と、思えば最初から猛プッシュの勢いでしたね。

森田 篤氏

森田氏:荒井さんから頂戴した闇の名刺がとても衝撃的で。黒くてツヤツヤとした加工がされていて、高級感のある手触りだなと思っていたら、触ったところが体温に反応して鮮血のような色に変わっていくギミックが仕掛けられていて、「なんだこれは!」と(笑)。こんなところまで演出を突き詰めているのか、と一目惚れしてしまいました。

荒井氏の名刺

ホラーに特化したプロダクションという存在も魅力的でしたし、クリエイティブとテクノロジーの両輪でゲームやデジタルに強みを発揮しているという点にも、会社として大きな成長性を感じました。

荒井氏:森田さんにはその場で闇のコンテンツをご覧いただくと、感想がどれも「そう言ってもらえて嬉しい!」というポイントを的確に突いていらして、作り手として非常に近しい感覚をお持ちだなと。「ホラー=怖い」というひとつの側面だけでなく、ビジネスとして大きなポテンシャルを持ち、世界のエンタメ市場で通用しうるという考えが最初から一致していたのも嬉しかったですね。

闇の代表になった当初から映像作品は外せないと考えていたのですが、当時の闇には企画はあっても制作体制がありませんでした。UPさんは映像制作会社として多数の実績をもっておられて、KeyHolderグループとしてIPも多数展開されている、さらに自社やグループ会社に多数のクリエイターを擁されていると伺い、一緒にコンテンツ作りをさせていただけたらすごい爆発力を生みだせるのではないかと一気に思いが高まりました。

森田氏:恐怖という感情は人間としての根源にある普遍的なものであって、言葉や文化にかかわらず等しく感じられる。ホラーこそ、日本からグローバルに打って出て勝てるのではないかと。ぜひ、一緒に日本発の「ホラーIP」を生み出しましょう、と意気投合しました。

──まさに恋愛結婚の様相ですね!

森田氏:当時はコロナ禍や組織的な事情といった壁が少なからず存在していたのですが、それ以上に相思相愛の気持ちが強くて。2022年の年末に「結婚しましょう」と"プロポーズ”させていただき、未来を見据えた議論を重ねて資本提携に至りました。

■豊富なアセットと視座を組み合わせ、圧倒的な「没入感」を生み出す

──今回の業務提携によって期待すること、これからの動きとして構想されていることについて、ぜひお聞かせいただければ幸いです。

森田氏:UPが映像コンテンツ制作プロダクションとして取り組んできた、映画やドラマなどの企画開発ノウハウの共有や、テレビ各局さんとのパイプを通じた提携ができればと考えています。ありがたいことに早くも多くの引き合いを頂いており、大きな盛り上がりを見せています。

KeyHolderグループとしてもIPやゲーム開発などさまざまなアセット、リソースを持っていますので、これらを活かした新機軸のコンテンツ開発にも取り組んでいきたいですね。昨年5月にはグローバル基準の映像制作に特化したスタジオ「TOKYO ROCK STUDIO」もグループに加わりましたので、世界に向けたホラーコンテンツ展開の追い風になると期待しています。

荒井氏:直近の話として、ホラージャンルを系統だてて解説し、人気ホラー作家陣による書き下ろし作品をまとめた闇監修の書籍「ホラーの扉」(河出書房新社)の映像化プロジェクトが始まっています。これはUPさんと組んでこその取組ですので、ぜひご期待ください。

そういえば最近は、一見してホラーに見えないが没入していくとそこに恐怖が仕掛けられていくという新機軸も生まれています。ホラーと知らずにさまざまメディアやツールという入口から入ってきた人々が、気が付けばホラーという仕掛けを介して別の新たなコンテンツや楽しみ方を見つけていく。そんな圧倒的な没入感が味わえる作品を作って見たいですね。

──ホラーを通じて物事の新たな視座を提供する、というアプローチは新鮮ですね。

荒井氏:「ホラー×テクノロジー=ホラテク」を掲げる闇ですが、ホラーという題材によって技術のありようも変えられたら面白いなと。たとえばVRの機能を紹介するときに、ホラー映像は相性が良くて直感的にそのスペックを体感できるし、AIも有能な秘書じゃなくて「自分の背後霊」として設定すれば、エンタメ度が上がって普及のスピードが変わるかもしれません(笑)。

──あらゆるものにホラーが“宿る”ことで、これまでにないコンテンツが生まれていくのですね。

荒井氏:雑誌やテレビなどのメディアを通じて都市伝説化した「口裂け女」や、VHSテープを通じて”増殖”した『リング』の貞子のように、その時々のテクノロジーやメディア、デバイスと組み合わさることで「なんだこれは! 見たことない!」と思うような斬新な光景を描いたり、これまで考えられなかったような世界観同士がリンクする仕掛けが作れたりしたら面白いですね。そういう意味ではこれからはAI×ホラーに注目しています。

■「怖さだけの追求」から脱し、ファッション・ポップカルチャーとしてのホラーへ

──最後に改めて、お二人のホラーに対する思いと展望をお聞かせください。

荒井氏:ホラーは基本フィクションであり、エンタテインメントです。ただ、それによって感じる怖さが実体験として自分の身にふりかかるかもと脳内変換される、いうなれば想像力がドライブすることで生まれる未知の体験が究極的な魅力なのだと思っています。恐怖という感情は人間がもともと持っている生存本能から生まれるもので、そこに訴えるものは圧倒的なエンタテインメントになるのです。

残念ながら、日本におけるホラーはどこかカルチャーとして日陰者でネガティブな印象がまだまだ強くて、「ホラーが好きなんです」となかなか他人に言いにくい雰囲気がありますよね。

その点、海外のホラーに目を向けてみると、「ここまで見せちゃって大丈夫なの?!」というくらい振り切ったスプラッターものから、かわいい人形に凶悪犯の霊が憑依する『チャイルド・プレイ』のような作品まで、幅の広さもスケールの大きさも違うことに驚かされます。人気ジャンルとして普通のエンタメとして市民権を得て楽しまれています。

こうした文化的なギャップを埋めるためには「ボーダレス」な企画と制作体制も必要になってくると思います。

森田氏:闇さんが手掛けられているコンテンツは、『つねにすでに』(編注:ホラーストーリーの断片を複数のネット媒体やネットミームに乗せて分散、拡散させるプロジェクト)をはじめとして、映像だけでなくwebコンテンツ、リアルゲームやイベントと本当に幅広いですね。ホラーがコンテンツとしてアウトプットできるプラットフォームや表現の幅の広さには、IPビジネスの舞台としての魅力を感じます。

荒井氏:ホラーエンタメをもっと多くの人に楽しんでもらうにはポップカルチャーとしてのポジションを築くことが重要だと考えます。とかく日本のホラーは「とにかく怖く、怖く」と追い求めがちでしたが、いま、その価値観をひっくり返す時が来ていると思います。闇のコーポレイトビジョンは「怖いは楽しいで世界中の好奇心を満たす」です。怖さを担保したクリエイティブとの掛け算、たとえばホラー×ファッションみたいなアプローチで「怖くてかっこいいじゃん!」と思ってもらえるようなコンテンツ作りにもこれからチャレンジしていきたいと思います。

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