合言葉は「Fly! TAKUMI」 32歳〝博多のミスタービーチバレー〟最終決戦、三度目の正直でつかんでみせるパリ切符

所属先のANAあきんど福岡支店を訪れ、広報担当の武藤裕紀子さん(中央)とのツーショット写真に納まるビーチバレー日本代表候補の高橋巧

今夏のパリ五輪の出場権を懸けたビーチバレーボールの「コンチネンタルカップアジア大陸予選第3フェーズ」が6月21日から23日まで中国で開催される。無尽蔵のスタミナと卓越したスピードを武器に「博多のミスタービーチバレー」と呼ばれる高橋巧(32)=ANAあきんど=は男子日本代表候補6人の一人。自身初の五輪チケットを手にするには、大会直前に決まる4人の代表メンバーに入った上で、優勝国に与えられるアジア枠をつかみ取らなければならない。福岡の浜で心技体を鍛えてきた国内の第一人者は、地元の声援を背に「Fly! TAKUMI」を誓った。

日焼けした精悍(せいかん)なマスクが一層引き締まった。5月31日。高橋は日本代表候補選出の報告を兼ねて、福岡市内にあるANAあきんど福岡支店を訪れた。「試合に負けてつらい時、勝ってうれしい時…どんな時も温かい応援でサポートしてくださる皆さんに、いい報告と『わくわく』をお届けしたい」。所属先の社員から激励を受け、決意を新たにした。

日本は男女ともにパリ五輪の出場権を獲得できておらず、優勝国に与えられるアジア枠を狙い、コンチネンタルカップのアジア大陸予選第3フェーズに臨む。出場4選手が確定している女子に対し、男子の出場選手は決まっていない。リオデジャネイロ、東京の両五輪予選で涙をのんだ高橋が「三度目の正直」で五輪切符をつかむには、現在6人の「代表候補」ではなく、4人の代表メンバーに選ばれなければならない。

阿蘇出身の池田隼平とペア、ツアーで準優勝

さいたま市出身の高橋が関東から九州に移ったのは2022年の夏。妻真実さんの故郷でもある福岡市を活動拠点に、1996年アトランタ五輪代表の高尾和行コーチ(57)からマンツーマンで指導を受けながら、レベルアップを図ってきた。「体の動かし方や駆け引き面など多岐にわたって深掘りしてきました」。流した汗は結果に表れた。2023年は国内最高峰の「マイナビ・ジャパンツアー」で10戦全て決勝に進出し、7勝をマーク。杭州アジア大会にも出場した。

今年は熊本県阿蘇市出身の池田隼平(31)=カブト=と新たにペアを組み、4月に海外での大会に出場した。プロツアーのタヒチ大会では準優勝。今回の五輪予選の前哨戦と位置づけていたタイでのアジアツアーは5位どまりながら「ベスト8に入ったチームに力の差は感じなかった」と、決して悲観はしていない。

【次ページに続く】テーマは「ゲームの支配」

高尾コーチと共有するテーマは「ゲームの支配」―。2対2で戦うビーチバレーの試合で常に意識するのが「2―1」の数的優位の状況をつくることだ。「フェイクを効果的に交えながら相手ブロッカーを私と池田選手のコンビネーションで崩していく。そういう試合運びができれば」。手応えはつかみつつある。

普段練習している「シーサイドももち海浜公園」の浜辺には、ふらりと観光客もやって来る。「博多湾に面した百道浜(ももちはま)という場所なんですが、人気の観光スポットなので人も集まりやすく、身近にビーチバレーを楽しめるんです。コートもあるので、貸してあげたボールで楽しそうに遊んでいる姿を見ると、うれしくなります」。気さくな性格もあり、ふらりと入った居酒屋でも店員や客と意気投合するという。「食事もおいしいし、人も優しい。博多の水が合っています!」。すっかり第二の故郷になっている。

好きな言葉は「人生日々笑歩」

「まだまだマイナースポーツなので『ビーチバレーを初めて知りました!』とか『近くで試合を見たい!』といった声が励みになります。そういった声を増やしていくためにも勝たなければいけませんし、応援される選手になりたい」。道は険しくても、好きな言葉「人生日々笑歩(しょうぶ)」を胸に言い聞かせ、全力で切り開いてきた。パリへのフライト準備は万全。両翼を広げ、32歳の夢追い人が福岡から羽ばたく。
(西口憲一)

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妻真実さんの妹は元Vリーガー

高橋 巧(たかはし・たくみ)1991年10月1日生まれ。さいたま市出身。ママさんバレーをやっていた母奈津子さんの影響で、1歳からバレーボールに触れ、同市の大砂土(おおさと)小1年から本格的に始める。宮原中、春日部共栄高(埼玉)ではリベロでプレー。高校時代の最高成績は全国高校総体3位。ビーチバレーに転向した了德寺大(現SBC東京医療大、千葉)で全日本大学選手権3連覇。ビーチバレージャパンは2013年から4連覇(個人)。22年夏から福岡市を拠点に活動。得意なプレーはサーブとレシーブ。身長178センチ、体重82キロ。18年から21年までANAセールスで、現在はANAあきんど所属。妻真実さんの妹の戸江真奈さんはバレーボールVリーグ女子1部の久光スプリングスでリベロとして活躍し、22~23年シーズン限りで現役を引退した。戸江さんとは「マナちゃん」「タクミくん」と呼び合う仲。日の丸を背負って五輪のコートでプレーすることが夢だった義妹の応援も励みになっているという。

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