5月3日、F1グランプリが開催された米国のマイアミでフェラーリのニューモデルが発表された。電気が幅を利かせている昨今なので、「12(ドーディチ)チリンドリ」という車名を聞いてほっと胸をなでおろしたファンも多いはずだ。チリンドリはイタリア語でシリンダー(気筒)を意味する。
長大なフロントボンネット下に搭載しているのは最高出力830psを誇る6.5リッター、V12自然吸気エンジン。「F12ベルリネッタ」や「812スーパーファスト」の血統を受け継いだフラッグシップモデルの最新版ということになるが、今なおエンジンに電動化システムを用いることなく、またターボなどの過給機にも頼っていないあたりが逆に新鮮と言える。
発表されている型式は「F140HD」。ということは2000年代初めにスーパースポーツ「エンツォ フェラーリ」に搭載されて登場したV12エンジンの最新版ということになる。組み合わせられる8速DCTのギアボックスも、先代モデルと言うべき「812コンペティツィオーネ」から受け継いだものとなるはずだ。
今回、エンジンとともに話題になっているのが、スタイリングだろう。古くからのフェラーリファンであれば、左右のヘッドランプの間が黒っぽいパネルで覆われた姿を見てすぐに「あ、デイトナだ!」と気づくはず。1968年にデビューした2シーターモデル、デイトナことフェラーリ「365GTB/4」がそのモチーフになっているのである。
フェラーリはこれまでも自らの華々しいアーカイブからデザインのヒントを得てきているが、今回ほど明確に過去のモデルへのオマージュを示した例は珍しい。また、クーペとスパイダー(オープン)の2モデルが同時に発表された点も、これまでにないトピックとなっている。
現代のフェラーリはV8エンジンを車体中央(ミッドシップ)に搭載したモデルが高い人気を誇っているが、メーカーの伝統と照らし合わせればV12エンジンを搭載した2シーターモデルこそが主役という事実は揺るがない。12気筒ならではの甲高い排気音がもたらす官能性能も唯一無二のものだ。
多くの自動車メーカーと同じように電動化に対する取り組みも行っており、2030年にはBEVをリリースすると宣言している。一方で、今回の12チリンドリに代表されるように、伝統的なV12エンジン搭載モデルをリリースし、その魅力をどうやって後世に伝えていくかということにも考えを巡らせているに違いない。
クーペは年末、スパイダーは来春のデリバリー開始になるという。以前は812コンペティツィオーネが純粋なV12エンジン搭載の2シーターモデルの最後になると言われていたが、ストーリーは続いていたのである。伝統的でしかしモダンなスタイリングを与えられた最新モデルの上陸を待ちたい。
フェラーリ 12チリンドリ 車両本体価格: 未定
- ボディサイズ | 全長 4733 X 全幅 2176 X 全高 1292 mm
- ホイールベース | 2700 mm
- 車両重量 | 1620 kg
- エンジン | V型12気筒 NA(自然吸気エンジン)
- 排気量 | 6496 cc
- 最高出力 | 830 ps(610 kW) / 9250 rpm
- 変速機 | 8速 DCT
Text : Takuo Yoshida