【八戸市美術館】館長が復活させた「美」を展示して製作キット発売 ⇒「あまりにもストーリーとして美しすぎる」と大きな反響

青森県内の美術館で「美」が失われるという、まさかの事態が発生。館長の機転で乗りきりました。一連の騒動を逆手にとった展示が始まり、SNSで大きな反響を呼んでいます。

八戸市美術館で展示されている“館長の「美」”。6月2日撮影(平野智紀さん提供) / Via x.com

失われた「美」を館長の手で復活させた八戸市美術館

話題となっているのは、青森県八戸市が運営する八戸市美術館 。地元メディア「 八戸市経済新聞 」によると3月11日夜、コンクリートの壁面にステンレスで「八戸市美術館」と書かれた銘板のうち「美」の文字だけなくなっていることに警備員が気づいたそうです。
辺りを捜索しても「美」が見つからなかったことから、応急措置として一級建築士の資格を持つ佐藤慎也館長がスチレンボードで「美」を手作り。4月3日、銘板に張りました。
同館の担当者によると、「なくなった文字と同様のステンレス製の銘板を注文しましたが、受注生産のため時間が掛かる」ことから、建築士の佐藤館長が使い慣れたスチレンボードで「応急的に作製」したそうです。

5月上旬、佐藤慎也館長がスチレンボードで手作りした「美」を応急措置として銘板にしているときの写真(平野智紀さん提供) / Via x.com
5月上旬、佐藤慎也館長がスチレンボードで手作りした「美」を応急措置として銘板にしているときの写真(平野智紀さん提供) / Via x.com

その後、5月15日にステレンス製の「美」を銘板に再設置。スチレンボードの「美」は取り外しましたが、SNSで展示を希望する声が多く寄せられていたことから同月18日から“館長の「美」”として館内で展示が始まりました。
展示物の解説には、以下のように書かれています。
「本展示は、2024年4月3日〜5月15日までの間、当館の『美』を守った館長の『美』への感謝と、風雨に屈しなかったスチレンボードの耐久性に敬意を表し、広く紹介するものです」

八戸市美術館で販売されている「館長の美」製作キット6月2日撮影(平野智紀さん提供) / Via x.com

展示と同時に「館長の美」製作キットを330円で数量限定で館内で発売しました。同館の担当者によるととりあえず50個を準備し、状況をみて増産するとのこと。6月6日現在で30個程度売れているそうです。
「展示している横で製作キットが売っていたら面白いな」という担当者の発案で、委託業者にキットを販売してもらったという流れでした。同館ではなく委託業者の収益になるそうです。
「美」が行方不明になるというアクシデントを逆手に取り、館長の手づくりの「美」を展示・販売するとは、転んでもただでは起きない美術館ですね!

「災い転じて福となす」写真を投稿した平野智紀さんは振り返る

今回の経緯をX(旧Twitter)で報告して大きな反響を呼んだのは、公立はこだて未来大学准教授の平野智紀さん(@tomokihirano )です。
アートプロジェクトの関心も強く、『 鑑賞のファシリテーション 』(あいり出版)などの著作で知られています。

🗣️「前回訪問したときはスチレンボードで応急処置されていた」
🗣️「今回再訪したら、そのときの『美』が展示され、さらに『美』制作キットが販売されていた」
こんな風に6月4日、写真4枚を添えて報告したところ、2万4000件もの「いいね」を集めました。
💬「これをネタとしてアートにしてしまう美術館、さすが」
💬「美の逃走から始まるストーリーの終着駅が『美』キットになるの、あまりにもストーリーとして美しすぎるんよ」
💬「欲しすぎる、この制作キット……」
平野さんによると、館長が応急措置した「美」が銘板になっているところは、5月上旬の大型連休に合わせて「 AOMORI GOKAN アートフェス 」のため八戸市美術館を訪問したときに撮影したそうです。
このとき図録を館内に置き忘れたことから6月2日に取りに行ったところ、「館長の美」が展示・販売されていることに気づいて撮影したとのことでした。
2回訪れたからこそ「美」の顛末を知ることができた平野さん。「結果としてはよかった」と振り返りました。今回の試みについて以下のように感じているそうです。

「八戸市美術館は、展示だけでなく活動を重視する美術館だと感じています。この試みも、災い転じて福となすというか、この出来事をどうやって来館者にとって意味のある美術館体験にするか、と考えられた結果なのかなと思います」

八戸市美術館の外観 Daici Ano(公式サイトより) / Via hachinohe-art-museum.jp

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