「セクハラです」「何のことだ!」IT社長のもとへ、弁護士から突然の連絡…「元秘書との泥沼裁判」の顛末

(※写真はイメージです/PIXTA)

「不倫」「浮気」「離婚」「セクハラ」……銀座さいとう法律事務所には、今日も有象無象のトラブルが舞い込みます。本連載では、齋藤健博弁護士が実際に寄せられた事例をもとに、男女の法律問題を解説していきます。

「初めての社長秘書」仲良くやっていると思っていた矢先…

吉野さん(仮名/46歳・既婚男性)は、200人規模のIT企業を経営する社長です。

初めての社長室秘書として、31歳・シングルマザーの女性を雇うことを決めた吉野さん。秘書について「綺麗な女性だった」と話します。予定の管理など身の回りのことを一通りやってもらっていましたが、仕事ぶりは上々で、このまま続けていってもらいたいと考えていたそうです。

そんな吉野さんには愛人が二人いました。二人とは月に何度か食事をして、お金を渡す関係でしたが、「だんだん飽きてきた」とのこと。そんな中で秘書の「愛人と違ってなにも要求してこない」姿に、癒しを求めるようになっていきます。

あるとき彼女から肩たたきの申し出があって以来、肩をたたいてもらうようになり、退勤後には車で自宅の近所まで送っていくようにもなりました。

会食帰りにもう一軒行くことになったときには、「育児にお金がかかる」と彼女の悩みを聞くなど、ごく普通の会話をして、その後はそのまま帰宅したそうです。

「良い関係を築けているな」と思っていた矢先、秘書は突然退社を申し出て、姿を消してしまいました。さらに姿を消した3日後には、「残業代」を請求する連絡が届きます。

受け取った請求書には、終業後の食事や二次会への誘いに対する残業代、日常的な業務に対する不満が並んでいます。その中には驚くことに、セクハラやパワハラの主張も含まれていました。

「セクハラやパワハラというのはよくわからないが、残業代くらいなら…」と軽く考えていた矢先、弁護士から連絡が入りました。

弁護士は「彼女は日常的にセクハラに悩まされていたと言っています」と告げました。吉野さんは驚きのあまり声を荒げて、「日常的なセクハラとは何のことだ!」と怒鳴ってしまいます。

弁護士は冷静に答えました。「彼女は、あなたの怒鳴る姿勢が嫌だったと言っています。また、性的な会話に付き合わされたとも訴えています」

「怒鳴る姿勢が嫌だ」とは家庭でも指摘されていたことだったので少々納得しましたが、「性的な会話」については本当に覚えがありません。そこで吉野さんは代理人弁護士を探し、相談することにします。その結果、性的な会話はやはりなかっただろうという判断が出ました。

その判断にホッとしたものの、本件を解決するため、不本意ながらも残業代金の支払いを申し出ました。しかし相手の代理人弁護士からは「彼女はセクハラに対して強い関心を持っているため、簡単には解決しないでしょう」との通知が来ました。

納得がいかない吉野さんは、代理人弁護士同士での対面協議を求めました。

協議の内容を報告され「さらに驚いた」…「彼女の主張」の内容

協議の内容を報告され、吉野さんはさらに驚きました。

弁護士が伝えたところによれば、彼女の主張は「送り迎え中の自動車内で肩に触れられた」「自宅に行きたがる素振りをしつこく見せられた」「子どもや元旦那のことを根掘り葉掘り聞かれた」というものだったのです。

思い返すと、確かに彼女との会話には元旦那の悪口が登場することが度々ありました。吉野さんは彼女の話を聞いていただけのつもりでしたが、「会社でできることはする」「俺が元旦那を許さない」と発言したことがあり、「XXXちゃん」と下の名前で呼びながら髪に触れたことも思い出しました。吉野さんとしては思いやり・好意のつもりで行った発言と行動でしたが、セクハラになってしまっていたわけです。

結局相手の弁護士は裁判を起こし、和解を申し入れても拒否されてしまいました。

訴訟は進展していきました。半年後、あるスクリーンショットが裁判に提出されました。それは原告の女性と、会社の重役として吉野さんが重宝していた女性とのLINEのやり取りでした。「社長、いつもそうだから」「触られてない? 大丈夫?」という内容でした。

最終的に相手の弁護士が折れ、100万円で和解を提案されました。社長は和解に応じましたが「心は晴れていない」「いわれのないセクハラだ」と今でも感じています。LINEを送っていた会社の重役に対して「文句を言ってやりたい」とも語っています。

事件は一応解決しましたが、「後任の秘書のことは、相変わらず自宅まで送り届けている」と語る吉野さん。「家族に訴訟のことがバレなかったのはよかったですが、弁護士費用も高額だったし気持ちが沈んでいます」とまったく反省していない様子…。

今回の出来事から学ぶべきことは、セクハラやパワハラの認識の違いが大きな問題を引き起こすということです。吉野さんは「好意や思いやりのつもりだった」と語りますが、相手が不快に感じた時点で、それはセクハラになり得るのです。

さらに本件では、「愛人の代わりに秘書に癒しを求めていた」とも語っており、不適切な目線で見ていたことは否めないでしょう。

こうした認識を改めるためには、職場全体でハラスメントに対する教育や啓発を強化し、お互いに尊重し合う職場環境を作ることが不可欠です。

社長自身も、自分の言動を見直し、常に相手の立場に立って考える姿勢が求められます。問題が発生した際には、迅速かつ誠実に対応することが重要です。ハラスメントがなく、社員一人ひとりが安心して働ける環境を整えるためには、こうした取り組みが不可欠です。

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