市販薬などを過剰に摂取する「オーバードーズ」。
急性中毒や死亡事例もある危険な行為にも関わらず、幻覚や精神の興奮作用によって不安やストレスから解放されるとして、一部の若者の間で広がっています。様々な悩みからオーバードーズに手を出し、依存症になってしまう若者たち。
精神科病院で行われる依存症の治療、患者同士の交流を通して「自分だけではない」という思いを抱くことがカギとなるようです。
依存症の治療に取り組む患者10代の若者の姿も多い
福岡県久留米市の精神科病院、「のぞえ総合診療病院」。
スタッフも交えて輪になって話すのは、「のぞえ総合診療病院」に入院する17歳から19歳の患者たちです。
「のぞえ総合診療病院」では、うつ病や統合失調症といった精神疾患のほかに、薬物やゲームなど、依存症からの回復に向けた治療も行われています。
かぜ薬を40錠一気に…手を出したきっかけは「寂しさ」から
5月の取材当時、入院中だったAさん(19)は、去年までの約2年間、薬物に依存していた時期があったと話します。
Aさん「メジコンというかぜ薬なんですけど自分は40錠一気に飲んだり。薬を持って学校に行ったり、『OD』しながら通ったりしていた」
「OD」とは、風邪薬などの市販薬を過剰に摂取するいわゆる「オーバードーズ」のことを指しています。
大量摂取で引き起こされる薬本来の効能ではない幻覚や精神の興奮によって、不安やストレスから解放されるとして、一部の若者の間で広がっています。
健康被害だけでなく、命を落とす危険性もありますが、Aさんがオーバードーズに手を出したきっかけも不安な気持ちを解消するためでした。
Aさん「自分は寂しさが強くて。家でODしたときに家族が心配してくれる、心配してくれているのを愛されていると実感したい」
オーバードーズ疑いで搬送20代以下の若者が約45%占める
厚生労働省の資料によると、2022年に救急搬送された「医薬品の過剰摂取が疑われる人」のうち20代以下の若者が全体の半数近くを占めています。
また、全体では女性が7割以上と男性を大きく上回りました。
その理由について専門医は次のように分析します。
のぞえ総合心療病院堀川智史医局長「共通しているのは気持ちをため込んでしまうところ。性的なものなど、女性のほうが搾取をされやすい。性的な虐待のトラウマから市販薬の依存も出てきたりする」
表面に表れにくいオーバードーズと依存症
薬の過剰摂取に至る背景は患者によって違い、言動に表れにくいため根本的な原因を見つけることは簡単ではないといいます。
のぞえ総合心療病院堀川智史医局長「迷惑や心配かけたくないから『大丈夫です』と言いたい思いと、本当はきつくて助けてほしい思い、両方の思いがあるので本心が見えづらいところが依存症の難しいところ」
患者同士の交流機会を互いに刺激し合い目指す依存症からの脱却
「のぞえ総合心療病院」では、治療の一環として、患者同士が接する機会を設けています。
スタッフ「褒められたときにどう感じる?」
Aさん「そもそも親からそんなに褒められたことがなかったから慣れてないんですよ。うれしいけど、恥ずかしい」
これまで薬物などの依存症に悩まされ、入退院を繰り返してきたAさんは7回目となった今回の入院生活について話しました。
Aさん「前の入院よりも自分の振り返りができたから意味のある入院だったと思う」
のぞえ総合心療病院堀川智史医局長「自分だけではなかったという思いもとても大事になる。どうせ変われないと思っていた患者さんが、変わっていく別の患者さんを見ることで励みになったり、希望になったりするなかで、徐々に進んでいくことも大きい」Aさんと向き合ってきた作業療法士は成長を感じていました。
のぞえ総合心療病院吉川紗加さん「自分への気づきをすごく話せるようになっていて、だからこそ苦しみながらも何とかしていきたいという思いが語られているような感じがしている」
不安はあるそれでも前を向く若者たち
Aさんは「今でも依存してしまう」という不安がなくなったわけではありませんが、それでも依存症から抜け出すために前を向いています。
Aさん「ギターで好きな曲を弾きたくて、それで始めてみようかなと。暇な時間があったら依存してしまうし、自分を傷つける依存があるからそれをやらないために趣味に没頭する、傷つけない方法で」