スピンアウトの“ジンクス”打ち破った『デジボク地球防衛軍』は、本編シリーズにさらなる発展をもたらすのか

アクションシューティングゲーム「地球防衛軍」シリーズに満を持して、正真正銘の「きょうだい」が誕生した。その名は『デジボク地球防衛軍2』である。

2023年に生誕20周年を迎えた『地球防衛軍』。そのアニバーサリーイヤーにおける新作として発売されたのが、『四角い地球に再びシカク現る!? デジボク地球防衛軍2 EARTH DEFENSE FORCE: WORLD BROTHERS』(以下、デジボク地球防衛軍2)だ。

前作『ま~るい地球が四角くなった!? デジボク地球防衛軍 EARTH DEFENSE FORCE: WORLD BROTHERS』(以下、デジボク地球防衛軍)は2021年に発売。シリーズとしては、『EARTH DEFENSE FORCE INSECT ARMGEDDON』(2011年発売:以下、インセクトアルマゲドン)、『EARTH DEFENSE FORCE: IRON RAIN』(2019年発売:以下アイアンレイン)などの系譜に連なるスピンアウト作品として登場した。

しかし、「地球防衛軍」のスピンアウト作品にはとある「ジンクス」があった。シリーズファンから十分な支持が得られず、続編も作られず1作で終わるというものだ。『デジボク地球防衛軍』も過去の例から、そのジンクスにならってしまうことが懸念されたが、その結果は今回の続編発売が証明する通り。ジンクスを打ち破るという、初の展開を見せた。

さらに今回の『デジボク地球防衛軍2』で文字通り、本編『地球防衛軍』とは異なる道を歩む「きょうだい」としての成長を見せつけた。

実際に『デジボク地球防衛軍2』は、前作の長所をさらに伸ばすと同時に、独自の魅力を持つ新作に完成されている。これから「地球防衛軍」シリーズを始めたいと考えている人にも、『デジボク地球防衛軍2』はこれ以上なく打ってつけである。

■多大な恩恵をもたらした『デジボク地球防衛軍』の“ボクセル”グラフィック

前作も含む、『デジボク地球防衛軍』の最も素晴らしい特徴はグラフィックだ。

かの『Minecraft(マインクラフト)』を思わせる、すべてが四角い立方体で構成された世界が『デジボク地球防衛軍』の舞台である。そんな世界で巨大な蟻や蜘蛛、怪獣といった侵略生物たちとの戦いを繰り広げていくその様は、写実的なグラフィックを基本とする本編「地球防衛軍」シリーズにはない、唯一無二の映像美と迫力がある。

同時に、このグラフィックこそがスピンアウトのジンクスを打ち破る原動力のひとつになった印象だ。『デジボク地球防衛軍2』の発売当日、ファミ通(ファミ通.com)に掲載されたインタビューにおいて、プロデューサーの岡島信幸氏が述懐されているが、過去のスピンアウト作品は、グラフィック面での差別化が足りていなかった。

遊び方、ゲームデザインなどでスピンアウト特有の別路線をアピールしていたものの、見た目が本編『地球防衛軍』とほぼ変わりなかったのである。

そのため、シリーズ経験のあるプレイヤーほど、強いバイアスが生じやすい側面があったように思う。『インセクトアルマゲドン』を例に出せば、敵の侵略生物たちの出現数が少ないことに「もっと大群で攻めてきてほしい」、彼らのやられ様が大人しいことに「派手に散ってほしい」との思いを抱いてしまう、といった感じだ。

そもそも例に出した『インセクトアルマゲドン』の売りは、当時のシリーズとしては初のオンラインマルチプレイ、タスク形式で進むミッションといった部分にあり、それがスピンアウト独自の面白さと魅力を演出している。しかし、グラフィックは本編と同じ写実的なスタイル。ゆえに遊んでいると、そちらの影が脳裏にチラつきやすくなっている。

後の『アイアンレイン』もだが、いくら遊び方やシステム、ストーリー、世界観で独自性を出しても、グラフィックの作風が同じなら、本編と同じ土俵に立った作品に見えるのも無理はない。どんなに別物と言えど、シリーズ経験者であればあるほど、脳裏に本編の影がチラつき、その価値観で中身を見てしまう。

ストラテジーゲームとして作られた『SIMPLE2000シリーズ Vol.103 THE地球防衛軍タクティクス』、縦スクロールシューティングとして作られた『地球防衛軍4.1 WINGDIVER THE SHOOTER』は、ジャンルそのものを変えることで別物感を出せていたが、こと同じアクションシューティングゲームとなれば、その点が一層強く現れる。

そのため、ビジュアルからして違う『デジボク地球防衛軍』は、本編と同じ土俵に立っていない。侵略生物にしても、メンツは本編およびスピンアウト作品からの総出演なのだが、デザインが異なるので別物感が上回る。

また、コミカルになったことで、本編特有のグロテスクな表現も大きく緩和された。それでも蟻、蜘蛛などの侵略生物を倒した際には体液が飛び散り、身体がバラバラになる表現はある。だが、デザインがデザインだけに、ブロックで作られた模型が壊れた感じの表現になっている。生物自体のデザインも模型っぽさが際立っていて、写実的なグラフィックとは異なり本物っぽさも弱い。結果として、「地球防衛軍」シリーズの表現に抵抗を抱く客層にも届きやすいとの強みも生まれている。

このようにさまざまな恩恵をもたらし、シリーズの新境地を開拓した点でも、『デジボク地球防衛軍』は、まさにグラフィックが大きな力を果たした作品とも言えるだろう。

ただ、筆者個人としては、「なぜ、それに気づくまで時間がかかってしまったのか?」との思いもある。実際、本編は頭身高め、スピンアウトは頭身低めと棲み分けをし、成功を収めた作品として、セガの『初音ミク Project DIVA』シリーズと『初音ミク Project mirai』の一例があったためだ。

他の成功を収めたスピンアウト作品でも、グラフィックの作風を変え、本編と同じ土俵に立たせないよう工夫している例は結構見られる。カプコンの『モンスターハンター』シリーズのスピンアウト作品、『モンスターハンターストーリーズ』がいい例だろう。もっとも、同作はジャンルがRPGである時点で、本編の土俵に立ってすらいないのだが。

アクションシューティングのスピンアウトを作ろうとした狙いは、本編「地球防衛軍」シリーズの新作発売までのスパンが長くなっていることへの対策も兼ねていたと推測される。しかし、写実的なグラフィックの「地球防衛軍」は、本編自体がその需要を満たしてしまっているのだ。

それに気づかず、『デジボク地球防衛軍』の誕生まで待つことになったのには、もう少し他のスピンアウト作品の成功例を見て、アイディアを練っていただきたかったというのが、前述したインタビューを読んで感じた筆者の正直な思いである。

■続編『デジボク地球防衛軍2』で明確に固められた、テンポ重視のゲームデザイン

グラフィック以外にも『デジボク地球防衛軍』には特筆すべき見所がある。それがサブタイトルにもある「ブラザー」だ。

本編「地球防衛軍」は基本、シングルプレイなら1人のキャラクター(兵科)を操作し、侵略生物たちと戦うことになる。逆に『デジボク地球防衛軍』は4人の兵科、作中の呼び名で「ブラザー」を状況に応じて切り替え、戦っていくスタイルになっている。

これにより、本編「地球防衛軍」では到底難しい立ち回りが可能に。攻撃用の武器が弾切れを起こした際、別のブラザーに切り替えて攻撃を続行させる戦術は最たる一例で、よりスピーディに、テンポよく敵を迎え撃てる。

また、移動においても飛行系のブラザーに切り替えれば、その強みを活かしたショートカットができ、目的地に到達するまでの時間も大幅に短縮される。

なにより、これらのおかげで1ミッションの攻略に要する時間も短い。続編『デジボク地球防衛軍2』では、収録ミッション総数が本編並の100以上に増えているのだが、そのテンポ感は前作から据え置きで、サクサク進めていける。

このような遊び方全般に大きな変化を及ぼし、独自のテンポ感を出すといったさまざまなメリットが表現されており、極めて完成度の高いシステムに仕上げられている。下手すればこちらに慣れ過ぎて、本編に戻りにくくなることすらあるほどだ。

テンポ感へのこだわりは、成長システムにも見られる。「地球防衛軍」シリーズと言えば、敵を倒すと落とすアイテムを回収し、耐久力(アーマー)や新たな武器を調達してプレイヤーを強くしていくのが定番だ。ただし、スピンアウト作品ではこの形式を採用しないのがこれまでの当たり前となっていて、独自のスタイルを確立しようとする試みが見られる。

『デジボク地球防衛軍』もその傾向にならっているが、仕組みは非常にシンプル。アーマーはミッションをクリアするだけで上昇、武器はミッション内のフィールドのどこかで倒れている2~3人の「ブラザー」を救出すれば入手する形になっている。アイテムは回復系のものしか基本、敵は落とさないので、無限に敵が湧くポイントでアイテムを回収し続けるという作業が発生しないのだ。

おかげでスムーズに強化および武器の充実化を図れる。本編おいて、年々議題とあげられる成長システムに対するひとつの回答にもなっており、特にシリーズファンほど「この手があったか!」と感心させられるだろう。

しかも今回の『デジボク地球防衛軍2』では、ミッション完了後の会話イベントをスキップできる機能が追加。また、ミッション選択画面にも救出できるブラザーなどの情報が記されるようになった(※ミッションをクリアする前は伏せられていて、クリア後に出る)。このおかげで耐久力の強化、回収の繰り返しもスムーズに進めていける。これもシリーズファンほど、「本編に逆輸入して!」と熱望したくなるかもしれない。

ほかに『デジボク地球防衛軍2』ではブラザーが所持するアビリティ(能力)の増加に加え、武器専用の経験値とレベルアップ(パワーアップ)も導入された。これにより、弱い武器でも強化次第ではさらなる活躍の場を作れる。テンポに関連するところでは処理周りも軽くなり、特にNintendo Switch版は前作よりも気持ち早くなっているのは見逃せない。

違いの面ではグラフィックが最も目立つが、ゲーム周りも本編とは異なる遊び、とりわけテンポ感にフォーカスした設計になっている。その方向性は『デジボク地球防衛軍2』でも継承されるのみならず、さらなるパワーアップを遂げているので、よりスピーディに遊べる『地球防衛軍』という触れ込みに惹かれるものを感じたのなら、ぜひお試しいただきたいところである。期待を裏切らないテンポ感を保証する。

■2つの『地球防衛軍』がともにシリーズの歴史を作る未来が始まるのか、それとも……?

『デジボク地球防衛軍』はストーリーも本編とは異なり、ギャグとメタフィクションネタが盛りだくさんの明るいものになっているのも特徴。

前作は本編シリーズとスピンオフ2作のネタの総決算とも言える、お祭り感が強かった。続編はオリジナルキャラクターを中心に据えた展開が増え、シリーズファンでなくても楽しめる作りになっている。

ギャグにも一部、「地球防衛軍」のことをまったく知らない人も反応せざるを得ない強烈すぎる(危なすぎる)ネタがある。なかでもミッション45の会話、ミッション65の「戦車」に乗っての戦いには、思わず「あかーん!!」とツッコんでしまうだろう。

全体的に『デジボク地球防衛軍2』は前作の正統進化に徹しているが、その分、完成度は飛躍的に高まり、ストーリーでも独自色を出したことで、真の意味で「地球防衛軍」シリーズの「きょうだい」となった感じだ。今後、本編とは別のシリーズとして、独自に歩んでいくさらなる展開が期待される。

もし、相互が並行する展開になれば、システムや遊びやすさのさらなる発展や、新作が長らく出ないことへの枯渇感も大きく軽減されるだろう。同時に本編シリーズの開発に長年携わる開発会社、サンドロットに多少の余裕が生まれそうなところに筆者個人としては大変な期待を寄せている。

2013年の『地球防衛軍4』以降、サンドロットは同作を専門とする会社になりつつある。だが、その前には『鉄人28号』(PlayStation 2)、『超操縦メカMG』(ニンテンドーDS)、『斬撃のREGINLEIV(レギンレイヴ)』(Wii)といったオリジナルタイトルも手がけるなど、幅広い展開を見せていたのだ。

特に任天堂とのタッグを組んで開発された『超操縦メカMG』、『斬撃のREGINLEIV』の2作は今もなお、根強い支持を集めている。後者はオンラインマルチプレイ、敵における四肢の概念など、後の「地球防衛軍」に影響を与えた部分が多いのも見逃せない。

少しばかり「きょうだい」たる『デジボク地球防衛軍』がシリーズ展開の合間を埋めてくれそうなら、かつての新しい作品が出てくる展開が再現されるのでは? 今回の『デジボク地球防衛軍2』の誕生は、そんなワクワクする未来の到来を予感させられるのである。

しかしながら、スピンアウト作品が長続きする例は稀だ。前述で例に出した『初音ミク Project DIVA』シリーズのスピンアウト、『初音ミク Project mirai』は3作をもって展開を終えたほか、他にも続編は出たものの、以降の新展開がない作品はいくつかある。

ある種、究極的なスピンアウトの成功例として、任天堂の「スーパーマリオ」シリーズ(元は「ドンキーコング」シリーズからの派生)もある。とは言え昨今、長続きしたスピンアウト作品の例が少ないのを踏まえると、何の変化もない未来図も浮かぶ。

それでも過去の経験を乗り越え、ついに独自の一歩を踏んだ「地球防衛軍」のスピンアウト作品。願わくは、今後もシリーズとして展開し、本編シリーズと並行するもうひとつの「地球防衛軍」として発展し続けていただきたいところだ。もし仮に3作目があるなら、今度は本編シリーズからのネタを完全に封印した、完全オリジナルの内容に挑んでみるのもいいかもしれない。

ともあれ、今回の『デジボク地球防衛軍2』が、「地球防衛軍」シリーズにさらなる発展をもたらす存在になることを願う。これまでも、そしてこれからも頑張れ、EDF!

(文=シェループ)

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