スペースX、新型ロケット「スターシップ」第4回飛行試験実施 宇宙船の軟着水に成功

アメリカの民間宇宙企業SpaceX(スペースX)は日本時間2024年6月6日、同社が開発中の新型ロケット「Starship(スターシップ)」による第4回飛行試験を実施しました。今回の飛行試験でStarship宇宙船は上昇飛行を完了して宇宙空間を慣性飛行した後に大気圏へ再突入し、海上へ軟着水することに初めて成功しました。【最終更新:2024年6月7日16時台】

【▲ アメリカ・テキサス州にあるSpaceX(スペースX)の施設「Starbase(スターベース)」から第4回飛行試験のために打ち上げられた新型ロケット「Starship(スターシップ)」(Credit: SpaceX)】

Starshipは1段目の大型ロケット「Super Heavy(スーパーヘビー)」と2段目の大型宇宙船「Starship」からなる全長121mの再利用型ロケットで、打ち上げシステムとしてもStarshipの名称で呼ばれています。SpaceXによれば、両段を再利用する構成では100~150トンのペイロード(搭載物)を打ち上げることが可能であり、2段目のStarship宇宙船は単体でも地球上の2地点間を1時間以内に結ぶ準軌道飛行(サブオービタル飛行)が可能だとされています。

Starshipはアメリカ・テキサス州のボカチカにあるSpaceXの施設「Starbase(スターベース)」を拠点に開発が進められています。同社は2019年8月から2021年5月にかけてStarship宇宙船の大気圏内飛行試験をStarbaseで数回実施して帰還時の降下姿勢や着陸姿勢を実証した後、Super Heavyも含めたStarship打ち上げシステムの統合飛行試験を3回行いました。Super Heavyを分離したStarship宇宙船は高度100キロメートルを超えて宇宙空間に到達した後、第1回と第2回は発射1時間30分後にハワイ沖の太平洋へ、第3回は発射1時間5分後にインド洋へ着水する計画の下で行われました。

【▲ 参考画像:第2回飛行試験で上昇するSpaceXの新型ロケット「Starship(スターシップ)」(Credit: SpaceX)】

2023年4月の第1回飛行試験ではSuper Heavyの分離前にコントロールが失われたため、Starship宇宙船とSuper Heavy双方の飛行中断システムが作動して機体は分解し、飛行試験は発射約4分後に終了しました。続く2023年11月の第2回飛行試験ではSuper Heavyの分離に成功したStarship宇宙船が初めて宇宙空間に到達したものの、余剰分の液体酸素を放出(※ペイロードを搭載していなかったために計画された)したところ機体後部で火災が発生。機体に搭載されているコンピューター間の通信が失われたため、発射約8分後・高度約150キロメートルで飛行中断システムが作動して飛行試験は終了しました。また、分離後のSuper Heavyは機体を減速させるためのエンジン再始動に問題が生じ、発射約3分半後に分解して飛行を終えています。

2024年3月の第3回飛行試験ではSuper Heavy分離後のStarship宇宙船が発射約8分35秒後にエンジンの上昇燃焼を初めて完了し、発射約46分後に大気圏へ再突入しました。ただ、慣性飛行を開始してから数分後にStarship宇宙船は姿勢制御を喪失していて、耐熱タイルに保護されている面と保護されていない面の双方が高熱にさらされることとなり、発射約49分後・高度約65kmでテレメトリ信号が途絶して飛行を終えました。また、分離に成功したSuper Heavyは「Raptor(ラプター)」エンジンの一部で始動に問題が生じ、着陸燃焼時に予想を下回る推力しか得られなかったため、海面への軟着水には至りませんでした。

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■Starship宇宙船とSuper Heavyがそろって軟着水に成功

【▲ アメリカ・テキサス州にあるSpaceX(スペースX)の施設「Starbase(スターベース)」から第4回飛行試験のために打ち上げられた新型ロケット「Starship(スターシップ)」(Credit: SpaceX)】

日本時間2024年6月6日21時50分(アメリカ中部夏時間同日7時50分)、過去の飛行試験で得られた知見を反映して第4回飛行試験に挑むStarshipがStarbaseの発射台から打ち上げられました。

【▲ 大型ロケット「Super Heavy」の下部を捉えた映像。33基のエンジンのうち1基が停止していることがわかる。SpaceXのライブ配信より(Credit: SpaceX)】

SpaceXのライブ配信ではSuper Heavyに搭載されている33基のRaptorエンジンのうち1基が停止している様子が映し出されていましたが、全基が稼働した第2回・第3回の飛行試験時と同様にStarshipは上昇を継続します(※発射からの時刻、高度、エンジン稼働状況等の情報はSpaceXのプレスリリースやライブ配信を参照して確認、以下同様)。なお、Super Heavyのエンジンは33基のうち31基が稼働すればStarship宇宙船を軌道へ到達させるのに十分な推力が得られるとされています。

【▲ 大型宇宙船「Starship」と大型ロケット「Super Heavy」分離の瞬間。SpaceXのライブ配信より(Credit: SpaceX)】

発射2分53秒後にはホットステージング(hot-staging、Super Heavyを分離する直前にStarship宇宙船のエンジンを点火する方法)が実行され、Starship宇宙船とSuper Heavyが分離し、Super Heavyは直ちに13基のRaptorエンジンでブーストバック燃焼を実施します。

【▲ 大型ロケット「Super Heavy」からホットステージング用アダプターが分離された時の様子。SpaceXのライブ配信より(Credit: SpaceX)】

続いて、今回から帰還時の重量軽減対策として導入されたホットステージング用アダプターの投棄が行われました。降下を続けたSuper Heavyは発射7分9秒後・高度約1kmで着陸燃焼を開始し、発射7分24秒後にメキシコ湾の海上へ軟着水することに成功しています。

【▲ 分離後にメキシコ湾へ着水した大型ロケット「Super Heavy」。SpaceXのライブ配信より(Credit: SpaceX)】

Super Heavyを分離したStarship宇宙船は6基のRaptorエンジンで上昇を継続。発射8分36秒後・高度約150kmでエンジン燃焼を停止して慣性飛行に移りました。前回の第3回飛行試験では間もなく姿勢制御を失い始めたStarship宇宙船ですが、バルブ閉塞の対策が施された今回は安定した姿勢を保っていました。

【▲ 大気圏に再突入したStarship(スターシップ)宇宙船からStarlink(スターリンク)経由で送られた映像。SpaceX(スペースX)のライブ配信より(Credit: SpaceX)】

発射44分後・高度110kmを下回ったあたりから周辺にプラズマ化した大気が見え始め、Starship宇宙船は大気圏へ再突入を開始します。今回の再突入でStarship宇宙船は安定した姿勢を維持しており、途中で途切れる場面もあったものの、宇宙船に搭載されていたカメラからの映像はSpaceXの衛星インターネットサービス「Starlink(スターリンク)」経由でライブ配信され続けました。

【▲ 降下中のStarship宇宙船からStarlink経由で送られた映像。フラップの1つが大気圏再突入時の高熱で損傷していく様子が写し出された。SpaceXのライブ配信より(Credit: SpaceX)】

発射48分後頃に加熱がピークに達した後もStarship宇宙船は減速し続けましたが、カメラの1台は発射57分後頃から姿勢制御用のフラップの1つが損傷し始めた様子を捉えています。映像を確認すると、可動式のフラップのヒンジ部分周辺から輝く破片に続いて耐熱タイルが剥がれていき、やがてフラップの一部が骨組みだけを残して溶けていくように見えます。

【▲ 発射約1時間5分後に着水したStarship(スターシップ)宇宙船からStarlink(スターリンク)経由で送られた映像。SpaceX(スペースX)のライブ配信より(Credit: SpaceX)】

フラップが損傷を受けたにも関わらず、Starship宇宙船は姿勢制御を保ったまま海面に向けて降下を継続していきました。そして発射1時間4分後頃・高度約10kmからは大気圏内飛行試験で実証したのと同じ水平姿勢に移行。損傷したフラップも映像では稼働しているように見え、ライブ配信でも「作動している(actuating)」と言及されています。海面が間近に迫った発射1時間5分後頃にはStarship宇宙船は3基のRaptorエンジンを点火して姿勢を垂直に変更し、発射1時間6分後にインド洋へ軟着水することに成功しました。

【▲ 参考動画:2021年3月の大気圏内飛行試験におけるStarship宇宙船の着陸の様子(離陸5分後~)】
水平姿勢で降下した後にエンジンを稼働させて垂直姿勢に移行してから着陸する様子が捉えられている。
(Credit: SpaceX)

2023年4月の第1回飛行試験以来、Super Heavyの軟着水とStarship宇宙船の大気圏再突入および軟着水が達成されたのは今回が初めてです。Starship宇宙船は今回の試験で計画された打ち上げから着水までの飛行に成功したことになり、実用化に向けて大きな一歩となりました。

■Starshipの実用化に向けた最大のハードルは耐熱シールド

第1回飛行試験(2023年4月)では発射台を離れることに成功し、第2回飛行試験(2023年11月)ではSuper Heavyの分離に成功、第3回飛行試験(2024年3月)では宇宙空間を慣性飛行後に大気圏へ再突入する段階まで到達したStarship宇宙船は、今回の第4回飛行試験で海上への軟着水という大きな成功を収めました。Starbaseでは複数のStarship宇宙船とSuper Heavyの製造が進められており、次の飛行試験もそう遠くないうちに実施されるものと思われます。

【▲ 参考画像:月に着陸したHLS(有人着陸システム)仕様のStarship宇宙船を描いた想像図(Credit: SpaceX)】

StarshipはNASA(アメリカ航空宇宙局)の有人月面探査計画「Artemis(アルテミス)」の月着陸船「HLS(Human Landing System、有人着陸システム)」としてもすでに採用されていて、同計画初の有人月面着陸が行われる「Artemis III(アルテミス3)」ミッション(2026年実施予定)ではHLS仕様のStarshipが使用される予定です。また、SpaceXのElon Musk(イーロン・マスク)CEOは火星への入植という構想を掲げており、Starship宇宙船は宇宙探査や地球-月圏の輸送だけでなく、いずれ惑星間の輸送にも用いられることになります。

Musk氏が「高い信頼性、軽量、かつ再利用可能な耐熱シールドはStarshipに残された最大の技術的課題です」と語るように、また今回の飛行試験でもその重要性の一端が垣間見えたように、Starshipの実用化に向けて残された最大のハードルは耐熱シールドです。

Starship宇宙船が地球低軌道から月や火星へ向かうには、タンカー役のStarship宇宙船とドッキングして推進剤の補給を受ける必要があります。そのタンカーに補給用の推進剤を運ぶのは別のStarship宇宙船の役割ですが、タンカーのタンクを推進剤で満たすには10回以上の打ち上げが必要だとも言われています。

【▲ 参考画像:推進剤補給のために地球低軌道でタンカーとドッキングするStarship宇宙船の想像図(Credit: SpaceX)】

かつてNASAが運用していた「Space Shuttle(スペースシャトル)」はオービター(軌道船)が再利用されていましたが、耐熱タイルの整備などで再飛行までに数か月を要していました。Starship宇宙船が高頻度の打ち上げを実現するには宇宙船の数を揃えるだけでなく、各宇宙船の整備に要する時間を短く抑えることも必要となることから、なるべく手間をかけず、可能であれば即座に再利用可能な耐熱シールドを開発できるかどうかがStarship実用化の鍵を握っていると言えそうです。

2024年5月下旬の時点でMusk氏は「(第4回飛行試験の)主な目標は再突入時の最大加熱を乗り切ることです」と語っており、今回の飛行試験では(フラップの損傷はあったものの)この目標は達成されたことになります。また、今回は加熱の影響を測定するために2枚の耐熱タイルが意図的に撤去されていた他に、1枚を薄いものに置き換えた上で飛行試験が行われました。

宇宙開発情報を発信するEveryday AstronautのXでのポストによると、今回の飛行試験で損傷を受けたStarship宇宙船のフラップのヒンジ部分についてMusk氏は事前に懸念していたとされており、大気圏再突入時の熱対策が焦点となるであろう次の第5回飛行試験では対策が講じられるものと思われます。引き続きStarshipの開発状況に注目です。

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文・編集/sorae編集部

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