【社説】日航に厳重注意 基本動作の確認を怠るな

1月に羽田空港で起きた日航機と海上保安庁機の衝突事故をもう忘れてしまったのではないか。多くの人命を預かる航空会社としての自覚が不足している。

国土交通省は、安全運航に関わるトラブルが相次いでいるとして5月27日、日航を厳重注意した。今月11日までに再発防止策を文書で報告するよう求めている。

国交省が指摘したトラブルは昨年11月以降の5件で、このうち4件は羽田の事故以降に発生した。非常事態と言えるだろう。

中身も深刻だ。昨年11月と今年2月に米国の空港で、5月10日は福岡空港で、日航機が管制の許可なく滑走路に進入したり、滑走路手前の停止線を越えたりした。

4月は米国に滞在中の機長が過度な飲酒による不適切な行動で、乗務予定だった便が欠航した。5月23日には、羽田空港で駐機場を離れようとした日航機と駐機しようとした日航機が接触し、それぞれ主翼の先端を損傷した。

中でも滑走路付近のトラブルは、一歩間違えば大惨事になりかねない。

実際、日航機の挙動によって米サンディエゴ空港では他機が着陸進入をやり直し、福岡空港では滑走路を走行していた他機が離陸を中止して欠航になった。

福岡空港のケースは二つの問題が重なった。国交省によると、日航機の操縦士は管制官が指示した移動経路と滑走路手前での停止を正しく復唱せず、管制官は復唱がないことを指摘しなかった。

管制官の指示を操縦士が復唱して確認するのは、ミスを防ぐための基本動作だ。

基本動作の徹底指示は、羽田衝突事故の直後に国交省が取りまとめた「航空の安全・安心確保に向けた緊急対策」の柱に掲げられた。これが操縦士にも、管制官にも守られなかったことを国交省は重く受け止めなくてはならない。

飲酒に伴うトラブルは、航空安全に対する意識の浸透が十分ではないと国交省が指摘する通りだ。

日航だけの問題ではない。客室乗務員や整備従事者へのアルコール検査にまつわる厳重注意は、2021年から23年にかけてソラシドエアやANAウイングス、スカイマークも受けている。

航空業界は、航空輸送の安全に一丸となって取り組む意識を高めるべきだ。

羽田衝突事故を踏まえ、国交省は対策検討委員会をつくり、さらなる安全・安心対策をハード、ソフトの両面で検討している。

5月27日の検討委では、国交省が福岡空港の事案を報告した。管制官と操縦士の交信時の行き違いや確認漏れを防ぐためのマニュアル作りや、ヒューマンエラーをなくすハード面の対策を求める意見が出たという。

この夏の中間取りまとめに反映させ、空の安全を強化してほしい。

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