【コラム・天風録】年齢を超えた信頼

大ベテランの活躍にびっくりする。先日の日本ダービーは、56歳の横山典弘騎手が9番人気の伏兵馬で史上最年長の優勝をもぎ取った。囲碁界では何と97歳の杉内寿子八段が、公式戦対局の最年長記録を更新した▲年齢を感じさせない人はプロに限らない。今や70歳まで働く人が半数を超える。政府の経済財政諮問会議では、高齢者の定義を65歳から5歳引き上げる意見が出たそうだ。現状を踏まえれば、的外れな話とも思わない▲ところが若い世代には共感されていないようだ。年金保険料の納付期間を40年間から45年間に延長する検討が政府内で進む。納付期間が延び、保険料負担がさらに膨らんでは困る。そんな思いが頭をよぎるからなのか▲話を競馬に戻せば、ダービー調教師になった安田翔伍師は41歳。こちらは史上最年少である。馬の不調に気付いた横山騎手の進言で、前のレースの出走を見送った。つらい判断が大一番の巻き返しにつながったそうだ▲見送りを「間違っていなかった」という横山騎手の言葉が心地よい。最年長騎手と最年少調教師コンビの優勝は、年齢を超えた信頼関係がもたらしたものだろう。社会保障改革もそうでなくてはうまくいくまい。

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