時がたつほど…(6月8日)

 新地町の文化遺産「くるめがすりの家」は1世紀ほど前の古民家だ。和風な外観ながら、内部は洋風仕立て。時代に先駆けた水洗トイレを備えている▼建てたのは町出身の建築家遠藤新。「洗えば洗うほど良くなる、久留米絣[がすり]のような家」との思いがこもる。廊下がなく、居間を中心にどの部屋にも移動しやすい。東京都武蔵野市から古里に移築された。師事した世界三大建築家の一人フランク・ロイド・ライト仕込みの技が存分に生かされている▼時間がたつほど良くなる―。震災後の町の歩みは久留米絣に重なる。住民の意をくんで防災集団移転が進み、156世帯が新たな場所で暮らしを再建した。宅地造成や駅前再開発などを官民一体で進め、復興庁の被災地先進事例「まちづくりトップランナー」に選ばれた。福島県最北の町は元気あふれる。民間主体の新たな復興事業「しんち観海フェス」が8月に開かれる▼遠藤は帝国ホテルの設計を担い、日本の建築史に名を残す。その足跡を紹介する企画展が来月12日から17日まで、町文化交流センターで開かれる。郷土の先達の功績に触れ、未来へ向かうほどくつろぎが広がるよう、町の設計図をみんなで描けるといい。<2024.6・8>

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