【まちの本屋さん】応援の機運高めたい(6月8日)

 全国的に「まちの本屋さん」が減少する中、地域の文化の泉を守る取り組みが県内で動き出している。田村市では、本棚を貸して好きな本を売ってもらうシェア型書店が好評で、本を介した交流も広がる。国は書店振興の検討を始めたが、県内でも閉店が続く現状を共有し、店の挑戦を後押しする機運を高めたい。

 出版文化産業振興財団の今年3月時点の調査によると、県内で書店が1店舗もないのは28自治体で、全体に占める割合(47.5%)は全国で4番目に高い。インターネット販売や電子書籍の普及、雑誌販売の低迷などで書店は全国的に減少しているが、中でも福島県の実態は深刻といえる。

 田村市のシェア型書店は、県外企業で働く地元出身の男性が県内の実情を憂い、Uターンして今年1月に開店した。1区画37センチ四方の本棚を月額3950円で貸し、小説、絵本、専門書など自由に選んだ本を陳列してもらう。棚主は県内外の54人に達し、本選びだけでなく各自が催す読書会などに多くの客が集う。シェア型は人と人をつなぐ場としても注目され、県内でも広がりが期待される。

 大熊町では会社員の男性が昨年12月、夜間に3時間のみ営業する屋外書店を空き地で始めた。県内各地の書店でも、改装してカフェや雑貨売り場を併設するなど住民が本に親しむ環境づくりが続く。

 ネットでの購入は便利だが、興味がある分野に偏りやすい面がある。偶然手にした本をきっかけに視野を広げられるのは、実店舗を利用する大きな利点だろう。本との出合いの積み重ねは人間形成に大きな意味を持ち、将来を担う人材育成につながる。家庭や学校、地域で若い世代に読書の楽しさ、書店の価値を伝えていきたい。

 経済産業省は書店振興のプロジェクトチームを今春設け、支援策の検討に乗り出した。フランスでは、若者の書籍購入や舞台鑑賞などにアプリで助成する事業が書店利用増加に結び付いているという。海外の事例も参考に、文部科学省など関係省庁とも連携して実効性と持続性のある施策を打ち出すよう求めたい。

 県内の市町村や議会も書店が果たす役割に光を当て、教養、文化、地域づくりなど多様な面から振興策を議論してほしい。(渡部育夫)

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