「歯ぎしり」は歯周病を悪化させ全身の健康を害する危険あり

マウスピースは歯の摩耗や欠けるのを防ぐために効果的

十分に睡眠をとっていても疲れがとれない、しっかり歯の手入れをしているのに歯が痛い……。そんな人は寝ている間に「歯ぎしり」をしている可能性がある。そのまま放置していると、歯周病が悪化する危険もある。斉藤歯科医院の根岸亮三氏に聞いた。

歯ぎしりに悩んでいる人は少なくない。歯科医院向けマーケティングDXサービスを提供する「ウミガメ」が20~40代の男女300人を対象に実施した調査によると、20代の52%、30代の31%、40代の35%が就寝中の歯ぎしりを自覚している。そのうち、20代の16%、30代の5%、40代の12%が歯ぎしり対策のマウスピースを使用していて、20代の11%、30代の5%、40代の3%が治療のために通院していることがわかった。

また、大阪大学大学院歯学研究科が8000人を対象にした調査では、小児の約20%、成人の5~10%、高齢者の4~5%に歯ぎしりが見られたという。

歯ぎしりは、医学的には「睡眠時ブラキシズム」と呼ばれる睡眠関連疾患の症状で、主に4つのタイプがある。①上下の歯をすり合わせる「グラインディング」②上下の歯を強く食いしばる「クレンチング」③上下の歯をぶつけ合う「タッピング」④特定の限られた歯の部分でこすり合わせる「ナッシング」で、ほとんどが睡眠中に無意識に行っているため、自分でコントロールすることが難しい。

最近の研究で、歯ぎしりは深いノンレム睡眠から浅いレム睡眠に切り替わる時間帯に起こりやすいことが分かっているが、原因ははっきりしていない。ストレス、歯並びやかみ合わせの不良などが関係していると考えられている。

「歯ぎしりは、強い力で上下の歯をこすり合わせるので、ギリギリ、カチカチといった音で周囲に不快感を与えるだけでなく、体にさまざまな悪影響を及ぼします。歯が大きくすり減って痛みが生じたり、歯が欠けたり、割れてしまうケースも見られます。また、歯周病がある人に歯ぎしりがあると、歯周病の進行が加速して悪化する危険が高くなります。歯ぎしりで歯茎に大きな力がかかり、歯を支えている歯槽骨の吸収が急速に進むためです。ほかに、顎の痛みや顎関節症、頭痛や肩こりの原因にもなります」

■マウスピースによる対症療法が有効

口の中だけでなく、全身の健康のためにも歯ぎしりを放置してはいけない。ただ、いまのところ根本的に歯ぎしりを抑える治療法はない。

「歯ぎしりの対症療法として、『ナイトガード』と呼ばれるマウスピースを作製し、就寝時に上の歯に装着する方法が一般的です。歯にかかる力を分散させ、歯の摩耗を防いだり、歯が欠けたり詰め物やかぶせ物が外れてしまうことを防ぐために効果的です。マウスピースは歯科医が歯型を取り、患者さんの歯の大きさや傾きなどを確認して、フィット感を調整しながら作製します。歯科医が診察してマウスピースが必要と認めれば健康保険が適用され、3割負担で5000円程度で作製できます」

ただし、ストレスによる歯ぎしりで顎の痛みや顎関節症を発症している場合は、マウスピースの装着自体が患者にとって大きなストレスになるケースもある。どうしてもマウスピースに抵抗がある人は、「ボトックス」と呼ばれる治療法を検討する手もある。

「ボツリヌス菌から抽出して無毒化した有効成分を咬筋や側頭筋に注射し、筋肉の緊張を緩和する作用によって歯ぎしりを防ぐ効果が期待できます。ただ、自由診療なのでおおむね両側で3万円から5万円程度の費用がかかります。また、効果が持続する期間は4~6カ月と言われているため、定期的に通院する必要があります」

日常的なストレスを解消したり、生活習慣を見直すことで歯ぎしりが改善するケースもあるが、根本的な原因を取り除くのはやはり難しい。歯ぎしりが気になっているなら、まずは歯科医院を受診して相談したい。

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