【環境考察/気象の変化】治水に田んぼダム、雨水ため排水量抑制

設置した排水ますを確認する丹野さん。穴の開いた板で排水量を抑制する=福島市

 「この辺り一帯が水没して、川みたいな状態でした」。福島市松川町水原地区でコメ作りをする「未来農業」代表取締役の丹野友幸(48)は振り返る。2019年10月の東日本台風(台風19号)で地区に浸水被害があり、住民の生活に大きな影響が出た。

 下流の地区守るため

 対策に乗り出した市は22年度、大雨が降った際に雨水を田んぼに一時的にためて洪水被害を軽減させる「田んぼダム」事業を水原地区で開始。農家に協力を依頼し、田んぼダムの区域内(4.9ヘクタール)の18カ所に「排水ます」と呼ばれる装置を設置した。ますの中に直径5センチほどの穴の開いた板を設けることで大雨時の排水量を抑制、水田に水をためる仕組みになっている。事業に協力した丹野は「川の下流にある地区を守るための取り組みだと思う。被害が軽減されるなら協力したい」と話す。

 市によると、22年10月の大雨では、1時間当たり約74立方メートルの貯留効果が確認された。担当者は「(ダムのような)大きな施設を造ることなく、低コストで時間をかけずに対策ができる」とメリットを強調。上流で取り組むほど効果が大きいとする。

 田んぼダムは洪水被害対策として各地に広がっている。県内では県が21年10月に推進方針を策定。23年時点で約533ヘクタールあり、郡山市や喜多方市などが多い。

 「(田んぼダムは)非常に効果的。治水のことを考えれば取り組んだ方がいい」。河川工学が専門で気候変動に伴う災害リスクなどを研究する福島大共生システム理工学類教授の川越清樹(53)はそう語る。地球温暖化の影響などから、将来予測される大雨に対し「河川だけで対応していくのは難しい」と指摘。水をためられる田んぼの活用が効果的との考えだ。

 普及には「住民参加

 ただ、普及には課題も残る。農業面でのメリットは少なく、農家がコストをかけて調整板などを設置することは期待しにくい。広域で取り組まなければ効果は薄く、協力者が治水面で恩恵を受けるとは必ずしも言えない。「(行政機関などが)治水以外でどのようなメリットがあるのかを示した上で、農家などに仕組みを理解してもらうことが必要」(川越)という。

 普及に向け川越は「(自治体からの)トップダウンで進めるのではなく、(住民からの)ボトムアップが大事だ」と指摘。田んぼに限らず、公園や校庭などの活用も検討しながら「住民が参加した形で在り方を考えていってほしい」と話す。(文中敬称略)

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 田んぼダム 田んぼが持っている貯水機能を活用し、豪雨による洪水被害を軽減する取り組み。小さな穴の開いた調整板などを水田の排水口に取り付けて水の流出量を抑え、水田に水をためることで下流域の浸水被害軽減などを図る。大規模な施設を造成する必要がなく、安価ですぐに効果が発揮できるとされる。

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