バリカンで髪刈られる→撮影してネットに公開…「パワハラ上司」を刑事罰に問えないか

Hakase / PIXTA(ピクスタ)

職場の上司にとんでもない髪型を強制されたという人からの法律相談が、弁護士ドットコムに寄せられました。

相談者によると、月に一度くらいの頻度で、職場の上司からバリカンでの「散髪」を強制されたといいます。

最終的には「丸刈り」にされるそうですが、その途中の「虎刈り」状態で写真を撮られ、一時はネットに画像を公開されたり、客前に出されたりしたそうです。

ほかにも、仕事でミスをすると大声で怒鳴られたこともあったといい、相談者はこれを「パワハラ」と捉えるだけでなく、罪に問いたいと考えているようです。

このような上司の行為は法的にどんな問題があるのでしょうか。黒柳武史弁護士に聞きました。

●丸刈りは「明白なパワハラ」にあたる

——職場の部下の頭髪を丸刈りにしたり、撮影した虎刈りの頭をネットに公開したり、客前に出したりする行為は、パワハラに該当するでしょうか

パワーハラスメントとは、職場における(1)優越的な関係を背景とした言動であって、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、(3)労働者の就業環境が害される行為をいいます。

上記の行為についてみると、職場の上司による言動であり、指導の必要性があるとしても、部下を丸刈りにしたり、その画像を晒すような必要性・相当性は到底認められません。

このような行為によって、部下が身体的・精神的苦痛を受けて、就業上、看過できない支障が生じることは明らかなことから、パワーハラスメントに該当することは明白といえます。

●上司だけでなく、勤務先の責任を問うことができる

——民事上の法的責任まで問うことはできるでしょうか

民事上の責任についてですが、上記の一連の行為は、部下に対する身体的・精神的攻撃に該当するとともに、人格権を侵害するものでもあり、不法行為(民法709条)に該当します。

また、虎刈りの状態のまま写真を撮り、これをネットに晒す行為は、肖像権侵害となります。

たとえば「使えない部下」という書き込みとともに、本人が特定される写真をアップするようなことがあれば、名誉毀損にも該当することになり、これらの観点からも、不法行為に該当することになります。

そのため、これらの行為をした上司に対しては、不法行為に基づき、慰謝料等の損害賠償責任を追及することが可能です。

さらに、被害を受けた部下は、勤務先に対しても、安全配慮義務違反を理由に、債務不履行責任(民法415条)や使用者責任(民法715条)を追及できる可能性があります。

●暴行罪や傷害罪、名誉毀損罪が成立する可能性も

——刑事上の責任はどうでしょうか

刑事上の責任について検討すると、頭髪を切る行為については、暴行罪(刑法208条)が成立することになります。さらに、その過程で、バリカンで頭皮を傷つけたりすれば、傷害罪(刑法204条)が成立する可能性があります。

また、前述したような、書き込みとともに写真をアップする行為については、刑法上の名誉毀損罪(刑法230条)が成立する可能性もあります。

そのため、上司に対しては、損害賠償責任を追及するだけでなく、刑事告訴するなどの方法により、刑事責任を追及することも考えられます。

【取材協力弁護士】
黒柳 武史(くろやなぎ・たけし)弁護士
京都府出身。2007年大阪弁護士会で弁護士登録。2020年京都弁護士会に登録換え。取り扱い分野は、労働事件を中心に、建築・不動産に関する事件や、一般民事・家事事件など。
事務所名:賢誠総合法律事務所
事務所URL:https://kensei-law.jp/

© 弁護士ドットコム株式会社