【ふくしま創生】挑戦者の流儀 ホップジャパン(福島県田村市)社長・本間誠㊤ ビールで地域経済循環

クラフトビール製造を通じ、地域活性化に取り組む本間さん

 阿武隈のなだらかな山々に囲まれた福島県田村市都路町のアウトドア施設「グリーンパーク都路」。「HOP GARDEN BREWERY(ホップガーデンブルワリー)」の看板をくぐって建物の中に入ると、整然と並んだ銀色のタンクが目に入る。クラフトビールの醸造所だ。ホップジャパンが2020(令和2)年秋に設けた。市内産のホップをふんだんに使ったビールを仕込む。

 1994(平成6)年の酒税法改正による地ビールの解禁から30年がたった。各地で個性豊かな商品が造られている。社長の本間誠(58)は山形県出身の元会社員。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故という未曽有の大災害を契機に人生を見つめ直し、ビール好きだったこともあって起業した。操業の地を探している中で都路と出合い、根を下ろした。原発事故の発生で一時、避難区域が設けられた地域だ。産業の再生やにぎわいづくりが大きな課題となっていた。「ビール文化を創造し、被災地の復興と地域の活性化に貢献していく」。開所から4年。本間はあらためて誓う。

 ビール造りを通して地域経済の循環を生み出すことにこだわる。地元でホップを栽培してビールにし、イベントなどを通して人や物を呼び込む。製造過程で出る廃棄物を飼料や燃料にする構想もある。本間は「『人』『もの』『こと』をつなぎ、人々を笑顔にするブルワリーを目指している」と話す。

 苦みを抑えた味が心地よい「IPA」、柔らかな口当たりの「ホワイト」など定番7銘柄に加え、さまざまな季節商品や企画商品を展開する。経済循環の理念に基づき、市内ばかりでなく県内各地の生産者との連携にも力を入れる。これまでに田村市産のカシスの他、いわき市産のカボス、大熊町産のイチゴ、楢葉町産のユズなどを使ったビールを商品化した。

 ここまでたどり着くのに順風満帆だったわけではない。都路で事業を始めるに当たり、多くの人が「こんな所でビールを造っても…」と厳しい反応だった。確かに最寄りの鉄道の駅からは車で40分以上かかる山の中だ。原発事故の被害を受けた土地でもある。夢と情熱が大きく膨らむ一方、資金繰りは心配だった。自前の醸造所をすぐには持てず、しばらくは他の醸造所に委託してビールを造った。「HOP GARDEN BREWERY」を開き、この地でみんなで乾杯するまでには時間がかかった。(文中敬称略)

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