Aぇ! group 佐野晶哉が平泉成から受け継ぐ役者魂 “普通”で素敵な自分を築くために

写真というものは不思議だ。プロのカメラマンが撮影したものはもちろん素敵でカッコいいものだが、プロとしての活動をしていない、いわゆる“素人”が撮った写真でも、言葉にできないほど素晴らしい1枚が生まれることがある。特に人を捉えた写真は、被写体と撮影者の関係性がはっきりとそこに写し出される。そんな写真の面白さと、人生というものの悲しみと喜びを見事に切り取ったのが、映画『明日を綴る写真館』だ。

主演を務めるのは、名バイプレーヤーとして、知らない世代はいないほど、長年にわたり俳優業を歩んできた平泉成。平泉は写真館の店主・鮫島を演じる。そんな鮫島に弟子入りする新進気鋭のカメラマン・太一を演じたのが、Aぇ! groupの佐野晶哉。劇中さながらの師弟関係、親子関係ともいえる空気が漂う中、2人に本作出演への思いを語り合ってもらった。(編集部)

●「みんなの力があって出来上がった作品」

――映画『明日を綴る写真館』では、お2人は師匠と弟子であり、親子のような関係でしたが、お互いの印象はいかがでしたか?

佐野晶哉(以下、佐野):(平泉)成さんは、イメージのまんまでした。すごく優しくて、現場に入られると現場の空気がほっと緩むんです。それでいて、現場を引き締めてくれる、緊張感を作ってくださるところもあって。1カ月弱の撮影で濃いお付き合いをさせていただいて、今もメル友みたいな感じで、バラの写真を送ってくださったりするのが嬉しいです。素敵なご縁をいただきました。

平泉成(以下、平泉):佐野くんの印象で一番大きいのは、佇まいが良いことと、周りを意識していない立ち方で、堂々としているところ。「この子は育ちのいい子だな」と僕は思ったの。変な言い方ですけど、きっと彼の素直さや人柄もそこからきてるんだろうなって。

――お2人の共演は、本作と同じ秋山純監督と中井由梨子さん脚本による『20歳のソウル』(2022年)以来です。前回と今回とで、印象が変わったところはありましたか?

佐野:『20歳のソウル』のときは、撮影でご一緒させていただいたのが2日ぐらいで、成さんのセリフを生で聴けたのは一言くらいだったんですけど、その瞬間、僕、涙が出てきて。唯一無二の声やその温度、湿度の高さに包み込まれたイメージがありました。今回はそれを撮影期間ずっと浴び続けることができたのは、幸せでしたね。

平泉:僕も非常にやりやすかったし、 素晴らしいな、羨ましいなと思いました。

――「羨ましい」というと?

平泉:僕もこんな歳に戻ってみたいなと思ったり、僕が佐野くんの歳の頃にはもっと下手だったなと思ったり。いろんなことをやろうと思いつつも、結局、勉強不足だったんですよね、きっと。今みたいに情報がたくさんある時代じゃないし、たまに映画観て勉強するくらいで、僕はそれほど感性も持ち合わせてなかったので。だから時間ばかりかかってしまいました。80歳で初主演なんて、モノは言いようで。80年もかかっちゃたの? このおじさんですよ。

――初主演のお話があったとき、どう思われたのでしょう?

平泉:そりゃあ、嬉しいお話だなと思いましたね。でも、僕に無理なくやれる役かどうか……。ひとまず脚本を読ませていただいたうえで判断できればと。初主演だからといって無理な役をやるんじゃなく、自分ができると思えたらやらせていただくということで。主人公の鮫島(武治)さんのちょっと頑固で寡黙な人柄は僕に似ていると思い、これならできる!と思いお願いしました。実際、撮影では、平泉成なのか鮫島さんなのか、芝居の中なのか現実なのか、わからなくなる瞬間が何度もありましたよ。

――佐野さんは『20歳のソウル』に続く秋山監督とのタッグ、いかがでしたか。

佐野:お話をいただいたときは、ガッツポーズでした。秋山監督にキャスティングしていただいて、映像の世界を、映像でお芝居する楽しさを教えてもらえて。『20歳のソウル』の完成披露試写の舞台挨拶で、カメラも回っていてファンの方も見ていらっしゃる状況で、秋山さんが「またすぐ呼ぶからな」と言ってくださったんです。それで、またいつか呼んでもらえるように頑張ろうと思っていたら、まさかこんなに早くとは。ビックリしたけど、めっちゃ嬉しかったですね。またあの環境に戻れるんやという安心感、嬉しさもありました。

――2年半ぶりの再共演で、お互い新たに発見したこともありましたか?

佐野:すごいと思ったのが、成さんがクランクインされる前日に(愛知の)岡崎のホテルにいらして、監督やカメラマンと鮫島さんが使うフィルムカメラを何にするか相談されていたとき。そのカメラの機種がすごく古くて、フィルムが巻きにくかったんですが、それを成さんは部屋に持って帰ると言って、次の日の朝には完璧にマスターされていたんです。

平泉:それぐらいやらないとね。なにかで佐野くんを観たけど、歌も踊りも素晴らしくて感心しましたよ。でも、お芝居の方も続けてやってほしいな。

佐野:いや、いっぱいやりたいですよ。今回、秋山さんにも脚本の中井さんにも、僕が演じた五十嵐太一の過去だけ背負って、そのまま生きてくれたら大丈夫と言われたので、あまりお芝居している感覚がなかったんです。だから、成さんの背中と鮫島さんの背中を重ね合わせながら弟子入りさせていただいたような現場でした。

――平泉さんにとっては、主演としていつもと違うところもありましたか?

平泉:これまで主役だけが大事というものでもないと思いやってきました。脇役は何を要求されてシーンが成立してるのか考えながらの芝居になります。主役の場合は作品全体の流れを重んじる必要がありますが、基本的には同じ。長いこと時間がかかるなと思っていたら、80年。継続は力なりか、終わり良ければすべて良しじゃないけど、いろんなことを思いましたね。主役やろうよと監督が音頭を取って、スタッフのみんなも、キャストのみんなも、僕が主演を担うからといって、僕をお御輿の上に乗っけてくれて、こうして走ってくれたことで、今日の日を迎えられた。みんなの力があって出来上がった作品だと思います。

――佐藤浩市さんはじめ、豪華キャストが揃っていますが、平泉さんの記念作品ということで参加されたのでしょうか?

平泉:手を挙げてくれたと監督は言っていましたけどね。本当はわかんないけど。

佐野:本当に浩市さん、そうおっしゃってたんですよ。浩市さんとも『20歳のソウル』で共演させていただいたんですが、前に監督と一緒に食事に行かせてもらったとき、浩市さんがいらして。「成さんの記念的な映画だったら、俺も出してよ」とおっしゃっていました。そうした愛に溢れた現場に、僕、偶然立ち会えたんです。

平泉:そうして、そのうちまた佐野くんが主演のとき、僕を呼んでくれるんじゃないかと思うけど。

佐野:頑張ります(笑)。

平泉:今回一緒にやって思ったんだけど、佐野くんの時代劇なんかも是非観てみたいと思ったね。

佐野:それ、初めて聞きました。

平泉:個人的な好みなんですが、藤沢周平の時代もので静かな浪人役とかさ。きっと彼なら似合うと思うよ。でも、グループの仕事もあるのか。簡単ではないね。

佐野:全部やります。時代劇も全部やりたいです。立ち回りも練習しておきます。

――佐野さんは歌手ですし、平泉さんも歌が特技でCDも出されていますよね。お2人の歌も聴いてみたいです。

平泉:僕は歌が得意だったわけでもないけど。レコードデビューして3枚出したけど、たぶん1枚も売れなかったね。

佐野:いやいやいやいや、そんな。

平泉:俺のことはいいけど、佐野くんはホント素敵な歌声だったね。

佐野:ありがとうございます。

――逆に佐野さんが平泉さんに対して、観てみたい役などはありますか?

佐野:成さんが昔は悪い役が多かったと聞いて、驚いたんです。優しいお父さんとかおじいちゃんの役をたくさん観させてもらっていて、今回の鮫島さんもそういう優しさと不器用さがあるイメージだったから。でも、また昔やられていたような悪い成さんも観てみたいです。

平泉:やれることは全部やってきました。

●人生の大先輩、平泉成から佐野晶哉へのアドバイス

――平泉さんの役者としての大きな魅力に「声」があると思います。モノマネをする人もいるくらい個性的で唯一無二のものですよね。

平泉:自分では嫌な声だなと思っているんですよ。酒とタバコと芝居でのどが潰れちゃった声ですから。

佐野:え、そうなんですか?

平泉:もともとはもっとかわいい声だったのに、こんな声になっちゃったんでね。たまたま真似する人がいて、そうかと(声に特徴があるのかと)思うけど。

佐野:渋くてあたたかくて、説得力があって羨ましいです。

平泉:まあ、何か特徴があった方がいいかもしれないから、そういう意味では良いのかもわかりませんね。

――佐野さんも美声ですが、役者をやっていく上で声の力はやはり大きいですか?

平泉:もちろん大事ですよ。リズム感も、音程も、佐野くんは非常にしっかりしています。

佐野:ありがとうございます。

平泉:セリフで1番大事なのはハートだと思うんですけど、ハートからにじみ出てくる声、声の響きというものは大切だと思うんですよ。芝居には人柄が出ます。これまでどう生きてきたか、それに尽きます。

――良い生き方をしてきた方と一緒にするお芝居は、また楽しさが違いますか?

平泉:もちろんですよ。人間が勉強するのは、頭を良くするためでももちろんあるけど、普通の品の良い人間になるためで。下品になるために勉強するわけじゃないでしょ。普通に品が良く育てば、お芝居にも自然と品が出てくるし、それは一緒に芝居をする相手にも作り手にも、観る側にも心地良いものですよ。

佐野:「普通の品の良さ」というのは、成さんが大事にされていることですか?

平泉:そうだね。取ってつけたようなもの、格好つけたものは、その場限りのもの。ずっと続いていくわけじゃない。そんなこと続けていたら、人間は疲れちゃうから、「普通」で素敵な自分を築かなきゃいけない。みんなそのために勉強したり、努力したりしていくわけでしょう。それはみんなお芝居に出るから。

佐野:ずっと勉強ですね。

――ところで、それぞれの人の人生の「想い残し」もこの映画のテーマとしてありますが、お2人にもそうした「想い残し」はありますか? また、それとどう向き合っていきますか?

佐野:僕の「想い残し」は、映画とちょっと外れちゃうんですが、明後日ライブが始まるんですね(取材は5月23日)。1週間前にリハーサルが終わっていて、その後にセットリストが変わったりとしっかりとしたリハをしないまま明日北海道に飛ぶので、ハラハラです。リハができていないという想い残しは、今、すっごくあります。

平泉:あ、そうそう、ここまで言ってなかったけど、デビューおめでとう。関西ジュニアというのがあって、その中にいくつものグループがあるんだよね。

佐野:そうです。そこからデビューということで、ジュニアから独立し、スタートが切れたような感じです。

平泉:それはすごいねぇ。

佐野:ありがとうございます(笑)。

――佐野さんの芸能生活の大きな分岐点に立ち合われた大先輩として、想い残しがないためのアドバイスをぜひ。

平泉:そんなものないです。想い残しのない人生なんてないよ……なんて言い切っちゃいけないけど、 僕なんか想い残しばっかりだもん。あれもこれも。

佐野:そういうものですか?

平泉:想い残したけど、1つずつ、ちょっとでもクリアできていくと嬉しいなと。

佐野:平泉さんの域に至ってもそうなんですね。

平泉:長いこと生きてきているから、もうかさぶたがいっぱいできちゃっていてね。残念ながら、もう想い残しだらけ。でも、この作品はそういう想い残しが、人と人との交わりや関係の中で1つ2つ消えていくから、それは素晴らしいことですよね。

(文=田幸和歌子)

© 株式会社blueprint