リコーオートハーフSE[記憶に残る名機の実像] Vol.14

以前より人気のあるハーフサイズの中古カメラだが、最近はさらに顕著になりつつあると聞く。一般的な36×24mmのフォーマットを持つカメラよりも小型軽量かつ相場的に安価であることに加え、高騰しているフィルムを経済的に使えることが、その理由であるらしい。また、フォーマットサイズから粒状感を表現に活かせるなど"エモい"写真になりやすいことも人気の一端を支えるものと考えてよい。この夏、リコー/ペンタックスはハーフサイズのフィルムコンパクトカメラをリリースするとアナウンスするが、それが現実となったなら、ますますハーフサイズのカメラは注目されること請け合いだ。今回の"記憶に残る名機の実像"は、そんなハーフサイズのカメラ「リコーオートハーフSE」をピックアップしようと思う。

まずはリコーオートハーフSE(以下:オートハーフSE)をはじめとするリコーオートハーフシリーズを見てみよう。

初号モデル「リコーオートハーフ」の発売は1962年。基本的なスペックとしては、焦点距離25mm開放値F2.8の固定焦点レンズ、セレン光電池式による自動露出機能、ゼンマイによるフィルム自動巻き上げ機構などを採用する。これは1979年発売の最終モデル「リコーオートハーフEF2」まで、1963年発売の「リコーオートハーフゾーンフォーカス」(目測式のピント合わせが可能)と1970年発売の「リコーオートハーフSL」(35mm F1.7のレンズを搭載/ピント合わせは目測式)を除き変わることはなかった。

レンズは撮影距離2.5mにピント位置を固定する3群4枚構成で、焦点距離は25mm、開放絞りはF2.8。自動露出時のシャッター速度は1/125秒に固定となるが、高感度フィルムを使用すると露出オーバーになることも※画像をクリックして拡大

とにかくイージーな撮影が楽しめることが身上で、撮影者はシャッターボタンを押すだけと述べてよい。時折フィルム巻き上げ用のゼンマイを巻く必要があるが、それについても難しいものではない。コンパクトなボディと相まっていつでもどこでも気軽に持ち出せ、手軽に撮影の楽しめるウェアラブルなカメラであり、それがこのカメラのコンセプトでもあると述べて間違いないだろう。

ゼンマイによるフィルム自動巻き上げは、リコーオートハーフシリーズの特長。この大ぶりなダイヤルでゼンマイを巻いていく。フルにゼンマイを巻いたときの撮影可能枚数は26枚から28枚ほどである※画像をクリックして拡大

ただし、フィルム装填は当時のほとんどの35mmカメラがそうであるようにイージーとは言い難い部分もあった。フィルム先端を巻き上げスプールに差し込み巻き上げる必要があるのだが、ボディ自体が小さいこともあり、この単純な作業が意外にも難しいのである。おそらくリコーオートハーフユーザーのなかには、フィルムの装填に一度や二度失敗した人も少なくなかったのではないかと察せられる。もし、これからリコーオートハーフシリーズでフィルムカメラを始めてみようと思うビギナーであれば、フィルムが一本無駄になってしまうが、購入後フィルム装填の練習を行ってみることをオススメする。

私がオートハーフSEと出会ったのは1976年、中学二年生のとき。それまでカメラなど触ったことがなかったのだが、なぜか実家にあったオートハーフSEをちょっとした下心から修学旅行に持っていこうと思ったのがきっかけである。出発の前夜、親からゼンマイのチャージ方法を教わり、学ランのポケットにカメラを入れ希望を胸に3泊4日の修学旅行に出かけたのである。途中立ち寄った名所旧跡などで、悪友やちょっと気になっていた女の子(これが下心の核心である)などいい気分でチマチマと撮っていた。

ところが最終日に事件が起きる。フィルムを撮り終わってしまい、その後どう対処したらよいかわからないのである。フィルムを巻き戻す必要があることはわかっていたのだが、巻き上げスプールのロック解除ボタンがあることも、そのボタンを押さなければフィルムが巻き戻らないことも知らなかったのである。勢い力を込めて巻き戻しレバーを回したためにフィルムはあっけなく切れてしまう。しかも、こりゃたいへんだと裏蓋を慌てて開けてしまい、巻き上げスプールに巻き付いていたフィルムは見事に感光。そうして私の初めての写真撮影はあっけなく終了したのである(もちろんネガなんぞ残っていない)。

オートハーフSEをはじめとするリコーオートハーフシリーズの中古は、中古カメラを扱うショップなどで比較的見かけることは多い。ガラスケースのなかで展示され元気よく動くものもあるが、露出計の故障などで不動のものもジャンクとしてよく見かける。ちなみに作動の確認方法として、ファインダーをのぞくと露出に問題ない場合は画面中央部分に薄い黄色の円が見えるが、露出アンダーとなる明るさではその円が赤色となることを覚えておくとよいだろう(初号モデルの「リコーオートハーフ」は黄色い表示のみ現れる)。もちろん撮影レンズのカビやクモリ、裏蓋を開けたときのモルトの劣化などには注意したいところである。なお、リコーオートハーフシリーズのカメラはフィルムを装填しないとシャッターが切れないので、購入を検討する際は、お店で動作確認用のフィルムを借りてチェックするとよい。

ファインダーをのぞいた状態。もちろんファインダー像は縦長となる。画面中央に薄い赤色の丸が見えるが、それは露出アンダーであることを知らせるもの。露出に問題がなければ薄い黄色に切り替わる※画像をクリックして拡大

前述のようにリコーオートハーフシリーズはモデル数が多いのも魅力。さらに一部のモデルはカメラ前面部のアルミ板にイラストの描かれたモデルも多数存在する。なかでも1970年大阪で開催された日本万国博覧会のシンボルマークの描かれたものは本モデルがリリースされた時代を知る上でも貴重である。いずれにしても比較的手に入れやすい価格で中古市場に流通しているので、ハーフサイズにトライアルしたい写真愛好家は要注目のカメラだ。

フィルム面への照射開口部の大きさは35mmサイズ(36×24mm)の半分、18×24mmとする。オートハーフSEをデフォルトである横位置で撮影したとき、写真は縦長となる。ファインダーアイピースももちろん縦長だ※画像をクリックして拡大

大浦タケシ|プロフィール
宮崎県都城市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、雑誌カメラマン、デザイン企画会社を経てフォトグラファーとして独立。以後、カメラ誌をはじめとする紙媒体やWeb媒体、商業印刷物、セミナーなど多方面で活動を行う。
公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。
一般社団法人日本自然科学写真協会(SSP)会員。

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