「社長になったら、真っ先に“次期社長”を選ぶべき」と言ってもいい…日本企業が〈当代限りで廃業〉を回避する方法【経営コンサルが助言】

(※写真はイメージです/PIXTA)

事業承継といえば、創業家の親族から親族へ承継するスタイルが一般的だった日本企業。とはいえ必ずしも親族内に後継者候補がいると限らず、むしろ近年は親族内に後継者がいないケースも珍しくありません。経営を未来につないでいくには、選択肢を増やし、自社に最適な事業承継スタイルを検討することが重要です。村上知氏(株式会社タナベコンサルティング)が解説します。

多様化する承継スタイル

日本企業において、創業者の家族や親戚が株式と経営を掌握する同族経営企業の割合は多い。そのため、事業承継といえば創業家の親族から親族へ承継するスタイルが一般的であった。一方、近年はプロパー社員を登用したり、外部人材を招聘したりと、親族外への承継が増えている。2023年の調査では、親族内承継にあたる「同族承継」が33.1%に対して、血縁関係によらない役員や社員を登用する「内部昇格」が35.5%となっており、脱同族経営に向けた承継スタイルの多様化が進んでいると言える(出所:帝国データバンク『全国「後継者不在率」動向調査(2023年)』)。

企業経営における後継者は、「親族」、「役員・社員」、「第三者」に限定される。現代において必ずしも親族内に後継者候補がいると限らない、むしろ親族内に後継者がいないケースの方が多くなっていると言えるだろう。企業経営の本質を、「経営を未来へ繋ぐための取り組み」と捉えると、親族内承継に限定することなく、広く承継スタイルを模索することが重要である。

事業承継の5つの出口戦略

承継スタイルが多様化する中、経営をどのように承継していくべきか。筆者らは、「経営を未来へつなぐ事業承継」を提唱している。

承継期に親族内承継や節税などオーナー経営者の事情を優先する事業承継ではなく、承継期の前から組織として成長する仕組みを構築し、未来に経営をつないでいくための継続的な企業価値向上に注力することがポイントである。

出口戦略としては、次の5つがある(図表1)。

[図表1]5つの出口戦略

また、事業承継を成功させるためには、「資本承継」と「経営承継」の2つの承継を実現させる必要がある。これまで最も主要な手段であった親族内承継は、資本・経営の両方を親族へ承継する手法と言える。この場合は、親族間における贈与・相続により資本が承継されることが一般的である。一方で、その他の4つの出口戦略は(すべてがそうではないが)資本の承継先と経営の承継先が異なり、また資本の承継先が親族外となる。資本・経営の承継先と5つの出口戦略の関係性は図表2の通りである。

[図表2]資本・経営の承継先と5つの出口戦略の関係性

続いて、5つの出口戦略の詳細について説明する。

①親族内承継:

⇒親族内承継は先述の通り、資本・経営の両方を親族へ承継するというシンプルな手法となる。一方で、親族内承継にも固有の問題点やデメリットがある。親族内での承継を続けると、家系図が子孫へ分岐していくのと同時に、関係する親族の範囲が広がっていく。結果として創業者による経営から兄弟経営へ、そして従妹経営へと血縁の遠い親族が経営に関与する体制へと展開されやすいのだ。ゆえに、親族内において方針や判断基準を統一するためのガバナンスを整備しておくことが、親族内承継を選択するうえでは重要事項となる。

②ホールディング型事業承継:

⇒創業家はホールディングカンパニー(持ち株会社)の株主としての立場に徹し、事業は優秀な社員に任せることで、資本と経営を分離する手法である。この場合、資本は親族で承継しつつ、経営については社員へ承継することが可能となる。中堅・中小企業においてもホールディングスを選択する企業は増加しているが、創業家がグループ子会社を束ねるホールディングカンパニーの代表者を務めることが多く、完全に株主としての立場に徹している企業はまだ少ない。

ホールディング型事業承継にて、資本と経営を分離した承継を実現するためには、次世代の経営者人材を育てておくことが不可欠である点に留意が必要だ。

③IPO型事業承継:

⇒IPO型事業承継は、マイカンパニー(同族)からオフィシャルカンパニー(上場企業)への転換を行い、資本と経営を分離する手法である。IPO(株式上場)時点では、創業者の利潤(上場時価による売却など)を実現できるほか、より能力主義で後継者を選ぶための体制を構築できるという点において、非親族承継を実現するための有効な手段と言える。

一方で、上場基準を満たすための難易度の高さや、上場を維持するコストの大きさなどがデメリットとして挙げられる。事業承継における資本政策という観点だけでなく、長期的な企業成長を鑑みながら総合的に判断する必要がある。

④MBO型事業承継:

⇒MBO(マネジメント・バイアウト)型事業承継は、親族に後継者がいない場合に、自社の役員陣へ自社の株式を譲渡する承継手法である。

IPOが「マイカンパニーからオフィシャルカンパニーへの転換」だとすれば、MBOは、「マイカンパニーからアワーカンパニー(株式買い取りによる経営権の取得)への転換」という側面を持つ。親族内承継を続けてきた企業にとっては、創業家以外の社員に株式と経営権を承継することになるため、組織に大きなインパクトを与える。

日本企業において、創業家のオーナーというポジションは大きな求心力を生み、良くも悪くも単独でのリーダーシップを発揮しやすくなる。MBOは、事業を熟知している現役員・幹部陣が経営を行うという点で、社員からの納得性や経営体制の変化を抑制できるというメリットはあるものの、創業家のオーナーと同じ求心力やリーダーシップを発揮することは容易ではない。そのため、オーナーのリーダーシップによるトップダウン型の経営から、幹部を中心とした、社員が経営に積極的に関与できる参画型経営への転換が同時並行で求められる。

⑤M&A型事業承継(株式売却、または事業譲渡):

⇒「後継者不在」という事業承継問題を解決する手段として、すべての株式、または一部を売却、あるいは事業を譲渡することで、企業の永続発展を目指す手段である。M&Aは売却をゴールとして見るのではなく、「企業を存続させる手段」として行うことが重要である。

非親族承継を検討する中で、社員から後継者を探そうにも、「候補者がいない」と嘆く経営者は多い。しかし、自社の社員にこだわらず、社外も含めて後継者を選択できるとなれば選択肢は広がる。また、売却先によってシナジー効果(バリューシナジー・コストシナジーなど)が得られる可能性を考慮すると、企業の存続だけでなく大きな成長に向けたターニングポイントとして設定できる。

M&Aは、「会社を売る」というネガティブなイメージを持たれることが多い。しかし、譲渡側の企業としては、「経営権がなくなる」「経営者は買収先主導で決まる」などのデメリットはあるが、自社の持続的成長を実現するための手段として有効な選択肢であることには間違いない。

事業承継の「選択肢」を増やすことが大切

どの事業承継スタイルを選択するかは経営者にしかできない“決断”である。どのスタイルが自社にとって最適かを、現状の事業、組織、資本の状態、そして自身の経営者としての価値観と照らし合わせて総合的に決断することが重要だ。

また、その決断は早ければ早いほど良い。筆者らは、「社長に就任したときの最初の仕事は次の社長を選ぶことである」と提言している。承継の準備は、資本の整備や次世代の経営者育成など、中長期的な時間軸で進めなければならない事項が多くあるためである。

事業承継のスタイルに正解はないが、選択肢を増やすことに意味がある。紹介した5つの出口戦略を軸に、自社に最適な事業承継スタイルを検討していただきたい。

村上 知(むらかみ・さとる)

株式会社タナベコンサルティング

コーポレートファイナンスコンサルティング事業部 ゼネラルマネジャー

ホールディングス設立支援、グループ経営システムの構築、長期ビジョン・中期経営計画策定、再建企業の収益構造改革などを中心に幅広く活躍中。特に、クライアントの業績向上に向けた計画数字を達成するためのマネジメント体制構築から実行徹底を得意とし、多くのクライアントから高い評価を得ている。

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