MAD MEDiCiNE[ライブレポート]唯一無二の圧倒的世界観、狂薬と魔力で惑わせた妖しく美しきヴィラネスの狂騒

MAD MEDiCiNE[ライブレポート]唯一無二の圧倒的世界観、狂薬と魔力で惑わせた妖しく美しきヴィラネスの狂騒

MAD MEDiCiNEが、5月25日(日)に渋谷WWWにて5大都市ツアー<DARKSiDE CHiNATOWN>ファイナル公演を開催した。

この日、5人はグループ最大規模となった同ツアーのフィナーレを飾るにふさわしい、強烈な個性を解き放った圧巻のステージを展開。また、アンコールでは新たなグループコンセプトとデジタルミニアルバムのリリースを発表し、さらなる躍進への期待感を高めた。

本記事では、圧倒的な世界観でグループのオリジナリティをまざまざと見せつけた同公演の模様をお伝えする。

取材・文:冬将軍

撮影:ミヤタショウタ

禍々しい暗闇の中、けたたましく打ち鳴らされるエレクトロビートに乗せて、1人ひとり、羽根扇で顔を覆いながらゆっくりとした足取りでステージに登場する。扇からその顔があらわになると、声援に覆い尽くされていた会場は一瞬静寂に包まれた。それほどまでに5人の眼光は鋭かった。

オリエンタルないななきがフロアにピリピリとした緊張感を走らせる。そうした雰囲気に寄り添うようにQ酸素がすうっと歌い出し、不敵な笑みを浮かべた那月邪夢が妖しく歌いつぐ。ライブの始まりは本ツアーのテーマでもあるダークチャイナの世界観を象徴する「独占悦楽少女」だ。響き渡る重低音と不穏さを掻き立てるリズム、そして非現実世界へと誘う魔力を司る5人の歌と蠱惑的なパフォーマンスに身を委ねるしかないオーディエンス。そんなフロアの様相を嘲笑うかのように《つまんないや つまんないや》と5人は歌い踊る。そして、憑宮ルチアが言い放った。

《所詮はお遊び? 舐めんじゃないわよ馬鹿野郎》

5月25日(日)、MAD MEDiCiNEがグループ最大規模となった5大都市ツアー<DARKSiDE CHiNATOWN>ファイナルを渋谷WWWで迎えた。

ソールドアウトとなった会場は開演時間が押すほどにオーディエンスがひしめき合っていた。無数の提灯が飾られた場内はツアータイトル通りのチャイナの雰囲気。傾斜になったフロアもそうした中華情緒に溢れた趣に一役買っている。ステージに目を遣れば、宮殿さながらのセット。170cmに及ぶ巨大な扇が飾られ、後方には「独占悦楽少女」MVと同じく、下手側から「操人」(白)、「桃雷」(桃色)、「邪神」(赤)、「存命」(緑)、「夜狂」(青)と、メンバーカラーに彩られた御旗が飾られている。徹底的な世界観構築とオリジナリティに溢れたMAD MEDiCiNE(以下、マドメド)のワンマンライブらしい景色だ。

「独占悦楽少女」を妖艶に魅せたあとは、不穏な空気を引き裂くようにビートが高鳴り、「狂躁シェイプシフター」へ突入する。一変した軽快なリズムに合わせ、フロアから無数のペンライトが上がり色鮮やかな情景が広がっていく。《咲いて!》荒ぶる魔王・邪夢の扇動と、《狂躁!》と冷徹な唯一むにの先導に呼応するオーディエンス。大砲のように連打するバスドラムはそのままフロアの鼓動となり、狂躁は狂騒となって序盤から会場はこの上ない高まりを見せる。

“全員踊れーっ!”

邪夢の咆哮が、高まった会場の熱をさらに掻き乱していく。「黒猫のダンス」だ。クールに魅了するむにと、キュートな動きの反面で不気味さが同居するありすりあのコントラストは美しく、ダンサブルに5人のグルーヴがズンズンと会場を揺らすとオーディエンスも負けじとフロアを揺らしていく。

メンバーそれぞれ自己紹介を終えると、「愛憎レイテンシー」へ。刹那メロディとエレクトロなビートが交錯し、楽曲の悲壮感と5人が放つダークオーラが錯綜する。哀しみと強さが介在するパフォーマンスに惹き込まれていく。鮮やかに舞う邪夢とあでやかな佇まいのルチアが美しく淫らに絡み合うシーンは同曲のハイライトだ。邪夢がルチアをそっと抱き寄せ、2人の身体が重なると悲鳴のような歓声が上がった。

MAD MEDiCiNE<DARKSiDE CHiNATOWN>渋谷WWW(2024年5月25日)
MAD MEDiCiNE<DARKSiDE CHiNATOWN>渋谷WWW(2024年5月25日)

そのまま「MAD GAME」へ傾れ込む。この2曲の繋がりはライブでこそ、その真価が大きくわかる。手の指先から足の先までしなやかに動く四肢、髪の毛と衣装の揺れまで自在に操る邪夢を筆頭に、ノリのよいエレクトロビートに合わせて華麗に舞う5人。マドメドの狂薬によって毒毒しい世界はより凶暴なものになっていく。さらに間髪入れずに「ヒステリックトリック」を叩き込んだ。ミックスボイスからファルセットへ流麗に響かせる邪夢と、振り絞るように歌い上げる酸素の歌声を前に、皆が一気に“クスリ漬け”にされる。楽曲中に大きく場面展開する“メンヘラ口上”は、誰もが持つ人間の弱さを力強く歌うマドメドの真髄を思い知らされるパートである。そんなオーディエンスの邪気をパワーに変えるように「毒毒★Sweet Prayer」を続けた。

《鏡に写らない偽物なの でもいいの》

そう歌う彼女たち。王道ではない覇道、いや邪道だろうか。正義を掲げる主人公よりも相対する悪役が人気の場合も多い。そんなラスボス的存在、ダークオーラを纏った彼女たちの強さをありありと感じるのである。それは、初めての5大都市ツアーの想いをそれぞれ語り、無事に完走できた礼を述べたあとに披露された、「楽飴華 -ハッピィキャンディチャイニィ-」で頂点に達した。マドメドのアイドルシーンにおけるヴィラン、ヴィラネスとしてのポジションを決定づけた楽曲と言っていいだろう。

ありすりあ<DARKSiDE CHiNATOWN>渋谷WWW(2024年5月25日)
Q酸素<DARKSiDE CHiNATOWN>渋谷WWW(2024年5月25日)

地鳴りのごとくダークでヘヴィなビートがずっしりと轟く。グッと重心を落とした5人の動きは怪しさを増すが、この上なく美しくある。邪気たっぷりな邪夢節が炸裂するラップパート、コレオグラファーとしても活動するむにが、浄げに統率していくダンスパート……と展開によって目まぐるしく変わっていく場面転換に息を呑む。それはライブでの盛り上がりを重視して作られるアイドルソングとはかけ離れたものだ。ありきたりな言い回しだが、“アイドルらしからぬ”構成を持った同曲は、ボーカルグループとして、ダンスグループとしてのマドメドの輪郭を色濃く表している。

「楽飴華 -ハッピィキャンディチャイニィ-」の重々しい雰囲気をかき消すように始まった「ira=elide」。キャッチーながらも、不気味さを醸すダークファンタジー。《イライラ》と《ira=elide》、胸騒ぐ言葉遊びが忌わしく転がっていく。どの楽曲でも一聴してわかるマドメドらしい旋律、フレーズ、言い回し、そしてサウンドがある。そうしたアイドルグループは意外と少ないものだ。

どこかロック魂を感じさせながらもデジタルビートに包まれたマドメド楽曲の中で、ストレートにバンドサウンドで攻める「レゾンデートル」。V-ROCKテイストかぐわすメロディを丁寧になぞっていく。潤いを感じさせながらも鋭い邪夢の声、低いところから高い方へと伸びやかに駆け上がる酸素、独特の奇数倍音を持ち無表情さを感じさせるむに、といった鉄壁のボーカリゼーションが退廃的な楽曲観を築き上げていく。

唯一むに<DARKSiDE CHiNATOWN>渋谷WWW(2024年5月25日)

ルチアが、ソールドアウトしたことに対して改めて礼を述べると、「らぶぎみ」からのラストスパート。ソリッドなデジタルビートとエッジィなシーケンスに乗せて、“死ぬ気でかませ!”と邪夢が叫んだ。アップテンポのリズムに大きく沸くフロアを満足げに眺めながら、笑顔を見せる5人。しかしながら歌っているのは重苦しい愛である。

憑宮ルチア<DARKSiDE CHiNATOWN>渋谷WWW(2024年5月25日)
那月邪夢<DARKSiDE CHiNATOWN>渋谷WWW(2024年5月25日)

ラストはこの5人でのマドメドの始まりともいえる「眠罪」。猟奇的に響くアーシーなエレクトロサウンドで会場全体が踊りに踊り狂った。

会場を包み込む爆発的なエネルギー

鳴り止まぬアンコールに包まれた会場にスクリーンが降り、次なるコンセプトである“Märchen(メルヘン)”とデジタルミニアルバム『いちばん幸せな死に方。』が6月20日(木)にリリースになることが告知された。

新衣装で登場した5人。白魔女衣装のルチアがエレガントに登場すると、その美麗な姿に会場はどよめいた。『不思議の国のアリス』モチーフのむに、メンバーカラーの緑を基調に初めての短めのスカートだという酸素、ぬいぐるみをあしらったロリータ風衣装のりあ、と各々がメルヘンイメージを具現化するも、最後に登場した邪夢は“ハートの女王”と言いながらも、角を生やし赤黒を纏ったその風貌は、本人が“5人の中で1番ヴィラン”というほどの魔王っぷりだ。

MAD MEDiCiNE<DARKSiDE CHiNATOWN>渋谷WWW(2024年5月25日)

そして新曲「アリス心中」が初披露された。ダークファンタジーとエレクロビート、ゲームミュージックの8ビット調サウンド、マドメドを構成するそのすべての要素がジェットコースターのように猛り狂う。その膨大な情報量に殺されるような楽曲だった。歌唱面もパフォーマンス面も過去最高の難曲であるように思えた。

エッジィなギターが牽引していく「ときめきオーバードーズ」。爆発的なエネルギーが会場を包み込む。映る景色を噛み締め、その熱を逃さないよう会場を見渡す5人の眼差しが印象的だった。

ラストのラストでオケ出しのトラブルに見舞われるも、動じずに改めて真っ直ぐ歌い出す酸素。最後に送られたのは、「完全犯罪※420」。力強く堂々とした歌とパフォーマンスを携えてライブは幕を下ろした。本を閉じるように、心地よい余韻を残しながら——。

ニューコンセプトの“Märchen(メルヘン)”へ。そしてデジタルミニアルバム『いちばん幸せな死に方。』のリリースが控える。さらにはミニアルバムを提げてのツアーも発表された。

他の追随を許さぬ圧倒的な強さで魅せるMAD MEDiCiNEの新たな物語が、今また始まろうとしている。

MAD MEDiCiNE<DARKSiDE CHiNATOWN>

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