誕生日おめでとう!薬師丸ひろ子に楽曲を提供したアーティストから10人を選んでみた  6月9日は薬師丸ひろ子さんの誕生日!おめでとうございます

歌手としても確かな足跡を残している薬師丸ひろ子

本日(2024年6月9日)は、薬師丸ひろ子60回目の誕生日である。80年代に青春時代を過ごした世代にとっては角川映画の主演女優の印象が強い彼女だが、歌手としても確かな足跡を残している。自ら歌った主演映画の主題歌が軒並みヒットしたのはもちろん、クオリティの高いアルバムを何枚もリリース。

そう、第一線の作家(作詞家 / 作曲家)やアーティストたちが楽曲を提供し、多くの名曲が生まれた事実は見逃せない。そこで今日は、薬師丸に曲を提供した作家やアーティストから10名を選び、その作品と私のイチ推しを紹介したい。誕生日にあたり、多くの名曲を聴かせてくれたことへの感謝をこめて。

来生たかお、松本隆、大瀧詠一、ユーミン…薬師丸ひろ子を彩る10人の作家

来生えつこ・来生たかお(作詞・作曲)
薬師丸ひろ子の歌手活動は、来生えつこ・たかお姉弟が作詞・作曲して大ヒットした映画主題歌「セーラー服と機関銃」から始まった。作曲者である来生たかおのシングル「夢の途中」も大ヒットし、来生姉弟には曲の制作依頼が殺到。中森明菜をはじめ様々な歌手に曲を提供するヒットメーカーになったのは周知のとおり。

歌手、薬師丸ひろ子の誕生は、80年代音楽界の歴史が動いた瞬間でもあった。私のイチ推しは、1985年にリリースされたアルバム『夢十話』に収録された来生たかお作曲のバラード「バンブー・ボート」。薬師丸の切なくも優しい歌声を堪能できる。

松本隆(作詞)
鮮烈な歌手デビューを飾った薬師丸ひろ子は、その後も主演映画の主題歌を歌い続けるが、それらの作詞を担当したのが松本隆だった。端緒となった「探偵物語」の作詞に松本が起用されたのは、薬師丸を担当していた東芝EMI(当時)の鈴木孝夫ディレクターと松本が旧知の仲で、角川春樹も松本のファンだったため。松本も薬師丸のファンだったので相思相愛だった。そんな松本は、「探偵物語」から2000年の「Love holic」に至るまで、計7作のシングルを作詞している。これは1人の作詞家として最も多い。

松本の本領が発揮されたのは、1986年のアルバム『花図鑑』である。この作品は “花” をテーマに松本がプロデュースし、全曲を作詞したコンセプトアルバムで、薬師丸の透明なボーカルと曲が見事に調和した名盤。私のイチ推しだ。

大瀧詠一(作曲)
そんな松本隆は、薬師丸ひろ子と作曲家とをつなぐキューピット役も果たした。その最初の一人が、盟友の大瀧詠一だ。曲はもちろん「探偵物語」で、鈴木ディレクターと松本が話し合って大瀧を選んだそうだ。大瀧は薬師丸に「探偵物語」と「少しだけやさしく」の2曲を提供するが、当初は「少しだけやさしく」が主題歌候補で、「探偵物語」は「海のスケッチ」というタイトルだった。しかし、薬師丸は「海のスケッチ」を気に入り、主題歌が入れ替わったエピソードは有名だ。

ただ、大瀧が薬師丸に提供した作品は2曲のみ。松田聖子のようにアルバム曲も作ってほしかったと、今にして思う。

南佳孝(作曲)
シティポップの元祖とも呼ばれる南佳孝も、松本とは旧知の間柄。1981年の角川映画『スローなブギにしてくれ』の主題歌を2人が作った実績から、薬師丸の主演3作目『メイン・テーマ』の主題歌を作ることになった。そして南も、「スタンダードナンバー」という別タイトルで同じ曲をひと足早くリリースする。両曲とも大村雅朗のアレンジが絶品で、私も何度聴いたかわからない。

そんな南は、薬師丸に4曲を提供している。イチ推しは、1984年のファーストアルバム『古今集』に収録された「つぶやきの音符」。来生えつこが書いた幻想的な歌詞に南のメロディがマッチし、薬師丸の神々しいボーカルを引き立たせている。

呉田軽穂(作詞・作曲)
1981年に薬師丸が主演した映画『ねらわれた学園』の主題歌「守ってあげたい」を作り、自ら歌ったユーミン。1984年には、薬師丸が歌う映画主題歌の作曲者として呉田軽穂名義で名を連ねた。作詞は松本隆。松本、ユーミン、そして薬師丸という3つの才能が交わって生まれた「Woman “Wの悲劇”より」は、完成度の高い名曲として今も評価されているが、同じ制作陣によるB面の「冬のバラ」も、隠れた名曲だ。

そして2021年、薬師丸の歌手活動40周年を記念して発売されたベストアルバム『Indian Summer』に、ユーミンは37年ぶりに新曲「Come Back To Me 〜永遠の横顔」を提供した。

井上陽水(作詞・作曲)
薬師丸ひろ子が角川映画を卒業した後に主演した映画は、1985年に東映が制作した『野蛮人のように』。その主題歌「ステキな恋の忘れ方」を作詞・作曲したのが井上陽水だった。陽水独特の妖しくアダルトな曲を歌う薬師丸からは、映画で演じた女流作家の役柄のような大人の女性のオーラを感じた。

そんな陽水は、翌年の『花図鑑』にも2曲を提供。どちらも松本隆が詞を付けている。私のイチ推しは「哀しみの種」。松本の歌詞と陽水のメロディが明るく調和し、薬師丸の優しい歌声が印象に残る名曲だ。

中島みゆき(作詞・作曲)
中島みゆきは、70年代の名曲「時代」のカバーを含む全4曲を提供している。「時代」という名曲を薬師丸が歌ったことは、みゆきファンの私にとって奇跡だったが、他の3曲も、薬師丸の個性が引き立つ名曲揃い。彼女の素直な歌い方が “みゆき節" にハマり、相性の良さを感じる。

私のイチ推しは、1988年のアルバム『Sincerely Yours』収録の「おとぎばなし」。中島みゆきにしか書けない切ない歌詞を、薬師丸が表情豊かに歌い上げている。薬師丸には、中島みゆきの曲をもっと歌って欲しい。

竹内まりや(作詞・作曲)
松任谷由実、中島みゆき、竹内まりやという80年代を代表する女性アーティスト3人から楽曲を提供された歌手は、薬師丸ひろ子だけだろう。この3人の中で、最も多くの曲を提供したのが竹内まりや。後に竹内自身もセルフカバーして有名になった「元気を出して」、竹内のカバー「もう一度」を含め、全7曲を提供している。

その中で、『Sincerely Yours』の先行シングルとして発売された「終楽章」が、私のイチ推し。歌詞をじっくり聴かせるバラードで、低音のメロディーを丁寧に歌う前半と、音程が上がり情感がこもるサビのコントラストが素晴らしい。

伊集院静(作詞)
1987年のアルバム『星紀行』をプロデュースし、10曲中8曲を作詞したのが伊集院静。アルバムでは作詞家のペンネーム “伊達歩” ではなく、作家名義の “伊集院静" として名を連ねている。アルバムには明るい曲が多く、薬師丸の意外な一面を伊集院が引き出しているように思う。異国情緒が漂うタイトル曲「星紀行〜キャメルの伝説〜」と、伸びやかな声が印象的な「マリーンブルーの囁き」が私は好きだ。

ただ、イチ推しは、玉置浩二が作曲したシングル「胸の振子」。薬師丸の歌声が神がかり、サビのアレンジは「Woman “Wの悲劇” より」を彷彿させる浮遊感を味わえる。

吉田美奈子(作詞・作曲)
南佳孝と同じく松本隆と旧知の間柄だった吉田美奈子。薬師丸へは作詞のみも含め5曲を提供している。中でも、アルバム『Sincerely Yours』に収録の「時の贈り物」と「ハイテク・ラヴァーボーイ」は、作詞・作曲・編曲を1人で担当し、雰囲気が全く異なる2曲を薬師丸が演じ分けているのが興味深い。

イチ推しは、1989年のアルバム『LOVER'S CONCERTO』収録の「うたかた」。上田知華が作曲したバラード曲で、吉田が作詞している。文学的表現を駆使した歌詞が素晴らしく、薬師丸の気品を引き出している。

歌手の道も歩んだことは薬師丸ひろ子の宿命

この10名以外にも、筒美京平や阿久悠といった大御所をはじめ、薬師丸に作品を提供した作家やアーティストは多い。こうした第一線の作家たちと薬師丸が出会い、名曲が生まれた背景には、薬師丸の存在が創作意欲を高める格好の素材だった点が影響しているのだろう。

そして、新進気鋭のアーティストたちの曲を歌った薬師丸は、ニューミュージックと歌謡曲の融合が進んだ80年代の音楽界を象徴する歌手だったとも言える。その意味で、女優に専念するとも言っていた薬師丸が歌手の道も歩んだことには、宿命を感じる。そのことにも感謝したい。

カタリベ: 松林建

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