【社説】漫画のドラマ化 原作の尊重があってこそ

ドラマ作品は誰のものなのか。漫画家の芦原妃名子(ひなこ)さんが残した問いを、テレビ界も出版界も重く受け止めなくてはならない。

芦原さんは日本テレビが制作したドラマ「セクシー田中さん」の原作者で、1月に急死した。脚本を巡り日テレ側と意見が対立していた。

放送終了後、途中降板した脚本家が「苦い経験」などと交流サイト(SNS)に投稿し、芦原さんもネット上で経緯を説明した。やりとりが誹謗(ひぼう)中傷につながった。

芦原さんは「攻撃したかったわけじゃなくて。ごめんなさい」と投稿した翌日、死亡しているのが見つかった。

日テレと原作の版元である小学館は、それぞれ調査チームをつくり、制作経緯や課題を報告書にまとめた。

読んで驚くのは、原作側と制作側があまりに意思疎通できていなかった事実だ。原作に対する認識の差は大きい。

芦原さんは小学館を通じて日テレ側に「原作に忠実に」と強く求めた。それがドラマ化の条件と考えていた。

日テレ側はそこまで強い要求と捉えていなかった。芦原さんの意向は脚本になかなか反映されず、修正を繰り返し、途中から自身で脚本を手がけた。心労は計り知れない。

原作者にとって、自身が生んだ登場人物や作品の世界観が異なる解釈で傷つけられるのは耐え難いだろう。そもそも著作者には、意に反して内容を改変されない著作者人格権がある。原作者の意向が尊重されるのは当然だ。

むろん漫画とドラマは表現方法が異なり、改変は避けられない。原作者と合意し、大胆なアレンジで作品の魅力が高まることもある。芦原さんはドラマ化の経験があり、その点は理解していた。

最終的に芦原さんの意向は取り入れられた。とはいえ、日テレには作品が面白ければよいとの認識がなかったか。視聴率や動画配信の収入を優先し、原作を軽視しなかったか。原作者との力関係で強引に制作を進めなかったか。テレビ局の体質そのものを省みる必要がある。

日テレは芦原さんと原作利用の許諾に関する契約書を交わしていない。業界では珍しいことではないようだ。原作者とのトラブルがなくならない背景には、こうしたあしき慣行がある。認識を改め、契約書作成を必須とすべきだ。

動画配信サービスの拡大でドラマの制作本数は増える傾向にある。現場は忙しく、今回の制作期間は半年程度だった。日テレの調査チームが、放送開始の1年半前、遅くとも1年前には企画を決定するよう提言したのは妥当だ。

ドラマの原作に漫画や小説が重宝されるのは、短期間で完成し、原作ファンの視聴が見込めるからだ。出版社も本が売れる利点がある。

良質のドラマを目指し、オリジナル作品にも力を入れたい。脚本家の人材育成に業界全体で取り組んでほしい。

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