ニコラ・グルビッチ連載③ポーランド代表が重ねた準備と監督としての心構え「平凡なチームで優勝を狙うようなことはしない」

今夏のパリオリンピックで金メダル候補筆頭と評される男子ポーランド代表。2022年から始まったオリンピックサイクルでチームを指揮するのは、バレーボール界における名プレーヤーの一人、ニコラ・グルビッチその人だ。自身も2000年のシドニーオリンピックでは母国のユーゴスラビア(当時)に初の金メダルをもたらした功績を持つ。その人物像そして代表監督としての思いに独占インタビューで迫る【その③/全4回】

ニコラ・グルビッチ(左端/Nikola Grbić/1973年9月6日生まれ/セルビア国籍/男子ポーランド代表監督/シドニーオリンピック金メダル)【写真:Volleyball World】

世界トップチームを指揮し、2023年は充実のシーズンに

世界選手権では2014年、18年と連覇を達成。国民から熱狂的な声援を浴びる男子ポーランド代表は今や国際大会で必ずといっていいほど表彰台に上がり、FIVBランキングでもトップに君臨する。だが、オリンピックだけは別。前回の東京2020大会を含めて、ここまで5大会連続で準々決勝敗退に終わっているのだ。

「まずは、そこを突破しなければ。とはいえ結局のところ、周りの期待に応えることはできません。いくらでも期待してもらえればと思いますが、それでも私たちのやるべきことはできるかぎり最高のバレーボールをすることだけ、なのです。

試合が始まったときに、それができるようにする。そのために精神的、肉体的、技術的そして戦術的な準備をする。それが私のやろうと考えていることです」

2022年に男子ポーランド代表監督に就いてから、指揮官の中でこの考えは一貫している。最大限の準備を施して目指すゴールは2024年のパリオリンピックだ。就任初年度の世界選手権では3連覇ならず、準優勝に終わったが…。

「道のりはとても長いですし、時間が必要にもなってくるでしょう。ときには困難も。ですが世界選手権決勝で得た教訓は、チームを押し上げるにあたって十分なものでした」

翌年はネーションズリーグで優勝。しかもファイナルラウンドの舞台はポーランドだった。同じく自国開催だった前年の世界選手権の悔しさを振り払い、国民の目の前で、選手を、そしてファンを歓喜にいざなったのである。続くヨーロッパ選手権でも頂点に輝き、勢いそのままにパリ五輪予選を突破。2023年はポーランド代表にとって完璧ともいえるシーズンとなった。

チームへ厳しく要求し続けるグルビッチ監督。最高のパフォーマンスを引き出すために、だ【写真:Volleyball World】

ベストであることを自らに課して、ベストなアプローチを模索する

それでも、だ。パリオリンピックの切符をすでに獲得し、臨んだ今年のネーションズリーグ。予選ラウンド第2週を戦うために来日したグルビッチ監督ははっきりと口にした。「まだ私が望むかたちにはほど遠い」と。

「今回のネーションズリーグの目的はパリオリンピックに向けた準備を整え、調子を上げ、そして自分たちの限界を知ることです。望むかたちに届いていないのは当然。まだ準備のプロセスにあり、自分たちが最高の状態を迎えたときにそれがどのようなパフォーマンスであるべきかを常に描き、そこに向かって突き進んでいるわけです」

グルビッチ監督は自らにも仲間にも向上心を求める。そして現在は指揮するチームに対しても。それがコーチの役目であるからだ。

「どれもこれも、すべてはチームがよくなるためにあるわけです。私としては今、指揮するチームで可能なかぎり最高の結果を出したい。平凡なチームで優勝を狙う? そんな野心的なことはしません。もちろん、ときには自分の手に負えないようなチャレンジもあるでしょうし、1つの得点、1つのセットで試合の結果が変わってしまうかもしれませんが、それを受け入れることも必要です。それが人生の一部であり、スポーツの一部ですから。

また、『オリンピックのチャンピオンになりたい』と言えない場合もあるでしょう。受け持つチームとの巡り合わせや、そのときの運だってあります。ですが、だからこそ私は自分ができるかぎりベストであろうと思いますし、ベストな方法で選手たちを導き、後押ししようと考えています」

仮に表彰台には到底及ばないチームを指揮するとしても、グルビッチ監督ならば。闘争心と自信、そして準備する力を選手たちに植えつけるに違いない。

もっとも、巡り合わせでいえば、男子ポーランド代表を率いるのはこれ以上にないビッグチャンスだ。現役時代に手にした2000年シドニー大会以来の頂点に、今度は監督として到達できる可能性は十分にある。

「この3年間、一緒に戦ってきたので選手たちのことをよく知り、そして彼らも私がどのように仕事をするかもわかっていることでしょう。それはとても重要なことです」

いよいよやってくる勝負の舞台。そこに懸ける思いとは。

【最終回に続く】

(取材・文/坂口功将)

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