こんなに巨大な計画だったの 差し出された資料に描かれていた1枚のイラスト…衝撃的な規模だった"幻の駅" 30年前に見た夢と これから見る夢、そして現実

「しかし高松駅、立派になりましたねぇ。新しい駅ビル(高松オルネ)が完成して、外観が、左右対称でバランスが良くなったという印象があります」

JR四国の主要駅、高松駅。

その建物は、愛らしい笑顔(「スマートえきちゃん」というJR四国のキャラクターだ)の付けられた丸いガラス張りのドームを中心として、商業施設の入居するビルが、左右に広がるような形となっている。

高層ビルではなく、横に長い、水平基調の駅舎は、どこかヨーロッパの駅のような雰囲気もあり、記者はカッコいいと思っている。

左右対称のデザインになったのは「つい最近」

とはいえ、この形となったのは、つい最近のことだ。
現在の高松駅が完成した2001年から、新たに完成した「高松オルネ」の開業する2024年3月までの間、商業施設の入居する駅ビルは、正面から見て「左側」にしか無かった

雑談の中で出てきた資料 そこには

「左右に広がるようにビルを配置するというのは、これは、当初から計画されていたことなんですかね? それが遂に完成形に至ったのかなと思ったんですが」

それは記者がJR四国の本社を訪れ、広報の担当者と雑談を交わしていた時のことだ。

「良いもの見せてあげる」

担当者は、ファイルに綴じられている、古そうな資料を繰り出した。
なるほど。これはきっと、景気の良かった平成ひとケタくらいの頃に描かれた完成予想図か何かが出てくるんだなと直感的に考えた。そこにはきっと、左右対称に、のびやかに広がった現在の駅舎が、期待を込めて描かれているに違いないと。やはり記者の見立ては正しかったのだなと、妙に自信を深めていたその目の前に、1枚の紙が差し出された

差し出された資料… えっ、これは何ですか?

「……なんですかこれ」

全く見たことの無い建物だ。

この建物のイラスト 一体なに?

「高松駅ですよ」

これがですか?
いや、本当だ、よく見てみると、高松駅と書いてある

これはなんですか、一体どういうこと。

当初の計画では この規模だった

「国鉄時代の駅舎から、現在の高松駅に建て替えられる際、当初の計画では、この規模のものになる予定だった」

いや、めちゃくちゃでかい。何なら仙台駅よりも大きく見える。左右が見切れているから横幅が分からないけども、もしかしらたら、博多駅とか札幌駅くらいあるのでは。

何よりこの、かつて東ベルリンで威容を誇ったテンペルホーフ空港を切り出してきたかのようなラウンドした駅舎、こんなものは、日本中探してもどこにも無いだろう。まるで夢の中で見た風景を追体験しているような、不思議な感覚に陥ってしまう。(ただ駅前に居る人の数だけはやけにリアルな気がする)

「平成不況などの影響もあり、現在の形に落ち着いた」

落ち着いたなんてレベルでは無くでかい。
このスケールならば、新幹線の乗り入れに備えた構造となっていた可能性もあり得たのでは。

「知りませんでした…」

地上7階 地下1階 一体何が入る予定だった

当時の計画によると、駅舎は地上7階の地下1階建て、延べ床面積3万3000平方メートル。中央部分には、4階まで吹き抜けのコンコースが設けられる予定だった。

完成予想図を見直す

どうする「スマートえきちゃん」

ガラス張りとみられる筒状の構造物が、屋根を突き破るようにして空へと張り出している。この下に、コンコースが設けられる予定だったのだろうか。壮大である。正面がガラス張りとなっている辺りに、実際に作られた駅舎との間に共通点を見出すことはできるように思えるが、しかしこの形状のガラスでは、うまく「スマートえきちゃん」を貼り出すことはできなかったに違いない。

なお、現在の博多駅の延べ床面積がおよそ20万平メートル、仙台駅でおよそ4万3000平方メートルということなので、この数値だけを見て比較すると、「幻の高松駅」だって、そこまでぶっ飛んで大きかった訳でもないのかもしれない。いや、そんなことも無いか。

「実際の高松駅」現時点で半分程度のサイズ?

ちなみに、実際に建設された現在の高松駅は、3階建てと4階建て部分が混在していて、今回の商業施設の開業を受け、延べ床面積はおよそ1万5000平方メートルとなった。これでも十分に大規模な駅ということには違いないものの、まぁとにかく当初の予想図のインパクトが凄すぎてですね…。

巨大な高松駅 もし完成していたならば

もし、予想図の通りの巨大な高松駅が完成していたならば、一体どうなっていたのだろう。

JR四国は、この駅ビル開発を弾みとして、不動産など、鉄道以外の事業展開を、早い段階から強力に推し進められていたかもしれない。その結果、経営規模がより大きく強固になり、例えば松山行きの「特急しおかぜ」が、複線化された予讃線をかっ飛ばすようになっていたのかも。いやしかし、あるいはその逆で、巨大なハコモノが経営の足かせとなっていた可能性もあり得なくは無い。考えたところで、根拠の無い妄想からは何の結論も導き出されない。「歴史にifは無い」とはよく言ったものだ。

そんな訳で、左右対称でバランスの良くなった、現在の実際の高松駅。
そのビルの配置が、建設当初から予定されていたことだったのかどうかについて、この日、驚きのあまり、肝心の答えを聞き忘れたまま帰路についてしまった。すみません、車なんです…。

帰社途中に見掛けた松山駅

高松から松山へ、帰社した記者は、その道中、建て替えに向けて仕上げの工事が進められている松山駅前を通り過ぎた。

立ち退きの済んだ広大なスペースの片隅に、ぽつんと現在の駅舎が、レトロな雰囲気を漂わせている。その背後に、近代的な匂いのする高架ホームが見える。その完成は、もう数カ月先に迫っている。

引退を目前に控えた現在の駅舎は、どこか寂しげにも見えた。

駅前開発に寄せる期待

新しくなる松山駅。その駅前はどのように変化してくのだろう。
高松駅周辺とは異なり、未だ具体的な開発計画が見えて来ない辺り、色々と不安も覚えてしまう訳ですが、少なくとも、今後50年間、あるいはそれ以上の長い期間、街の顔となる場所には違い無いので。
少なくとも、カッコよく生まれ変わる駅をうまく生かした、活気のあふれる街並みとなることに期待したいところです。

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