出力向上のトヨタは歓迎、牙を抜かれるフェラーリは「影響必至」。ル・マンで初導入の新性能調整の捉え方

 ル・マン2連覇を狙うフェラーリ陣営にて50号車フェラーリ499Pをドライブするアントニオ・フォコと、ディフェンディングチャンピオンである姉妹車51号車を駆るジェームス・カラドは、ハイパーカーBoP(バランス・オブ・パフォーマンス=性能調整)に“パワーゲイン”が導入されたことで、イタリアのブランドによる防衛戦に影響を与える可能性があることを認めた。

 6月12~16日にフランスで開催される第92回ル・マン24時間レースでは、WECの2024年シーズン開幕以来初めて、いわゆる“2段階式のBoP”がトップクラスに導入される。これにより9つのブランドが走らせるハイパーカーは設定されたしきい値である250km/h以上でパワーの増減を受けることになる。

 フェラーリ499Pは、ハイパーカークラスで基準値を超えたときにパワーが低下する3台のうちの1台だ。このクルマの場合、最高出力が1.7パーセント低下。8.6kW(約11.7ps)のパワーダウンに相当する。

(左から)アレッサンドロ・ピエール・グイディ、ジェームス・カラド、アントニオ・ジョビナッツィ(フェラーリAFコルセ/51号車フェラーリ499P)

 アレッサンドロ・ピエール・グイディとアントニオ・ジョヴィナッツィとともに昨季2023年のル・マンを制したカラドは、フェラーリはパワーゲインのせいで前戦のWECスパで見せたようなスピードの再現を期待することができないと語った。

「2ステージ(性能調整)は、僕たちに少し影響を与える可能性がある」とカラド。

「僕らが得たものが何であれ、彼らはそれを奪いとってしまった」

「しかし、レースペースを見て、いいウインドウにマシンを置き、適切なタイミングで正しいタイヤを使用するタイミングを決める必要がある」

“パワーゲイン”による出力低下が大きな障害になると予想しているかと尋ねられたカラドは次のように答えた。「長い道のりだからね。彼ら(主催者)は望むことを何でもコントロールできるから、いいかたちでコントロールされることを期待しよう」

 ミゲル・モリーナ、ニクラス・ニールセンと姉妹車の50号車フェラーリをシェアするフォコは、「スパとは状況がかなり変わった」と述べる。

「ここ(ル・マン)では優勝候補からスタートしない。ライバルたちがスパや他のサーキットで強いのが分かった」

「今のところ有力なのはポルシェとトヨタだと思う。僕たちは強いマシンを持っているし、シーズン序盤からそれを見せてきたけど、現時点では最強ではないと思う」

 このイタリア人ドライバーはまた、3月にカタールで行われたプレシーズンテスト(プロローグ)でテストされたパワーゲインが、来週水曜日の午後に行われるプラクティス1に向け、レース主催者によって見直されることに期待を示した。

「(9日日曜の)テスト中にそれがどのように機能するのか、正しい選択なのか、あるいは少し調整する必要があるのかが分かるだろう」

「実際にテストして月曜と火曜にデータを分析するチャンスがあるのはいいことだ」

アントニオ・フォコ(フェラーリAFコルセ/50号車フェラーリ499P)

■パワーアップを歓迎するトヨタ。基準スピードの変更には驚き

 マイク・コンウェイの負傷により、ル・マンの直前にドライバーラインアップの変更を強いられたTOYOTA GAZOO Racingで、テクニカルディレクターを務めるデイビッド・フルーリーは、日本メーカーが一貫して支持を表明してきたパワーゲインの導入を歓迎すると語った。

 小林可夢偉とニック・デ・フリース、コンウェイの代役としてチームに復帰するホセ-マリア・ロペスが駆る7号車と、現WECチャンピオントリオのセバスチャン・ブエミ、ブレンドン・ハートレー、平川亮がシェアする8号車、この2台のGR010ハイブリッドは、パワーゲイン・システムで0.9パーセントの追加パワーが与えられる4台のうちの1台で、トヨタの場合は4.6kW(約6.2PS)に相当する。

「論理的にはもっと早く導入される可能性があったので、パワーゲインはここ(ル・マン)でも来ないだろうと思っていた。しかし、少なくともこの要素については満足している」と語ったフルーリー。

「スパの後、それが必要だと認識されたようだね」

 しかし彼は、パワーゲインのしきい値が250km/hに引き上げられたことには、「より驚いた」と述べた。

「以前は210km/hと記載されていたので、それが変更されたことは追加の驚きだった」

 一方、トヨタのチームディレクターであるロブ・ルーペンは、パワーゲインを含むハイパーカーBoP(性能調整)に関するSportscar365の質問に対し、コメントを拒否している。

TOYOTA GAZOO Racingの8号車トヨタGR010ハイブリッド
フェラーリAFコルセの50号車と51号車フェラーリ499P

■ハイパーカークラスBoP(5月31日付)

2024年WEC世界耐久選手権第4戦ル・マン用

マシン PF 最低重量 最高出力 パワーゲイン
≧250km/h 最大エネルギー量 Fr.ERS作動速度
(Dry/WET)

アルピーヌA424 LMDh 1038kg(-7) 507kW(-6) 0.9% 903MJ(-10) ――

BMW MハイブリッドV8 LMDh 1039kg(+1) 508kW(-2) 0.9% 904MJ(-3) ――

キャデラックVシリーズ.R LMDh 1036kg(+6) 509kW(-7) 0.0% 900MJ(-9) ――

フェラーリ499P LMH 1043kg(-10) 508kW(+2) -1.7% 889MJ(-16) 190kph/190kph

イソッタ・フラスキーニ
・ティーポ6-C LMH 1048kg(-12) 515kW(-5) 0.9% 915MJ(-8) 190kph/190kph

ランボルギーニSC63 LMDh 1039kg(+4) 519kW(+5) -1.6% 904MJ(-4) ――

プジョー9X8 LMH 1047kg(-18) 508kW -0.7% 895MJ(-15) 190kph/190kph

ポルシェ963 LMDh 1042kg(+5) 511kW(+4) 0.0% 904MJ ――

トヨタGR010ハイブリッド LMH 1053kg(-11) 508kW(-7) 0.9% 906MJ(-11) 190kph/190kph

※()内の数字は前戦比

投稿 出力向上のトヨタは歓迎、牙を抜かれるフェラーリは「影響必至」。ル・マンで初導入の新性能調整の捉え方autosport web に最初に表示されました。

© 株式会社三栄