【今日の読み切り】「櫻の園」思春期の乙女たちのほのかな心情を綴る色褪せないオムニバス作品

by 緑里孝行(クラフル)

【櫻の園】

著者:吉田秋生

白泉社

価格:607円

丘の上の女子高校、桜華学園は、数百本の桜に取り囲まれている。その名にちなんで学園の演劇部では、春の創立祭に必ず、ロシアの劇作家アントン・チェーホフによる戯曲「櫻の園」を上演するのが伝統になっていた。

本作「櫻の園」は、「BANANA FISH」や「海街diary」などでも知られる吉田秋生氏による短編作品で、1994年12月に発売された。価格は607円。デジタル版も販売もされており、無料の「試し読み デジタル版」も配信されている。

本作は、「BANANA FISH」連載中の1985年に描かれた作品で、この作品以前にも、短編作品としてサイコスリラー作品「吉祥天女」が1983年から1984年にかけて連載されている。「BANANA FISH」では、切れ長の目が印象的なイケメン、アッシュ・リンクスと日本人大学生、奥村英二という男の友情物語が描かれているが、「吉祥天女」では、「櫻の園」と同じように、女性にフォーカスした作品となっている。また1994年から1996年にかけては、鎌倉を舞台に繰り広げられる、男女6人の交錯する想いを描いた短編ラブストーリー「ラヴァーズ・キス」も連載されている。

「櫻の園」では、1990年代、携帯電話も普及していない頃の女子校が舞台。女子高生ならではの雰囲気がたっぷり詰まっており、悩みを抱えながら生きている女の子たちが描かれる。演劇部で、戯曲「櫻の園」を演じるのはもちろん女性ばかりだ。思春期で揺れ動く彼女たちは、コンプレックスを持っていたり、恋愛で迷っていたり。1話1話がまるでパズルのピースのように合わさっていき、創立祭の当日を迎える。学生時代の切なさや懐かしさを感じられる作品となっている。

【あらすじ】

丘の上の女子高校、桜華学園。春の創立祭で、チェーホフの“櫻の園”を演じる演劇部員たち。思春期の乙女たちのほのかな心情をセンシティブに綴る必読の連作短編集!

(C)吉田秋生/白泉社

© 株式会社インプレス