東北から世界を変えるスタートアップを!「東北内外から多くの人を巻き込み、大きなスタートアップ・エコシステムを作り上げていきたい」 仙台市職員が語るスタートアップ・エコシステムの現在地

「東北から世界を変えるスタートアップの輩出を目指す」という目標のもと、スタートアップ支援の取り組みの幅を広げる仙台市。2023年度には学生・若者のアントレプレナーシップ醸成を目的としたプログラム「仙台グローバルスタートアップ・キャンパス(通称:SGSC)」の開催や、スタートアップ支援のワンストップ拠点「仙台スタートアップスタジオ」のオープンなど、東北のスタートアップ・エコシステムの発展へ向けた大きな一歩を踏み出している。

今回は仙台市による2023年度の起業・スタートアップ支援の総括と、「東北発のスタートアップ創出」へ向けたエコシステム構築の現在地について、仙台市 経済局 スタートアップ支援課の白川さんにお話を伺った。

仙台市経済局 スタートアップ支援課 白川裕也さん

スタートアップこそ経済成長のエンジン。東北を代表する企業を首都圏、そして世界へ送り出す

仙台は「東北大学を中心とした大学等の技術シーズ」や「震災復興の過程で生まれた強い社会課題解決マインド」など、スタートアップを生み出す起業家が育つポテンシャルがある地域だ。仙台市ではそのような志を持つ人たちの背中を押すべく、2010年代から社会課題を解決する起業家向けの支援プログラム「ソーシャル・インパクト・アクセラレーター(SIA)」の実施など、起業家輩出のエコシステム構築に力を入れてきた。

2020年、内閣府より「スタートアップ・エコシステム拠点都市」に選定されてからは、社会的・経済的に強い影響をもたらす「インパクト・スタートアップ」の創出を目指し取り組みを進めている。

そして2023年1月、仙台市の郡和子市長自らがスタートアップ先進地域であるシリコンバレーを訪問、東北の起業家育成やスタートアップ支援の体制について議論を交わした。そして「イノベーションや新たな雇用を生み出すスタートアップを『今後の経済成長のエンジン』と位置付け、スタートアップ支援をさらに強化してきた」と語る。

スタートアップ・エコシステムの構築にあたり、仙台市は新たに「ロールモデルとなるスタートアップの輩出」「ロールモデル予備軍の発掘・育成」「学生・若者のアントレプレナーシップの醸成」という3つの方向性を掲げてスタートアップ支援を幅を広げてきた。

仙台市のスタートアップ支援環境の充実へ向けて 3つの方向性

方向性①「ロールモデルとなるスタートアップの輩出」が掲げられた背景には「大学発スタートアップを中心に次々とスタートアップが生まれつつあるものの、『仙台のスタートアップといえばここ』と市民の方にも広く認知される会社はまだ生まれていないという課題意識があった」。

ロールモデルとなるスタートアップを生み出すべく、2023年度から仙台市が新たに取り組み始めたのが、東北大学等の研究開発型スタートアップに対する集中支援プログラムだ。一定の成長フェーズに入ったスタートアップに対して「資金調達」「広報戦略支援」など個社ごとの経営課題を解決する支援チームを結成し、半年間ハンズオンで支援を実施したという。

さらに大学発スタートアップと首都圏在住の経営人材のマッチングイベント開催、販路開拓や出資者探しを目的としたシンガポールやフィンランドでのイベント出展など、東北から首都圏、海外へのネットワーキングも強化している。

シンガポールでのイベント出展の様子

もちろん東北におけるスタートアップエコシステム構築にも力を入れているものの、投資ファンドなど、まだまだ育つには時間がかかる分野もある。「一刻も早く事業を立ち上げて成長させたいというスタートアップに対しては、首都圏や海外の経営資源にアクセスできるよう支援する必要がある」と白川さんは語る。

また、実際に仙台市が支援しているスタートアップには、蓄電・発電デバイスに活用できる新たなカーボン素材を開発する株式会社3DCをはじめとして「世界の市場が狙える技術を持つ会社が多くある」。仙台・東北を代表するロールモデルを目指し、首都圏、そして世界の舞台でさまざまなスタートアップたちが挑戦を始めているのだ。

仙台スタートアップスタジオを「スタートアップに挑戦する人を後押しする」場に

上記の取り組みが「突出したインパクトを残すスタートアップを生み出す支援」ならば、仙台市が掲げる残り2つのスタートアップ支援環境の方向性である「ロールモデル予備軍の発掘・育成」「学生・若者のアントレプレナーシップの醸成」は、起業のハードルを下げ、裾野を広げる支援と言えるだろう。

そして方向性②「ロールモデル予備軍の発掘・育成」の取り組みを象徴する拠点が、イノベーション創出拠点「YUINOS(ユイノス)」内に開設された仙台市のスタートアップ支援拠点「仙台スタートアップスタジオ」だ。

仙台スタートアップスタジオ 2F コワーキングスペース

2024年3月にオープンした「YUINOS」とは、仙台市がNTT東日本、NTTアーバンソリューションズと連携して建設した4階建ての施設だ。仙台スタートアップスタジオのほか、コワーキングスペースやイベントスペース、東北大学が持つ次世代放射光施設「NanoTerasu(ナノテラス)」を利用する企業向けの分析室などの機能も兼ね備えている。

そして「仙台スタートアップスタジオ」の特徴は、相談できるメンターの経歴の幅広さだ。同スタジオのサポートの一つである「メンターズボックス」では、首都圏等で活躍するスタートアップ経営者、ベンチャーキャピタル、エンジェル投資家によるメンタリングを受けられる。また仙台・東北の経営者がメンターを務める「アドバイザリーボード」では、組織づくりや販路拡大に関する相談も広く受け付けている。

仙台市主催で首都圏でのイベント開催も積極的に行っている

「東北出身者を中心に仙台内外に住む様々なビジネスパーソンが『地元を応援したい』と協力してくれるようになったのは、数年前から首都圏などでイベントをやってきた成果だ」と白川さん。エリアの垣根を越えて、東北の起業家予備軍に支援が集まるエコシステムが、まさに「仙台スタートアップスタジオ」を起点に構築されつつあるようだ。

今後「仙台スタートアップスタジオ」を通じて「今後、仙台・東北を担うスタートアップになる可能性のある人たちの挑戦を後押しする場にしたい」とのこと。今後も「メンターズボックス」「アドバイザリーボード」のほか、イベントやセミナーを通じて「アイデアレベルから事業立ち上げ後の課題解決まで、幅広く対応できる」拠点を目指している。

最長9ヶ月間の手厚いプログラムで、東北から世界へ羽ばたく若者を育成

仙台グローバルスタートアップ・キャンパス、アメリカへの海外派遣プログラムの様子

仙台市は「今まさに起業している・起業したい人たち」だけではなく、将来の東北を担う学生・若者のアントレプレナーシップ(起業家精神)教育にも意欲的だ。中でも2023年度からスタートした「仙台グローバルスタートアップ・キャンパス(以下、SGSC)」は、世界基準の教育を提供する手厚いプログラムとして大きな話題を呼んだ。

「仙台・東北から世界へチャレンジする若者を育てる」をコンセプトとしたこのプログラムは、100名の東北の若者(学生〜20代の社会人)が世界最先端のオンライン教育プラットフォーム「Coursera」のアントレプレナーシップ教育を受講できる。

その後選抜された20名はハーバード・ビジネススクールのプログラムを受けたのち、アメリカのボストンやシリコンバレーを巡る。受講者はハーバードやスタンフォード大学、現地のベンチャーキャピタルとディスカッションしながら、自らの事業アイデアをブラッシュアップした。

スタートアップの本場、アメリカ現地の空気に触れ起業家精神を養う

そして3月14日の「YUINOS」オープン時にはSGSCの受講生によるビジネスアイデアコンテストも実施。「SGSCの経験を通じて起業の決意を固めた人も何名か出てきている」など、早速プログラムの成果が実りつつある。

「募集当初は定員が埋まるか不安の声もあった」が、予想に反して定員100名に対して300名以上の応募があったそうだ。蓋を開けてみると「東北の学生や若者は起業意欲も高く、海外に対する関心が高い人も多いこともわかった」という。

また2週間ほどの海外派遣プログラムなど、学生や若者にとって貴重な経験ができる本プログラムは「受講者の満足度も非常に高かった」とのこと。「今後もブラッシュアップをしながら取り組みを続けていきたい」と、継続的な支援への意欲を語る。

また23年度のプログラム受講者で起業を決めた人たち向けの、起業へ向けた伴走支援も企画中だという。今後の東北を担う若者たちの支援が今後さらに加速していきそうだ。

東北内外の人を巻き込み、スタートアップ・エコシステムを作り上げていく

イベントに登壇する白川さん。「仙台に限らず、様々な地域にいる多様な経験を持つ人を支援に巻き込むことが重要」と語る。

白川さんによると「他の政令指定都市と比較すると、仙台市の新規開業率は福岡市、札幌市に続く第三位」。人口に対して起業する人の割合は決して少なくはないものの、「東北から大きな技術革新や急成長を掲げるスタートアップを目指す人をいかに増やすか」が今後の課題だ。

そのためにも「他の地域からのスタートアップを呼び込むことよりも、起業したいと考えている地元の人や学生を支援し、彼らが地域で活躍できる可能性を高めることに注力していきたい」とのこと。「東北へ来た学生や留学生が、就職をきっかけに別の地域に行ってしまうのは非常にもったいないこと。仙台に魅力的な就職先を増やすとともに、起業という選択肢を身近にすることがスタートアップ支援の大きなテーマでもある」と話してくれた。

また仙台市のスタートアップ支援の取り組みの現状については「これまでにないほど盛り上がっている」と述べ、「これからも地域の若者や起業家のニーズをしっかりと把握し、それに応じた支援を行うことが重要。東北内外にかかわらず多くの人を巻き込み、大きなスタートアップ・エコシステムを作り上げていきたい」と意気込みを語った。

《編集後記》
仙台市は全国の中でもトップレベルにスタートアップ支援に力を入れている地域です。仙台スタートアップスタジオの開設やSGSCの取り組みを通じて、今後さらに東北から社会を変えるスタートアップが生まれるだろうというワクワクを感じました。私も仙台に住む一市民として、東北のスタートアップや起業家を応援していきたいと思います。(鈴木 智華)

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