ヒット曲「金太の大冒険」で♪金太負けるな~連呼 つボイノリオは「印税は一銭も入らず」と今も嘆き(あの人は今)

【あの人は今こうしている】

つボイノリオさん(75歳)

コンプライアンスが厳しくなった昨今、あれもダメ、これもダメとなり、窮屈になった。そんななかでも、1975年リリースの下ネタ満載のコミックソング「金太の大冒険」(エレックレコード)は今も愛されている。♪金太負けるな~と歌っていたつボイノリオさん、今どうしているのか。

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つボイさんに会ったのは、名古屋市に本社を置くCBC(中部日本放送)の会議室。93年10月からパーソナリティーを担当している、CBCラジオの番組「つボイノリオの聞けば聞くほど」を、今も続けているのだ。

「30歳ごろ、東京の事務所を辞め、その後、京都に住んで10年超、ラジオをやって、それから愛知へ戻ってきました。『聞けば聞くほど』は30周年を迎え、去年からいろんな番組イベントもやっています。この6月2日には、“ムード歌謡漫談”でおなじみのタブレット純さんをゲストに迎えイベントを開催したんですよ」

つボイさん、まずはこう言った。

「ほかにも、30周年に背中を押され、昔の音楽仲間の伊藤秀志と『つボいとうBAND』を組み、ユーチューブで配信しました。『オーバー・ザ・レインボー』など映画音楽や歌謡曲などのスタンダードナンバーをインストゥルメンタルで。やったことのない曲にあえて挑戦し、批判が出ても受けて立とうと考えまして。名曲は非常に微妙なコード展開をしているのだと学びましたね。この4月には後期高齢者になったことだし、これからまた曲作りやライブハウスの活動をやりまくってやろう、という気にもなってます」

老いてますます盛ん、とは結構なことだ。番組が30周年というのもスゴイ。しかも、月曜から金曜の、午前9時から11時55分までの放送。つボイさんは、まさにCBCラジオの“朝の顔”だが、「東京や大阪に比べ、このあたりは人材がいないので続いただけです(笑)」と控えめだ。

「番組を休んだのは、60歳のときに心筋梗塞で1カ月、それから2年前に新型コロナウイルスに感染したときの1週間の2回だけ。2度ともラッキーで、時間との勝負といわれる心筋梗塞は処置が早くて4日で退院できましたし、コロナは熱と咳が少し出ただけで、後遺症もなし。自宅の自室のエアコンは壊れていたのに、ホテル療養をした1週間はエアコンのきいた部屋で、このあたりでは知られた弁当屋『八百彦』さんのおいしいお弁当をいただけて、自宅より快適でした(笑)」

心筋梗塞を患ったときは気持ちを入れ替え、運動を始めたという。

「日頃の不摂生のせいだというので、それからは日曜以外はスポーツジムで毎日2、3時間筋トレをしていました。ただ、コロナでサボり癖がついてしまって、ジムに通う習慣は途切れてしまいました。ジムに通うかわりに、ニュースをチェックしたり、聴取者らからの手紙やメールに目を通したり、資料を整理したり。U-NEXTで、昔、見逃した映画を見て、新発見をするのが楽しみですね。6時起床で7時にはCBCに入るのに、寝るのはつい午前0時を過ぎてしまいます」

規則正しい生活と、毎日の愛妻弁当が、健康維持に役立っているようだ。

「かみさんの弁当はおいしいんですが、愛されているというより、弁当は安上がりだからですよ(笑)」

30歳で結婚。息子2人は独立し、名古屋市内のマンションに、夫婦2人暮らし。

■ときどきXのトレンドに「でも仕事にはつながらない」

さて、愛知県中島郡奥町(現・一宮市奥町)で、名鉄社員の父と保育士の母の長男に生まれたつボイさん(本名:坪井令夫)は、高校時代にフォークソングやGSブームにのって音楽を始め、愛知大学法経学部在学中の70年、トリオ“スリー・ステップ・トゥ・ヘヴン”のメンバーとして「本願寺ぶるーす」(テイチクレコード)でデビュー。

大卒後はラジオDJやミュージシャンとして活動し、75年、ソロで「金太の大冒険」をリリースすると、際どい下ネタ満載ながら愉快な歌詞とメロディーが大ウケした。

「素人がデビューしやすい時代でしたから、私は時代に恵まれました。月給取りだった両親は心配していたぶん、『金太の大冒険』のレコード発売はとても喜んでくれました。オヤジは親戚中に配って、配り終えて『じゃあ聴いてみるか』と家でレコードをかけてみたらエッチな歌で……。『親戚中に配っちゃったじゃないか!』と怒られました」

「『金太の大冒険』は、私が岐阜放送で担当していた『ヤングスタジオ1430』というラジオ番組への投書を、ストーリー仕立てにして作った曲なんです。結構売れたはずなのに、レコード会社が倒産してしまって、印税は一銭も入ってこなかったんですよ」

「金太の大冒険」は、ときどきX(旧ツイッター)のトレンドに上がる。今の若者にも人気なのだ。

「でも、テレビやラジオの仕事には、一向につながらないんですよねぇ」

「金太、負けるな!」と繰り返す歌を、公共の電波には乗せにくいからだろうか……。

(取材・文=中野裕子)

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