フィリピン、南シナ海で高まる「中国との緊張」…マルコス政権の対応は?

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一般社団法人フィリピン・アセットコンサルティングのエグゼクティブディレクターの家村均氏が、フィリピンの現況を解説するフィリピンレポート。今週は、中国との間で地政学リスクが高まるなか、マルコス政権がどのような対応を考えているのかとともに、フィリピンの2024年の経済成長見通しについて解説していきます。

中国「南シナ海の主権を主張」…フィリピン「日米関係強化」

フィリピンのマルコス大統領は、南シナ海における緊張が世界経済にとって重大な問題であると述べました。この水域は国際貿易にとって非常に重要であり、関係者はASEANやアジア、インド太平洋地域に限られず、すでに世界経済全体が関わっていると指摘しました。

大統領の発言は、世界各国の防衛リーダーやアナリストが集まるサミットを前にしたものであり、中国がこの重要な水路へのアクセスを制限する政策を推進している中で行われました。

マルコス大統領は、南シナ海の緊張に対するフィリピン政府の立場を強調し、フィリピンおよび地域の今後の方針を探る意向を示しています。また、大統領がこのテーマで招かれたこと自体が、フィリピンが直面する課題の重要性を認識していると述べています。

中国は、フィリピンの排他的経済水域(EEZ)内でフィリピン政府や漁民の活動を妨害。特にスカーボロー礁や第二トマス礁などの南シナ海で、中国海警の船舶が頻繁に出没していることが報告されています。また、リードバンク近くでの中国の存在が増加。このリードバンクには、米国エネルギー情報局によれば、最大54億バレルの石油と55.1兆立方フィートの天然ガスが埋蔵されている可能性があるとされています。フィリピン唯一の国内天然ガス源であるマランパヤガス田が枯渇する可能性があるため、この水域の経済的重要性は増しています。

フィリピンの2人の大物実業家も、政府の海域主張を支持しています。サンミゲルのCEOであるラモン・アン氏は、この水域のエネルギー潜在力を指摘し、メラルコの会長であるマニー・パンギリナン氏もマルコス大統領の決断を支持しています。パンギリナン氏が率いるPXPエネルギーコープは、リードバンクでの掘削や探査活動に苦慮しています。

多くの専門家が、フィリピンが南シナ海問題を国際化する方針は正しいとみています。南シナ海は国際貿易にとって重要であり、中国はこの問題を関係国間でのみ解決すべきだと主張していますが、マルコス政府はこれに対抗し、国際社会に訴えかけています。

一方で、マルコス政権の南シナ海政策が、投資を脅かす可能性があるとの指摘もあります。タイやベトナムのような東南アジア諸国は、中国からの投資を引き付けています。北京は最近、全水域での4か月の漁業禁止を発表しました。これは、中国の海警が中国の管轄水域での出入国規則違反を疑う外国人を最大60日間、裁判なしで拘留する政策を採用した直後のことです。フィリピン軍は、中国の漁業禁止および新たな海警政策に対する対応策を準備していると発表しました。

南シナ海を通過する貿易は年間3兆ドル以上に上ります。フィリピンが中国との緊張が高まる中で、友好国との経済パートナーシップを強化する動きに出ています。中国はフィリピンにとって最大の輸入元で、米国は主要な防衛同盟国であり、フィリピン製品の最大の輸出先です。

南シナ海の地政学的懸念は、中国企業がサプライチェーンをフィリピンに多様化する上での障害となる可能性がある一方、日本とアメリカがサポートするルソン島の経済回廊の構築が中国への経済依存度を下げる可能性があります。日本とアメリカが今後5〜10年でフィリピンに1,000億ドル規模の投資を行うことが計画されています。

フィリピン「第2四半期経済成長率」、予想を超える5.9%

フィリピンの大手投資会社(FMIC)とアジア太平洋大学(UA&P)は、合同で発表したレポート「ザ・マーケット・コール」の中で、政府支出の増加により4月~6月期(第2四半期)の経済成長率は5.9%と加速し、年間成長率は目標の6%に到達する可能性があると予測しています。

第2四半期のGDP成長率が5.9%に達した場合、前年同期の4.3%や、第1四半期の5.7%を上回るペースとなります。フィリピン統計局は8月8日に第2四半期のGDPデータを発表する予定です。

FMICとUA&Pが予想する年間成長率6%は、政府が掲げる6~7%の成長率目標の下限にあたります。レポートでは、第2四半期から始まる加速が2024年を通じて続くという楽観的な見方をしています。これは、雇用者数の増加、政府の財政余地拡大による支出の加速、特にインフラへの投資拡大、製造業の生産額の回復、エルニーニョ現象による農業の悪化からの改善などを根拠としています。

なお、政府は当初6.1%の平均成長率を想定していましたが、第1四半期の成長率が伸び悩んだことを受け、達成するためには残りの3四半期で平均6.1%の成長が必要になるとの見解を示しています。

また、フィリピン中央銀行(BSP)が第3四半期に25ベーシスポイントの利下げを実施した場合、内需が拡大すると予想しています。BSPは今月初め、政策金利を17年ぶりの高水準である6.5%に据え置きました(5回連続の据え置き)。しかし、8月までの利下げを示唆しています。7月にはインフレ率が中央銀行の目標レンジ(2~4%)の上限に達する可能性があるものの、米の価格と原油価格の下落により8月にはやや落ち着き、3%程度になると予想しています。

一方で、貿易赤字の拡大と米ドル高の影響で、7月から9月にかけてペソはさらなる下押し圧力にさらされる可能性があると指摘しています。ペソは6月5日に1ドル当たり58.42ペソで取引を終えました。これは、2022年11月7日の58.58ペソ以来、1年半以上ぶりの安値となっています。4月は債券や株式への投資意欲が低かったものの、5月の回復は、8月のBSPによる政策金利の引き下げ期待と、第1四半期の予想を上回る企業収益が下半期の好調さを示唆しているとみられています。

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