脱・黎明期を図る「FAST」市場トレンド~スポーツとローカルニュース、UXの3つが鍵になる~MIPTVカンヌ2024【トピックス②】 / Screens

最新メディア市場トレンドである無料広告型ストリーミングテレビ「FAST」の可能性と課題を共有する場が作られた。「MIP グローバル FAST&AVODサミット」と題し、業界トップアナリストのAlan Wolk氏をはじめ、米FOX傘下のTubi、韓国サムスンTV Plusなどの幹部が登壇し、スポーツやローカルニュース、UXの話題に焦点が当てられた。果たしてこれらは黎明期を抜け出す鍵となるのか。今年4月に開催されたフランスのTVコンテンツ国際マーケット「MIPTVカンヌ2024」レポートの今回は「FAST」セッションについて報告する。

■パリ五輪もフォロー体制を組むFASTチャンネル

フランス・カンヌのMIPマーケットで昨年、最も関心を集めたのが「FAST」をテーマにした集中セッションだった。アメリカで急成長した無料広告型ストリーミングテレビのFASTサービスが欧州にも広がりつつあり、上昇機運が生まれていたからだ。今年の4月8日から10日まで開催された「MIPTVカンヌ2024」でも引き続き組まれ、「MIP グローバル FAST&AVODサミット」として4月8日に開催された。

キーノートを飾ったのはテレビ広告メディアのリサーチ会社TVREVの創業者兼リードアナリストのAlan Wolk氏だ。「量より質。FASTは今、かつてのケーブルテレビの黎明期のような状態でもある」とWolk氏は語り始めた。チャンネルをキュレーションするようになり、アイデンティティを持ち始めて改善していった80年代のアメリカのケーブルテレビで起きたことと同じようなことがFASTで今、起こり始めているというのだ。

そんなFAST市場で今、注目すべき話題が「スポーツ」と「ローカルニュース」、「UX(ユーザーエクスペリエンス)」である。大きくはこの3つに焦点に当て、Wolk氏がセッションをナビゲートしていった。

実際、スポーツのFASTチャンネルは増加傾向にある。アメリカ主要FASTサービスのRokuは今年に入りNBAと契約を結び、Wolk氏曰く、パラウント系のPluto TVが運営する「クロスフィット・ゲームズ」はファン獲得に結びつき、好調という。

TVREVの創業者兼リードアナリスト Alan Wolk氏

トークセッションに登壇した韓国サムスンTV Plusの欧州MENAのコンテンツパートナーシップディレクターのJennifer Batty氏はパリ五輪に向けて、パートナーチャンネルと協力しながら設計中であることを明かした。

「放送局の中継をどのように補完し、フォローできるのか、まさに確認中です。もともと我々はスポーツ中継に早くから着手し、これまで欧州3大サッカーリーグの試合を生中継し、最近ではラグビーのシックス・ネイションズを欧州のいくつかの国で生中継しました。FASTにとってスポーツは原動力になることを実感しています」とBatty氏は語る。

■FASTで求められるローカルニュース

2つ目のニュースコンテンツもFASTサービスの要にある。Wolk氏はアメリカの現状を説明し、「視聴者が放送局やケーブルテレビから離れようとしているなか、FASTのニュースコンテンツが求められていると言えます。なかでも、ローカルニュースのニーズは高い。ローカルニュースのFASTチャンネルに州政府が援助しているケースもあります。たとえば、コミュニティカレッジや高校のスポーツ情報は既にFASTのローカルニュースの主力です」と話す。地域情報を得ることができるFASTサービスの存在が高まっているということだ。

韓国サムスンTV Plusの欧州MENAのコンテンツパートナーシップディレクター Jennifer Batty氏

サムスンTV PlusのBatty氏はニュースコンテンツも重要視している。「視聴者は世界の状況から地域まで目を向け、さまざまな方法でニュースを消費し、さまざまなタイプのニュースを求めています。つまり、視聴者は1つのニュースチャンネルだけを求めているわけではないのです。ですから、我々はヨーロッパ全土でさまざまなニュースチャンネルと提携しています。ローカルニュースにも力を入れ始め、できる限り多くのローカルニュース局とのパートナー提携を進めているところです。国際的なニュースから地元のニュースまで、視聴できることを目指しています」。

一方で、「ニュースチャンネルとの提携には細心の注意を払う必要がある」と指摘する。信憑性がある情報を提供していることが大前提にあり、既にニュースチャンネルを持ち、信頼できるパートナーとの提携に限っているという。

■沼るコンテンツと出会えるUX

3つ目の「UX(ユーザーエクスペリエンス)」についてはこの夏にイギリス進出を計画する米FOX傘下Tubiがその取り組みを明かした。Tubiメディアグループ国際マネージングディレクターDavid Salmon氏は「AIベースのコンテンツのマッチングとパーソナライズ化への大規模投資があってこそ、UXの向上が可能になる」と話す。

Tubiは本国サンフランシスコに大型技術チームを置き、エンゲージメント促進のための研究を日々重ねているという。その効果は、1万本のホラー映画コンテンツがTubiの売りになっていることに表れている。

Tubiメディアグループ国際マネージングディレクター David Salmon氏

「我々は膨大なホラー映画ライブラリーの中からハリウッド監督の処女作を見つけてもらうことをユーザーにお願いするのではなく、ユーザーのために紹介できることを大事にしています。こうすることで、ユーザーは沼にはまるコンテンツに出会えるのです」。

パーソナライズされた深い体験を生み出すために汗もかく。Tubiのポートフォリオの中からコンテンツをマッチングさせるセマンティック検索を可能にし、コンテンツタイトルの調整を手作業で行い、コンテンツの中身が安全であるかどうかの点検も怠らない。「広告を入れる適切な場所を知ることは、FASTのUXを向上させるために非常な重要なことだと思います」とSalmon氏が力説した。

現状のFAST市場においてスポーツとローカルニュースの活用、そしてUXの向上は重要な鍵にあることが登壇者の言葉から実感できる一方で、肝心のマネタイズについては模索中、いまだ初期段階にあることがわかった。

「黎明期から抜け出すための最後のピースはマネタイズだ」と語るWolk氏は「今後2、3年のうちに収益化の答えは見つかるのではないか」と予測している。FAST参入各社の継続的な試みとユーザーの支持が収益化の道を導いていくのかもしれない。

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