体感での差が縮まる「ハイエンドスマホ」と「ミドルクラススマホ」

By 西田宗千佳

Vol.138-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはイギリスに拠点を置く「Nothing」が日本市場に投入するスマホ。ここではスマホ性能、特にハイエンドとミドルクラスの違いを解説する。

今月の注目アイテム

Nothing

Phone(2a)

実売価格4万9800円~

↑ロンドンを拠点とするNothingが日本市場に投入するスマホ。画面は6.7インチのAMOLEDディスプレイを採用。OSは「Nothing OS 2.5 Powered by Android 14」を採用し、多彩なNothingウィジェットを利用できる

ハイエンドスマホとミドルクラス以下を分ける条件はなんだろう? 端的にいえば“使っているパーツ”ということになるが、昨今は見た目ではそれとわかりにくくなっている。

たとえばディスプレイの解像度は、もはやミドルクラスでも十分。ハイエンドの方が良いのは事実だが、購入の大きな要因にはならない。

そうなるとカメラの品質、ということになるが、こちらも、過去に比べミドルクラスの品質も上がっている。ただ、センサーとソフトウェアでのチューニングの差が大きく、確かに“ハイエンドとそれ以下で大きく品質が変わる”部分でもある。だからハイエンドスマホの多くはカメラに注力する。

では、プロセッサーはどうだろう? CPUやGPUの性能は確かに違う。

そしてPCに比べるとわかりづらいが、メインメモリーの容量も、ハイエンドとミドルクラスでは結構違う領域である。安価な機種は4GB程度だが、昨今のハイエンドでは12GBクラスになる。

これによって生まれる違いについて、「複数のアプリを使わなければ大丈夫」と説明している記事なども見かけるが、それはかなり認識が甘い。スマホの場合、PCに比べて“複数のアプリを自然と使っている”場合が多く、スペックが劣っているからと言って“気を遣いながら使えば大丈夫”というものでもない。メモリーの差は、アプリ自体の動作にも影響するものの、「アプリの切り替えをしたときの動作が遅い」とか「アプリの起動が遅い」という形で見えてくる場合が多いだろう。

スマホの場合、もちろんハイエンドであればアプリの動作が速くなる。ゲームの画質も上がることが多い。しかし、そこに重きを置かない場合、ミドルクラスでも十分と考える人は多くなってくる。

こうしたことはハイテク機器では常に繰り返されてきた道だ。スマホの場合、iPhoneやPixelなど一定の機種に人気が集中すること、割引や分割払いなどの施策が充実していることなどから、意外なほどハイエンド製品を手にする人が多い。

とはいえ、価格を下げるためにハイエンド向けプロセッサーを選ばない、という選択肢は増えてくる。シャープの「AQUOS R9」は、コストを考えて、あえてQualcommの「Snapdragon 7+ Gen3」を採用した。昨年モデルはハイエンドにあたる「Snapdragon 8 Gen2」だったから、グレードは下がったことになる。しかし、R9の目指す用途では7+ Gen3でも大丈夫と判断し、価格上昇を抑えるために決断したわけだ。

そもそもGoogleのPixelも、プロセッサーの性能としてはアップルやQualcommのものに比べれば劣る。性能はトップクラスとせず、コストパフォーマンスを重視した設計に近い。だから、秋にその年のハイエンドPixelを出しつつも、半年後の春にはコスパ重視の「a」シリーズが出せる。先日発売されたばかりの「Pixel 8a」も、昨年発売の「Pixel 8」も、同じプロセッサー・同じメインメモリー量(8GB)であり、違いはカメラとディスプレイくらいだ。

だとすると、カメラに興味がなければハイエンドの意味は薄いのか……という話になってくる。しかし、現在登場した「AI」というトレンドが、新たな差別化点としてフォーカスされてくる可能性が見えてきた。

ではそれはどういうことなのか? その点は次回解説したい。

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