犬が大好きなイラストレーター・ヤシンが語る「絵を描くことが究極の推し活」

現在、ニュースクランチで『この探偵、犬かもしれない』を連載中のイラストレーター兼漫画家のヤシンさん。Xにアップしているキャバリアとの生活が描かれた漫画も話題となっている。

こだわりを英語にするとSticking(スティッキング)。創作におけるスティッキングな部分を、新進気鋭のイラストレーターに聞いていく「イラストレーターのMy Sticking」。今回はヤシンさんに漫画を描くことになったキッカケや、犬がいる生活、そして『この探偵、犬かもしれない』についてもインタビューしました。

中学生の頃から同じアカウントを使い続けてます

ヤシンさんは漫画を描き始める以前から、SNSにイラストを投稿するイラストレーターとして活動していた。現在使用しているXのアカウントは、中学生の頃からずっと使い続けているものだという。

「Twitter(X)はずっと同じアカウントでやってます。何が残ってるかわからないですよ。探したら黒歴史がワッサワッサ出てくるかもしれないから怖いですね(笑)。プロフィールに“2010年からTwitterを利用してます”って書いてあるのを見て、毎回ビビります」

小さい頃から絵を描くのが好きだったというヤシンさん。保育園では友達との輪に入らず、一人で絵を描いたり工作をするような子どもだった。

「保育士さんが心配したみたいです。母親が呼び出されて、“全然みんなの輪に入っていかないんですけど大丈夫ですか?”って言われたらしくて。それに対して母は“この子は絵描くの好きみたいだからほっといてください”って返したそうです」

中学生になっても変わらず絵を描くのは好きで、授業中も絵を描いていた。

「あまり授業を聞かず、ずっと絵を描いてましたね。授業の内容を一応まとめている、という名目で落書きをしてました。“わかりやすくノートをまとめてるんですよ”って言い訳ができるくらいの感じで」

▲ヤシンさんが飼っているワンちゃんがモデル 本人X(旧Twitter)より

その頃から自分でキャラクターを創作して描いていたという。

「脳内で漫画のキャラクターみたいなものを考えて描いてました。設定とキャラデザインだけ考えて、漫画は描いてなかったです。創作キャラを作るのが好きな仲間たちとSNSで知り合って、設定を出し合ってワイワイ遊んでました」

ずっと手元に残るものが作りたい

その後、ヤシンさんは高校を卒業して、美大に進学。美大で身につけたスキルを活かした仕事がしたいとデザイン会社に就職をした。それから、その会社を辞めてイラストレーターに転身するのだが、キッカケはあることを感じたからだという。

「デザイン会社で働いてたときに思ったんですけど、自分の作品が残らないんですよ。当時、作ってたものって、チラシとか、消耗品のパッケージが主だったんですけど、実績としてはあまり残らなくて。プレゼントになりそうなものとか、ずっと手元に残るものが作りたいと思って、フリーランスのイラストレーターになりました」

会社を辞めてイラストレーターになってしばらく、SNSにイラストの投稿を続けていたところ、漫画の作画の依頼が舞い込んでくる。

「Twitterに趣味で描いた絵をアップしていたんですけど、それを見た出版社の方から、“漫画を描いてくれませんか”と話が来ました。漫画の設定上、マスコットキャラクターと筋骨隆々の男性の絵を両方描ける人を探されていたそうです。そういう絵を両方アップしてる人が、あまりいなかったんだと思います。それが3年くらい前ですね」

そうして連載が始まったのが『悪者さんちのハムスター』だった。それまでヤシンさんは漫画を描いたことがなかったので、苦労が多かったと話す。

▲『悪者さんちのハムスター』(新潮社刊)

「初めは短期連載の予定だったんですけど、出版社の方から“短期連載だけど人気が出たら長期連載になるよ”って言われて、“絶対に長期連載にしよう!”って気合入れて、頑張って描いてました。

全くの未経験だったので、とにかく“原作の先生に迷惑をかけるわけにはいかない”と思って、必死でやってました。第1話の背景なんて、もうサイズも何もかもメチャクチャで。単行本作業のときに“直してください”って言われて地獄を見ました(笑)。描きながら学んでいきました」

漫画を描くうえで経験が足りないと感じたヤシンさんは、練習として飼っているキャバリアのことを漫画にして描き、Twitterにアップすることを始める。これが後に単行本として出版されることになる『うちのキャバリアは番犬にならない』となった。

「練習のために犬の漫画を描き始めたんですよ。それをTwitterにアップしていたら、声をかけていただいて、本にしていただきました」

▲『うちのキャバリアは番犬にならない』(KADOKAWA刊)

Vシネマでいろんなおじさんを研究

ニュースクランチで連載中の『この探偵、犬かもしれない』について、まずこの漫画を描くことになった経緯から話を聞いた。

▲『この探偵、犬かもしれない』(小社刊)

「以前、Twitterに上げた“中年男性とマスコットのコンビものが見たい”っていう落書きがあって、それを練り直した感じですね。外見は小さくって可愛らしいけど、中身がそれに伴ってないキャラが好きなんですよ。

▲『この探偵、犬かもしれない』第2話より

それで、“中身がおじさん”っていう設定が出てきました。渋い俳優さんみたいな感じがいいんじゃないかと思って、Vシネとか見て、いろんなおじさんを研究しました」

▲『この探偵、犬かもしれない』第3話より

この漫画はギャグやキャラクターも魅力的だが、犬の表現がリアルなところも見どころだ。実際に犬を飼っているヤシンさんだけあって、飼い主視点から見た犬の可愛さがよく表現されている。

「飼っている犬に、私の専属モデルをやってもらってます。乾の顔の角度とかで困ったときは、犬の顔を見ながら描いてます。第8話の乾の寝顔は、舌が丸まる感じとかリアルに描けました。“ポウッ”っていうのも、寝てるときに口の中で鳴くので、そう聞こえるんですよ」

▲『この探偵、犬かもしれない』第8話より

以前は線画のみアナログで描いていた漫画だが、現在はすべてデジタルで描いているというヤシンさん。1話を描くのに、およそ1週間ほどかかるそうだ。

「ネームがあって、セリフを全部打ち込んだ状態のものから1~2週間かけて作画してます。物とか人間キャラが多いと、ちょっと時間がかかって苦しいんです。乾の顔ばっかりのときはボーナスステージだと思って描いてます。8話は乾ばっかりだったのですごいうれしかったです(笑)。

私、下描きをすごく丁寧にするタイプだったんです。あるとき、下描きをそのまま線画にできるデジタルのほうが早く描けるんじゃないか、と気づいたんです。それから描くのがめちゃくちゃ早くなりました。

色塗りに苦手意識があるんですが、デジタルだと色の調整がきくのでうれしいです。 アナログだと色が合わないとき、イチからやり直すってなったら大変なんですよ。 デジタルだとやり直しにも勇気が出ますね」

自分のキャラの着ぐるみに入りたい

ヤシンさんの家では小学生の頃から犬を飼っており、犬についてのエピソードは豊富にあり、漫画のネタに困ることはないと話す。

「小学生から中学生の終わり頃まではプードルを飼ってました。その子に関しては一緒に育ったので、兄弟みたいな感じでした。いま飼っているキャバリアは、孫みたいな可愛がり方してます(笑)。あまりにも可愛がるので、“お犬様”になってます。キャバリアが“こっち来て”って感じで鳴いたら、すぐ行きます。ホントはあんまり犬の言うこと聞きすぎたらダメなんでしょうけど(笑)。庇護欲というか母性が出てしまうんです。

▲これは…バブみがあふれている 本人X(旧Twitter)より

今も未発表の犬エッセイのネームが溜まっています。話したいことはたくさんあるのに、清書する時間がなくて…(笑)。それが書籍になるなんて想像もしてませんでした。友達から“究極の推し活だね”って言われて、たしかに……と思いました。ぬいぐるみも作って、グッズも作って、クラファンもして、漫画も出して。めちゃくちゃ推し活してます。

自分で描いた犬の絵をTシャツにしたりしてますから(笑)。親が欲しいっていうんで作ったんです、家族全員分。もう犬ファンクラブですね。インスタとかでグッズ化されたぬいぐるみを撮ってアップしてくれる人もいるんですけど、絶対に飼っている犬とツーショットなんですよ。そういう写真を見るとうれしいです」

▲自分がモデルのぬいぐるみと並んで満足げ!? 本人X(旧Twitter)より

ヤシンさんはSNSに時折、自身が思ったことを漫画にして載せることがある。そのモチベーションやアイデアはどこから湧いてくるのだろうか?

「基本的には何か作品などを見て、“私だったらこうしたい”と思うことが多いです。例えば、『美女と野獣』みたいに、もともと化け物だったキャラクターが人間になる展開があったとして、“私だったら化け物のままのほうがいいな”と思ったら、そっちを描いてみるとか。

SNSに上げるときに、文章で“この展開より、こっちの展開のほうがいい”って書くと、トゲがあるように見えるじゃないですか。それよりも作品として出したほうが、トゲがなく見てもらえるようになってるかなと思って。議論したいわけじゃなくて、“これが好きなんだ”って伝えたいだけなので。自分の意見をうまいこと昇華したいっていう気持ちで思いつくことが多いです」

最後に今後やってみたいことを聞いてみると、「なったことのないものになりたい」という答えが返ってきた。それについて深く聞いてみる。

「グッズ化はご縁があって、いろいろしてもらってるんですけど、フィギュアとか、ソフビとか、アニメっぽいグッズにあんまりなったことがないんです。そういうのに携わりたいなと思います。

あとは……着ぐるみとか。自分のキャラの着ぐるみと、何も知らないふりして握手したいですね。“かわいいー!”とか言いながら触りたいです(笑)。自分がその着ぐるみに入るのもいいですね。着ぐるみに入ってむちゃくちゃな動きもしてみたいです(笑)」


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