人質4人救出のイスラエル軍作戦、パレスチナ人274人死亡か ガザ当局発表

イスラエル国防軍(IDF)は8日、パレスチナ自治区ガザ地区中部にあるヌセイラト難民キャンプを攻撃し、人質4人を救出した。この作戦について、イスラム組織ハマスが運営するガザ保健省は9日、この作戦で子どもを含むパレスチナ人274人が死亡したと発表した。

IDFは8日、ヌセイラト難民キャンプとその周辺でハマスと激しい銃撃戦を繰り広げたほか、空爆を実施。結果的に4人の人質を救出した。

救出されたのは、昨年10月7日にガザとの境界近くで開かれていた「スーパーノヴァ」音楽フェスティバルの会場から連れ去られたノア・アルガマニ氏(26)、アルモグ・メイル・ジャン氏(22)、アンドレイ・コズロフ氏(27)、シュロミ・ジヴ氏(41)。4人は救出後にイスラエルに戻った。

イスラエル軍は、この作戦で推定100人弱が死亡したとしている。

しかし、ガザ保健省が公表した最新データによると、274人が死亡した。この数字が正確だと確認されれば、8日はイスラエルとハマスの紛争で最も死者数が多かった日の一つとなる。

人質解放に歓喜も、「多数の死者」に批判高まる

ガザのこの人口密集地で暮らす人々は、激しい砲撃や銃撃にさらされる恐怖について語った。

アブデル・サラム・ダルウィッシュという男性は、市場で野菜を買っていた時に上空を飛ぶ戦闘機の音と銃声が聞こえたと、BBCに語った。

「その後は、複数の人の遺体がばらばらになって路上に散乱し、壁が血で汚れていた」

人質が家族のもとに戻ったことを受け、イスラエルでは祝福の声があがった。ジョー・バイデン米大統領ら世界の指導者たちも、人質解放の知らせを歓迎している。

一方で、ガザ内での作戦が多数の犠牲をもたらしたと批判が高まっている。欧州連合(EU)のジョゼップ・ボレル外務・安全保障政策上級代表は、「最も強い表現で」非難すると述べた。

「ガザからの、新たな民間人虐殺の報告はぞっとするものだ」と、ボレル氏はソーシャルメディアに

した。

イスラエルの閣僚の1人は、EUはハマスが民間人の陰に隠れていることを非難する代わりに、EU市民を救ったイスラエルを非難していると指摘した。

ヌセイラト難民キャンプをとらえた複数の画像には、激しい砲撃と死者を悼む人々の姿が写っている。

ガザのアル・アクサ病院とアル・アワダ病院は、両病院で合わせて70人の遺体を確認したと発表した。

ガザ保健省は、2時間にわたる作戦の最中に殺害されたとするパレスチナ人274人のうち、86人の名前を公表した。

IDFのダニエル・ハガリ報道官は先に、「正確な情報」に基づく「高リスクで複雑な作戦」での死傷者数は推定100人以下だとしていた。

イスラエルのヨアヴ・ガラント国防相は、特殊部隊は人質救出の際、「激しい攻撃の下で」活動したと述べた。作戦で特殊部隊の将校の1人が負傷し、搬送先の病院で死亡した。

IDFによる襲撃直後を撮影した複数動画には、殺りくの光景が映し出されている。

アル・アクサ病院からの動画には、多数の重傷者が地面に横たわる様子が映っている。血で汚れた床には、医師が患者の間を移動できるようなスペースがほとんど残っていないことがわかる。

別の動画には、新たな患者を乗せた車や救急車が頻繁に到着し、患者が建物内へ運び込まれる様子が映っている。

アル・アウダ病院の院長は、病院に運び込まれる死者の数は8日の間中、増加し続けたと、BBCアラビア語に語った。

マルワン・アブ・ナセル医師はまた、院内には運ばれてきた遺体を収容する遺体安置所がないと述べた。

ガザ住民から異例のハマス批判

昨年10月にこの紛争が始まって以降、親族40人以上が殺害されたという男性は、自宅にいたところ空爆を受けたとBBCに語った。

「子どもたちや女性たちが家の中に入るとすぐに爆撃が起きた。家の中にいた全員の命が奪われた」と、この男性は話した。

「この家にはかつては約30人が住んでいて、その後50人にまで増えていた。その家が爆撃を受けた。(中略)私と父と妻と青年1人だけが生き延びた。(中略)50人のうち生き残ったのは私たちだけだ」

この流血の惨事に、ガザ市民からはめずらしく、ハマスへの激しい批判が噴出した。

ハッサン・オマル氏(37)はイスラエルの攻撃で不必要に人命が失われたことを嘆き、「イスラエル人人質1人につきパレスチナ人囚人80人を、流血なしに解放できたかもしれない。それなら100人の死者を出すより100万倍ましだ」とBBCに語った。

「損失を止めることは利益の一部であり、カタールのホテルから我々を支配しようとする者たちを追い出すべきだ。これが、私のハマスに対するメッセージだ」

合意か、軍事行動か

イスラエルとハマスの間で停戦と人質解放に向けた取り組みが行われる中、今回の人質救出作戦が実施された。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はハマスとの合意に応じるよう求められているが、政権を支える極右勢力は人質を取り戻すには軍事行動しかないと首相に強く働きかけている。

8日の作戦はイスラエルにとって、IDFによる人質救出作戦としては最も成功したものといえる。複数アナリストは、ますます圧力を受けるネタニヤフ氏の計算に変化をおよぼす可能性があると指摘する。

ヌセイラトでの軍事攻撃を受け、ハマスの政治指導者イスマイル・ハニヤ氏は、イスラエルは自分たちの選択をハマスに強いることはできないと述べた。

そして、パレスチナ人の安全保障を実現しない限り、自分たちハマスは停戦合意には応じない方針だとした。

ハマスは昨年10月7日のイスラエル南部への襲撃で約1200人を殺害し、250人以上を人質に取った。

ガザには今も、IDFが死亡したと推定されると発表した41人を含む116人の人質が残っている。

昨年11月の合意では、1週間の一時停戦と、イスラエルの刑務所にいるパレスチナ人囚人約240人と引き換えにイスラエル人人質105人の解放が実現した。

ハマス運営のガザ保健省は8日、ガザでの死者数が3万7084人に達したと発表した。

(英語記事 Gaza health ministry says Israeli hostage rescue killed 274 Palestinians

© BBCグローバルニュースジャパン株式会社