歴史に残る韓国の名作映画をYouTubeで公開している韓国映像資料院が設立50周年を記念し、評論家など映画関係者240人が選んだ「韓国長篇映画100選」を発表した。対象は1934年~2022年まで劇場やオンライン、映画祭で公開された作品で、2023 年6月1日から8月31日まで3カ月間アンケート投票を行い、100本が選ばれた。
その6位から10位には、イ・チャンドン、ホ・ジノ、パク・チャヌク、ホン・サンスなど社会派や芸術性の高い監督の作品がランクインしている。(記事全2回のうち後編)
■6位『馬鹿たちの行進』(1975年)/ユン・ソクホ監督四季シリーズ父親役、ハ・ジェヨンの青春スター時代
今夏、日本でも公開される『ソウルの春』は朴正煕大統領の暗殺から物語が始まるが、本作は朴大統領による民主化運動弾圧が徹底的に行われた時代のほろ苦い青春映画だ。
主人公は二人の大学生で、そのひとりを演じのたがハ・ジェヨン。名前を聞いただけではピンと来なくても、『冬のソナタ』のユジン(チェ・ジウ)の父役、『天国の階段』のチョンソ(パク・シネ)の父役、『夏の香り』のウネ(シネ)の父役といえば、顔が思い浮かぶだろう。表情に乏しくどこか陰のある彼のたたずまいは、いかにも70~80年代の青春スターらしい。
■7位『ポエトリー アグネスの詩』(2010年)/『梨泰院クラス』『イカゲーム2』出演イ・デヴィッドの悩ましい中学生役
老いと向き合いながらも、詩を愛し、充実した老後を送っていた女性(ユン・ジョンヒ)が、中学生の孫が深刻な事件に関わっていることを知ってしまい苦悩する話。
孫に扮したのはのちに『梨泰院クラス』で主人公セロイ(パク・ソジュン)の高校のクラスメイトを演じ、『イカゲーム2』にも出演するイ・デヴィッド。また、名バイプレイヤーとして多くのドラマに出ているアン・ネサンも加害者グループの一人の父親役として出演。事件を公にすまいと策を弄する姑息な大人を生々しく演じている。
また、『ドクター・スランプ』のチャン・ヘジンもチョイ役で出ているので探してみてほしい。
■8位『八月のクリスマス』(1998年)/スペック競争時代の映画やドラマに疲れた人に観てほしい素朴なラブストーリー
日本の韓国映画ファンにとっては、2位の『殺人の追憶』とともにオールタイムベストワンに挙げられることが多い作品。映画でもドラマでもこの十数年は、韓国のスペック競争の激しさを反映し、格差や貧困、人々の心の闇を描いた作品が多いが、そうした作品に疲れた人にぜひ観てほしい素朴なラブストーリーだ。
純朴な青年役に1990年代のスーパースター、ハン・ソッキュ。相手役のうぶな公務員役に芸能界を引退して久しいシム・ウナ。また、青年の妹役のオ・ジヘは、のちにパク・ウンビン主演『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』の裁判長やパク・ヘジン主演『国民死刑投票』で女医を演じたベテラン女優だ。
■9位『別れる決心』(2022年)/パク・ヘイルとタン・ウェイの距離感と韓国沿岸部の風光が見もの
パク・チャヌク監督らしいおどろおどろしい作風が『お嬢さん』で一段落し、新境地を開拓したといわれる作品。
パク・ヘイル扮するナイーブな刑事と香港の女優タン・ウェイ扮するミステリアスな容疑者の微妙な距離感が本作の見せ場だが、韓国の田舎町の風景も見ものだ。
撮影地は慶尚南道の釜山、機張、馬山、南海。全羅南道の順天、宝城。忠清南道の泰安。江原道の三陟、旌善、束草など広範囲に渡っている。
■10位『豚が井戸に落ちた日』(1996年)/ソン・ガンホの映画デビュー作にしてホン・サンスの監督デビュー作
ここ数年のホン・サンス監督の水墨画のような映像世界とはかなり趣の違う作品。次作の『カンウォンドのチカラ』ともまた違った作風だ。
主演は『ソウルの春』『模範タクシー』『ミスター・サンシャイン』『新感染 ファナル・エクスプレス』のキム・ウィソン。最近は喜怒哀楽のはっきりした役柄が多いが、本作では鬱々とした小説家を演じている。
『豚が井戸に落ちた日』はじつはソン・ガンホの映画デビュー作でもある。出番は多いとは言えないが、1990年代風のスタイリッシュな作家という彼らしからぬ役柄だ。ソン・ガンホはこの翌年、イ・チャンドン監督の『グリーン・フィッシュ』のリアルなチンピラ役で脚光を浴びる。その2年後、『反則王』で主役を張り、2000年に『JSA』、2003年に『殺人の追憶』に出演。スター街道を歩むことになる。
小説家とその彼女と三角関係にある映画館職員役は、『コンクリート・ユートピア』でアパートの209号室住民に扮したソン・ミンソク。彼も1990年代から30作近い映画に出ているバイプレイヤーだ。
これらの作品は、韓国映像資料院のYouTubeで公開年順に順次アップロードされる予定だ。