イスラエルのガンツ前国防相、戦時閣僚ポストを辞任 ガザ戦闘終結後の計画めぐり首相と対立

イスラエルのベニー・ガンツ前国防相は9日、戦時内閣の閣僚ポストを辞任すると発表した。ガザ地区でイスラム組織ハマスとの戦闘が終結した後の計画をめぐり、ベンヤミン・ネタニヤフ首相との対立の深まりを示すかたちとなった。

ガンツ氏は9日、テルアヴィヴで記者会見し、辞任を発表。「重たい気持ち」で決断したとした。

「残念ながらネタニヤフ氏は、我々が真の勝利へ近づくことを妨げている。真の勝利こそ、今も続くつらい危機に正当性を与えるものなのだが」と、ガンツ氏は批判した。

ガンツ前国防相は、選挙の実施日を決めるようネタニヤフ首相に求めた。前国防相は、首相を脅かす対抗馬になり得るという観測もある。

ネタニヤフ氏はこれに対し、「ベニー、今は戦いをやめる時ではない。今は力を合わせるべき時だ」とソーシャルメディアに投稿した。

ガンツ氏は先月、ネタニヤフ氏に対し、イスラエルがガザにおけるハマスの支配を終わらせ、同地区に多国籍の文民政権を樹立することなど6つの「戦略的目標」をどのように達成するのか、6月8日までに示すよう求めた。

ネタニヤフ氏は当時、ガンツ氏の発言は「イスラエルの敗北」を意味するものだと一蹴した。

元陸軍大将で、ネタニヤフ氏をたびたび批判してきたガンツ氏は、ネタニヤフ氏とヨアヴ・ガラント国防相とともにイスラエルの重要な意思決定をする「戦時内閣」のメンバーだった。

ネタニヤフ氏の政敵で、元軍参謀総長のガンツ氏率いる中道政党「ナショナル・ユニティ」は2023年10月11日までは野党だったが、同年10月7日のハマスによる攻撃をきっかけにガザでの戦闘が始まった後、緊急の戦時政権立ち上げに合意した。同党は戦時政権で5つのポストを維持している。

政府におけるガンツ氏の影響力は、ネタニヤフ氏の連立政権に参加する極右政党に対抗できるだけのものとみられてきた。

ガンツ氏はこの日の記者会見で、個人的に政府から離脱するだけでなく、自身が党首を務める政党「ナショナル・ユニティ」も離党すると述べた。

政権は続くが

ネタニヤフ氏側はイスラエル国会(120議席)で64議席を確保しているため、今回の動きによって政権が転覆することはないとされる。

しかし一方で、ネタニヤフ氏はさらに孤立を深め、同氏の戦争の進め方をめぐる政治的な深い分断をあらわにした。

ガンツ氏の辞任発表直後、極右政党を率いるイタマル・ベン=グヴィル国家安全保障相は、自分を戦時内閣に参加させるよう要求した。

ベン=グヴィル氏が参加する右派連合は、連立与党としてネタニヤフ政権を支えている。この右派連合は、ジョー・バイデン米大統領が発表した停戦案をイスラエルが受け入れるなら、連立から退き、現政権を崩壊させると警告している。

野党トップのヤイル・ラピド氏は、ガンツ氏の決定は「重要かつ正しい」ものだとソーシャルメディア上で支持した。

ガンツ氏の辞任発表は、アントニー・ブリンケン米国務長官が中東歴訪に出発する前日に起きた。ブリンケン氏は停戦合意を実現するよう迫るべく、3日間でイスラエル、エジプト、ヨルダン、カタールを訪れる予定だった。

こうした中、イスラエル国防軍(IDF)は9日、昨年10月のハマスの攻撃を防げなかったとして、IDFのガザ師団を率いる上級司令官を辞任すると発表した。

ハマスの攻撃後に辞任したIDF戦闘司令官は、アヴィ・ローゼンフェルド准将が初めて。

(英語記事 Israeli war cabinet minister Benny Gantz quits emergency government

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